投書 非常戒厳と緊急事態条項
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「韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」宣布を受け、日本で議論が進む憲法改正による「緊急事態条項」新設がやり玉に挙がっている。一切の政治活動を禁じる非常戒厳と同様の危険をはらむという指摘だ」(2024年12月5日・木曜日『産経新聞』2面、内藤慎二)。
『産経新聞』はのべる。「立民や共産党を除く自民党や公明党、日本維新の会、国民民主党などが導入を目指す緊急事態条項の趣旨は、権利制限の色彩が濃い非常戒厳とは大きく異なる」。「自民幹部は緊急政令や議員の任期延長について「韓国の非常戒厳とは性格が異なる。国民や国会を守るものでむしろ真逆だ」と述べ、ミスリードや論点のすり替えに警戒を強める」(2024年12月5日・木曜日『産経新聞』2面、内藤慎二)。『産経新聞』は、日本で「緊急事態条項」を創設することに賛成であるようだ。
これに対して、『朝日新聞』は、日本で「緊急事態条項」を創設することに反対の意見を紹介している。「日本では戒厳は遠い出来事のように思える。しかし、旧憲法では緊急事態条項が四つも設けられ、その一つに戒厳があった。緊急事態条項とは、緊急時に政府に極度に権力を集中させるとともに、人権を大幅に制限する制度で、権力濫用と人権侵害の危険が高い制度である。旧憲法下では、緊急勅令を使って治安維持法が「改悪」されるなど、戦争への道を歩む中で人々の自由が制限されてきた。日本国憲法はこの反省に立ち、権力濫用の危険をなくすため緊急事態条項を一切設けていない。ところが、自民党は2012年に憲法改正草案を発表。有事や大規模災害などを想定し、緊急勅令のように内閣に法律と同じ効力を持つ政令の制定を認める制度や、首相による緊急の財政支出を認める制度を提案した。これに批判が集まると、今度は「国会議員の任期延長制」を強調するようになった。これは緊急時に国会の多数派の決議で議員の任期を延長する制度である。一見戒厳のように恐ろしそうではないが、多数派が緊急事態を口実に議員の地位を固定するだけでなく、多数派が総理大臣を指名することから総理大臣を固定することになる。政府が国会の多数派と一体になって長期間権力を掌握するいわば、「内閣独裁体制」の確立が可能な制度だ。任期延長制も戒厳も、ともに緊急事態条項であり、権力濫用の危険が極めて高い点で本質は同じだ。韓国の教訓は、緊急事態条項があればあっという間に独裁体制が確立できること、権力濫用の歯止めを設けても、権力者が実力を行使すれば無効にできることである。以上から、緊急事態条項を日本国憲法に創設することに私は反対である」(2025年2月7日・金曜日『朝日新聞』朝刊11面、弁護士 永井幸寿〈ながい・こうじゅ〉「私の視点」)。
『東京新聞』も、緊急事態条項の創設に批判的な意見を紹介している。「名古屋学院大の飯島滋明教授(憲法学)は「『緊急事態』や『非常事態』は権力者が政敵などを排除する手段として使われてきた」
とドイツやフランスでの過去の事例を紹介。「当時、最も民主的だとされたワイマール憲法下で、ナチスが緊急事態条項を何度も行使し、目障りな存在を拘束していった。フランスでも1960年代に緊急権が発動され、多くの人が警察に殺害された」と説明した。日本では憲法審査会で、大規模災害時などに国会議員の任期を延長できる緊急事態条項の創設に向けた議論が行われている。飯島氏は「現在、与党が過半数を割る状況で憲法に緊急事態条項があれば、予算が成立しない事態を『緊急事態』と認定して緊急財政処分を強行することも可能だ」と危ぶむ。緊急財政処分や緊急政令は憲法審査会でほとんど議論されていないが「改憲発議の際に任期延長と合わせて一括で提案される恐れもある」と強調した。日本での改憲の動きに李(イ)氏は「韓国は大統領制で議会と大統領がけん制し合う仕組みだが、日本の議院内閣制では抑制が働かない。もし日本に国家緊急権ができれば韓国より危ないのではないか」と考えを述べた。飯島氏は「韓国で6時間で解除されたのは奇跡。まともな緊急事態条項を設けて歯止めがあれば大丈夫ということではないと認識しなければならない」と訴えた」(2025年2月14日・金曜日『東京新聞』統合版18面、山田祐一郎)。
私は、憲法改悪に反対する。緊急事態条項の創設に反対する。天皇制に反対する。
(2025年3月25日)
【備考】「」内の「」は、『』にしていましたが、「」内に「『』」というのがあったため、そういう場合どうすればよいのかわからず、「」内も全部「」としました。
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