読書案内『脱成長のポスト資本主義』

白川真澄 著 社会評論社刊:2500円+

 本書の著者・白川真澄さんは80歳という高齢に達した今、情熱をこめて現代資本主義に対決するオルタナティブとしての新しい社会のための闘いに、どのように取り組むべきかというテーマに正面から挑戦している。

「資本主義を乗
り超える」とは

 本書の「はしがき」の中で、白川さんは次のように述べている。
 「『反資本主義』とか『資本主義を乗り超える』と言うと、日本では『まだ、そんなことを夢見ているのか』と嘲笑される。しかし、資本主義の本家である米国やイギリスでは、若い世代の半数が『反資本主義』を支持するようになっている。明らかに、時代は変わりつつある」「問題は、資本主義を乗り越える社会の中身である。それは、国家が主役として振る舞う社会主義とは根本的に異なる。経済成長や生産性の向上や利潤の最大化ではなく、人びとの社会的必要性の充足を最優先する。金融や情報の最大化ではなく、ケアの活動が経済・社会活動の中心になる。自然生態系の循環のなかに経済と生活を埋め戻す。誰もが必要とするが誰のものでもない<コモン>を市民の手に取り戻す。『自己責任』ではなく、連帯と支え合いに依拠して生きる」。
 白川さんが主張する、こうした「社会」のイメージは、資本主義へのオルタナティブとしての「社会主義」の理念の根幹を成していたはずのものであり、私たちにとっては「社会主義理念の再生」としての意味を持つものだろう。もちろん現実の旧ソ連邦や現在の中国がそれとはほど遠い圧迫・差別に彩られたものであった以上、私たちはその歴史的克服のための闘いに多大なエネルギーを必要とするのだが、その労力を避けて通ることが出来ないのも確かなのだ。それはもちろん「間違ったスターリニズム」に「本来の社会主義」を対置してすませられるものではない。

ポスト資本主義
社会のイメージ
 その点で、私たちには各国での「新しい左翼」が挑戦しようとする資本主義にかわる「ポスト資本主義」のイメージを、現実のさまざまな運動の成果と失敗の中から、極めて意識的に創造していこうとする努力が必要だ。経験の蓄積を通じて、「新しい社会主義」のイメージを具体化していくことが必要なのだ。白川さんはこの社会について「社会主義」の用語を使っていない。「社会主義・共産主義の失敗」があまりにも人々にとってマイナスの歴史的イメージを大きく支配していることが、強い要因であることは確かだ。「社会主義・共産主義、あるいは労働者国家」の用語を使わないことに、私は文句を言うつもりなどない。
 だが、私たち自身は現実の資本主義やスターリン主義の独裁体制に対する人々の闘いの経験の中から、どのような政治と社会をめざしていこうとしてきたのか、人々が歴史的に積み重ねてきた運動とシステム、思想を歴史的かつ現代的に継承する立場から、「反資本主義と社会主義」の運動とシステムという主張に固執してきたのだろうと考えている。
 なにはともあれ、以下、白川さんの著作に即して私の考えることを追っていきたい。

「反資本主義」
を闘う意識性
 本書は大きく言って2部構成になっている。序文に続く第Ⅰ部は「オルタナティブは何か
――資本主義を超えて」であり、その第1章は「脱成長のポスト資本主義へ―新しい社会構想と運動」、第2章は「気候危機と脱成長・ポスト資本主義」、第3章が「ポスト資本主義の構想――オルタナティブは何か」。続いて第Ⅱ部が「資本主義の現在と行方」であり、その第1章が「立往生するグローバル化―資本主義の行方」、第2章「低成長の常態化、米中覇権争いの出現」、第3章「コロナ・ショックとデジタル資本主義」、第4章が「『新しい資本主義』は新しいか」。そして第5章の「ММT(現代貨幣理論)は何を見落としているか」、が終章となる。
 現代資本主義の実践と理論、現実に現れたその限界・矛盾・危機を「資本主義ではない、すなわち「脱資本主義」あるいは「新しい社会主義」の社会・経済・政治のあり方」へとつなげていこうとする挑戦については、「社会主義の再生」をめざす私たちにとっても決して「あとまわし」にすることができないテーマであることは間違いない。というよりも「社会主義の再生」にとって、現実に始まっている「脱資本主義」をめざす理論・実践・実験にどのような可能性や方針を見出していこうとするかの論議とその理論化、意識的な実験・実践は、運動の実践の中でも意識的に追求すべきであることは間違いないからだ。
 私たちは総評労働運動の終焉以後の実践の中で、地域に根差した労働運動の社会的防衛を中心にさまざまな経験を積み重ねてきたが、もう一度、「どのような社会を構想するのか」というイメージ」を柱とした運動のあり方を、あらためて論議を意識的に広げ、深めていく必要があるだろう。
 白川さんの著書については「ポスト資本主義」の「脱成長社会のあり方と、その実践」についても既存の理論とその実践的帰結について多くの批判を提起しており、その中から私たちがめざす労働・社会の構想についての試論的批判も行っている。
 白川さんは本書の末尾のまとめの中で、次のように述べている。
 「ひたすら経済的利益の最大化だけを追い求める資本主義は、けっして人間を幸せにしない。資本主義に代わる新しい社会は可能であるはずだ――若い時からずっと私が抱き続けてきたこの想いをあらためて言葉にして発すれば、次のようになる。この日本でも『反資本主義』の声をもっと大きく!『ポスト資本主義』の中身をもっと具体的に」。このスローガンは、私たちもおそらく共有するものだろう。       (純)

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