みつばちのはなし ②

たじま よしお

北海道上川郡和寒町 カメムシ防除の空中散布で

 2012年夏、広大な北海道の大地でもミツバチの大量死が今年も繰り返されていた。7月末、水田のカメムシ防除のための農薬散布の翌日、上川郡和寒町の羽佐田さん(59)の蜂場に置かれている50群のミツバチの約4分の3が死んだ。元気ならば200万匹もいるはずなのに、今年もまた死臭があたり一面を覆いつくし、むせ返った。

 この地で養蜂業を営む羽佐田さんは、花を求めて日本を縦断する移動養蜂家だ。中部地方で越冬したミツバチとともに、5月に新潟、6月に秋田、岩手へと移動して、夏は7月から北海道にやってくる。道内では、和寒、旭川、鷹栖町など20か所に巣箱を置きやく850群を育てているが、この辺りには、かぼちゃ、そば、小豆など豊かな蜜源が広がっているが。だが、「すばらしいミツバチ天国だった和寒の地が、今では地獄になってしまった」と羽佐田さんは嘆く。この地で壮絶なミツバチの大量死が起き始めてからすでに8~9年になるが、いつもそれは、水田のカメムシ防除のための農薬散布後に起こり、元凶はネオニコチノイド農薬のダントツ(成分名クロチアニジン)なのだ。(P23~24)

長崎県3地域 痴ほう症になったミツバチ

 2010年6月、長崎県養蜂組合長の清水美作さんは、昨年長崎県で起きたミツバチの異常な行動と大量死のことをとつとつと語っていた。

 「ミツバチは巣の前で、まるで痴ほう症になったかのようにウロウロしていた。ミツバチは夢遊病者かアルツハイマー病になったかのようだった。こんなことはミツバチを飼い始めて40年間全くなかったことなのだ。もしかしたら、新しい農薬のせいでミツバチの神経も行動もおかしくなってしまったのかもしれない」。長年ミツバチをいつくしんできた清水さんは、昨年目にしたミツバチのおかしさをそう表現した。神経をおかされたミツバチたちの哀れな姿、それはとても普通の状態とはいえなかったのだ。この年、長崎県では1910群のミツバチが死滅した。その年から長崎県ではダントツの使用が奨励されていたのだった。

 この年、長崎県の佐世保に住む日本ミツバチ養蜂家の久志富士男さんは”ミツバチが消滅しただけでなく、スズメも見えなくなった。虫が消えた”と声を大にして叫んでいた(久志富士男『ニホンミツバチが日本の農業を救う』高文研、2009)。……
略 ……
 この事態をなんとか多くの人に知らせようと久志さんは「ミツバチを助け隊」を組織した。地元長崎でもダントツの使用禁止を訴え、長崎県北振興局と本庁に対策を求め、ついに、県北地域農業振興協議会(振興局、農協、市町村で構成)が立ち上げられ、全国に先立ち県北の3地域でダントツの使用自粛が申し合わされた。(P25~26)

神奈川県三浦市 抹殺された土壌微生物

 神奈川県の三浦大根の産地でも、ミツバチの異常事態が発生していたことが報じられた。2009年4月10日の横須賀市のタウンニュースによれば、秋谷の元県養蜂組合長の関正喜さん(77)の2カ所ある養蜂場で前年夏にミツバチが大量死した。9割以上の働きバチが帰ってこないという事態が発生した。

 関さんは語った。

 「この冬を越せたミツバチは80群のうちたったの5群だった。働きバチが大量死して群れが全滅してしまった。これまで40年以上ミツバチを育ててきてこんなことは初めてのことだ。6月のある雨の日のことだったが、ハチが大量に巣門の前だけでなく、あちこちで死んでいた。おそらく、みかんの消毒にやられたに違いない。咄嗟にそう思った。あわてて巣を閉め、残っているハチを助けようとトラックに積んでいそいで安全な場所に運んだ。この時は1日でミツバチが何万匹死んだかわからないほどだった。この年、三浦半島全体で260群がほぼ全滅した。この土地では、みかん栽培に熱心な農家程よく消毒する。昔は自分のところは何回消毒をしたと自慢しあっていることもあった。薬は撒けば撒くほど良いという考えが農家に浸透していた。だから農薬、除草剤、土地改良剤をたんまり撒く。最近、三浦農協ではネオニコチノイド剤のダントツを大量に使っているが、それだけではない。何が入っているかわからない土壌改良剤という薬剤を、土壌の地下までガス化して注入している」

 そしてこの三浦半島のスイカの産地では、最近奇妙な光景が見られる。収穫したあとに畑に残ったスイカが自然に腐らないのだ。プラスチックのようにそのまま畑に残っているので、仕方なく農家が金を払ってトラックでわざわざゴミ焼却場へ持って行って焼却してもらったそうだ。薬で土壌の微生物がみんな殺されてしまって、畑に残った作物が自然に腐敗することもできなくなったに違いない。
(P26~28)

日本養蜂はちみつ協会

 (養蜂業者の約半数の2500が加盟)によれば、2009年の全国における農薬によるミツバチ被害は、報告されただけでも1万1553群(1群は2万~4万匹)、被害総額が2億5000万円を超えた。この年長崎県では1910群、三重県では1050群、北海道では1451群、岩手県では946群が死滅し、合計28府県から農薬被害が報告された。同年、ダニ被害などの他に、原因不明とされたミツバチの死滅数も6000を超えており、それらもまた、謎の死だった。そして、前年(2008年)にもほぼ同様の被害が各地で起きていた。全国で1万1659群(北海道4487、岩手1010、和歌山1300など)のミツバチが農薬による被害で死滅した(日本養蜂はちみつ協会「日峰通信」2008~2012)。(P28~29)
(つづく)

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