みつばちのはなし ①

たじま よしお

 「蜂になった男」という本が信濃毎日新聞社から発行されたのは25~26年くらい前だったでしょうか。その「男」は長野県の上伊那郡中川村の人だったと記憶しています。その中川村の若者たちが中心になって「だれもしらないミツバチのものがたり」というミュージカルをいろんなところで上演していまして、私は当時南信州の郷里の近くの「新聞配達区域外」に住んでいて、時に人里へ降りてゆき、そのミツバチのミュージカルを何回か鑑賞しました。その新聞配達区域外の私の住いから、車で約1時間の集落にYさんという養蜂家がいてその方の指導で養蜂のまねごとに手を染めることとなりました。家のまわりに三つの巣箱を備え付け、ミツバチが好むと言われている菜の花の種を蒔き下記挿絵のようにいっぱい咲かせました。しかし、ミツバチは一匹も入ってくれませんでした。
 Yさんという専門家の指示に従っていましたから手抜かりはなかったと思います。

 私の生まれ育った集落は標高にして100メートルほど降った「新野」というところで、そこの人たちもその巣山へ巣箱を持ってきて備え付けてありましたがミツバチが入った形跡は見られませんでした。その新野の地形は盆地になっていて稲作の盛んなところですから、多分農薬を散布しているでしょうけど、そこから海抜にして100メートル高い巣山では私は野菜は栽培していましたが、消毒はもっぱら木酢液を薄めたものです。木酢液というのは木を蒸して木炭をつくる時に煙突から出る液体のことで、それを水で薄めて散布するのです。それでも、ミツバチは来てくれない、これは一体どうしたことかと思いました。

 さて、今年の2月中旬に所用で地域の(東京・東久留米)の郵便局へ行ったところ、その一隅にハチミツが展示されていました。その発売元は山田養蜂所ですがよくラベルを見ると全部外国産です。「ニュージランド産のマヌカ蜂蜜・200g ¥2370/ルーマニア産 アカシア蜂蜜 300g ¥2592」などです。私はずっと以前体調が優れないとき、山田養蜂所のハチミツを愛用して元気を取り戻したことがありましたのでびっくりしました。早速その近くのスーパーを覗いて見ましたが、やはり外国産蜂蜜がずらり並んでいて、国産のものもいちぶ置いてありました。

 それから1カ月ほどして「ネオニコチノイドが日本を壊す/高文研・水野玲子著」が東京新聞の広告欄に載っていて早速近くの本屋さんで購入しました。本書の「まえがき」と第1章は次のようになっています。(以下引用)

「消えたミツバチ」


 「ミツバチ大量失踪」のニュースが世界を駆けめぐったのは、1990年代の初めのことだった。このままミツバチがいなくなったら、農作物の受粉ができなくなり食料需給にも影響する。世界中の人々の危機感が高まった。そして、ついにEUは2018年、その原因とされた新農薬ネオニコチノイド三成分の屋外での使用中止を決断した。ところが、日本では、ネオニコチノイド農薬の危険性さえ、未だに多くの人に認識されていないどころか、今日でも相変わらず大量使用の状態が続いている。

 そんな中、第2世代ネオニコチノイドと呼ばれる第一世代のネオニコチノイド農薬の毒性とあまり変わらないどころか、さらに毒性が高い農薬が、代替成分として使われ始めた。次から次へと名前を変えては、危険な農薬が登録されて国民の食卓に届き始めている。

 すでに日本でもミツバチだけでなくトンボやスズメが減り、ウナギやワカサギなどの水産資源がネオニコチノイド農薬によって大きな打撃をうけている証拠が科学者らによって示されている。そして河川も湖もこの農薬によって汚染され、今日では大多数の日本人の尿から、ネオニコチノイド農薬が検出されている。

 それに加えて、胎児まで影響が及んでいる証拠が発表された。もはや、この農薬が子供の脳や神経系の発達に及ぼす影響は避けられない。しかも最近の日本では、自閉症やADHDなど子供の発達障害も増加している。それら神経疾患が激増する原因のひとつとして、どうしてわが国では、背後に農薬の存在があることを危惧する人がほとんどいないのだろうか。

 そもそも、この農薬のターゲットは虫の神経系を攻撃して殺すことだったはずだが、その影響が私たち人間にも打撃を与えはじめているに違いない。知らない間に少しずつ日本人の神経系の″マヒ″が進行しつつあるのではないだろうか。このような状況では、ネオニコチノイド農薬の使用を減らさない限り、この先、日本の子供の健全な発達などあり得ない。
……略……

 経済成長を優先して突き進んできたわが国で、農薬企業の儲けにつながる農薬の大量使用は、経済的に日本を潤うかもしれないが、一方で国民の命を削ることにつながる。何の疑いもなく、諸外国ではありえないほど農薬残留基準の緩和を行なっているわが国は、子供を農薬漬けにしてその未来を危うくしている。そのことを多くの人が理解し、わが国の農薬大量使用の政策が、少しでも農薬削減の方向に向かうことを心から望みたい。(P3~4)

ミツバチの被害はつづく

岩手県盛岡市 ますます弱るミツバチ

 2005年夏のことだった。岩手県の養蜂家、藤原誠太さんはそれまで経験したことがないほどのミツバチの大量死を経験した。数十の巣箱の周辺が、足の踏み場もないほどミツバチの死骸で埋め尽くされ、近くで歩くハチはよたよたしていた。

 この年、岩手県だけでなく東北各地の養蜂家にも同じ被害が起きていた。農薬によるハチの被害はその時始まったことではなかったが、この時の様子は明らかにいつもと違っていた。このような突然のミツバチの大量死は、何か新規薬剤に違いないと藤原さんが思っていたところ、あたらしいネオニコチノイド農薬(成分名クロチアニジン)ダントツを撒き始めたという情報が入った。(p18)

長崎県対馬市 日本ミツバチが激減

 2014年5月、ミツバチの保護活動を行なっている御園孝さんが対馬で知ったニホンミツバチの状況は酷いものだった。下島の養蜂家上野弘さんの話では、最近自分が飼っているニホンミツバチの様子が何かおかしい。山のふもとの水田地帯のまわりに置いていたニホンミツバチが、幼虫を引きずり出して捨ててしまう。この現象は、西日本一帯で最近猛威をふるっているサックブルード病と言われるウイルス病の特徴だが、巣箱に蜜はたまらないしハチは生まれてこない。危機感を募らせていた上野さんは上島にも見に行ったが、ここでもミツバチは徐々に減少していた。……略……

 部落の農家の話では、2012年にカメムシが異常発生し、今まで使用していた農薬では対応できず、スタークル剤をまくだけで完全に駆除できるようになった。ネオニコチノイドの効果は長く続くので害虫はいなくなったけれど、ハチもいなくなった。(P20)

秋田県男鹿市 国定公園の生き物が消える

 「生き物が野山や海から急に消えた」。2015年5月、秋田県男鹿半島で40年近く国定公園の管理をしている安田勳さんから、そういわれて訪れた私たちが知った事実は、予想をはるかに超えた生き物の消滅だった。

 秋田県では、2003年より新たに松枯れ防除剤としてネオニコチノイド農薬のエコワン3フロアブル(成分名アセタミプリド)が野山や海岸沿いの松林に撒かれ始めてもう10年近くになる。

 養蜂家たちは、水田にスタークル剤が撒かれるとミツバチがほぼ全滅するので、毎年新しく購入している。行政の指導に従って農薬を撒く時に巣箱を移動しても、ミツバチは弱る一方なので廃業寸前である。

 森林には、10年前にはどこにでもいたトンボやブヨ、カ、アリ、アブラムシなどがほとんど姿を消した。花粉を媒介する虫たちが消えたので、花はさくが実はならない植物も見られるようになった。そして海では、これまで沢山取れていたハマグリやコウナゴが減り、魚や貝類もめっきり取れなくなった。(P21)

兵庫県丹波市 ミツバチだけでなくイノシシも

 2015年5月、丹波でミツバチを飼っている山内英樹さんから電話があった。「昨年買ったミツバチは、やはり全部死んでしまった。だから今年も新しい群れを名古屋や岐阜から購入してハチが届いたばかりだ。今頃の季節から蜜をとるぐらいまでは何とか元気でいられるけど、それ以降、このハチたちも越冬することは今年もできないだろう。何とか生き残ってほしい」。山内さんの蜂場でミツバチがはじめて大量死したのは、2010年6月のことだった。その時、丹波地方では数百万匹のミツバチが大量死してニュースになったが、山内さんの120群いた越冬中のミツバチのほとんどが消えた。巣箱やその周辺にハチの死骸はなく、エサとなるミツも巣箱に豊富に残っていた。「ミツバチの失踪」という言葉があるが、まさにハチが蒸発した感じだった。それから5年、状況は変わらないどころか、むしろ悪化している。県伊丹農林振興事務所によれば、マツクイムシ防除のための森林への薬剤散布は、2008年に島根県出雲市で有機リン剤の散布で住民に健康被害が起きてから、ネオニコチノイド農薬に変更されている。

 ミツバチの飼育と同時に50年近くイノシシ猟をしている山内さんは、肉屋を始めてから30年になるが、最近ミツバチだけでなく、丹波の生き物全体に異変が起きているのではないかと感じている。神戸大学の星信彦教授が、ネオニコチノイドの鳥への影響を研究して精巣や卵巣などの生殖機能の異常を報告したと聞いているが、今年はイノシシもなぜかオスばかりが捕れ、オス特有の体臭もしなくなった。肉をさばいても精巣が特に小さく、昔に比べると4分の1しかないのだ。(P22~23)
(つづく)

菜の花

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