3・22「とめよう戦争への道」関西の集い

激変する世界に、新しい市民主導の外交を

【大阪】3月22日、エルシアター(大阪市内)で「とめよう!戦争への道・めざそう!アジアの平和2025春 関西の集い」が開催された。今年は三牧聖子さん(同志社大大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授)と猿田佐世さん(新外交イニシアチブ代表、弁護士、立教大学講師)をメイン・ゲストに、これまでの「護憲・平和」集会・デモとは少し様子が違う企画だ。

 司会は増田京子さん(箕面市会議員、「しないさせない戦争協力関西ネットワーク」共同代表)。
 最初に主催者(実行委員会)を代表して「大阪平和人権センター」理事長の米田彰さんが開催の趣旨を簡潔に説明する。
 「ウクライナ、ガザで侵略と殺戮が続いている。日本では昨年の総選挙で与党過半数割れとなったが、改憲派が3分の2近くを占めており、軍拡と改憲の動きは進んでいる。対抗する運動が大きな力となっていない。しかし、この間の韓国の大統領弾劾のデモを見れば若者が頑張っていて、かつての民主化を領導してきた世代と一緒になって、Kポップのノリで楽しそうに参加している。日本でも世代間の闘いの継承ということが課題になっている。被団協の運動に触発された高校生たちが始めた『核廃絶を目指す高校生平和大使』の運動はその可能性と希望を感じさせる。今日は、この高校生の代表からの発言も予定されている。デモはないが、視野を広げることでこれからの運動につなげたい」。

アメリカの今

 続いて三牧聖子さんの講演(別掲)。専門分野はアメリカ政治外交史で、最近はトランプの台頭で分裂と混迷を深める米国政治の中での「Z世代」の意識や行動の変化を丁寧に取材している。23年7月刊行の「Z世代のアメリカ」(NHK出版新書)以降、出版、新聞・雑誌、テレビでも精力的にアメリカの今を伝えている。今回の講演のタイトルは「トランプ2期目の2カ月─変容するアメリカ」。

新外交イニシアチブ(ND)の紹介

 新外交イニシアチブ(ND)は2022年11月に『政策提言 戦争を回避せよ』を発表している。ウクライナにおける戦争が長期化し、一方で『台湾有事』が叫ばれる中で、軍拡ではなく外交によって戦争を回避するための具体的な政策を考える上での基礎となる提言である。A4・8ページからなる政策提言とNDの活動を紹介するパンフレットが集会資料として配布された(NDのホームページからもダウンロード可能)。  猿田さんの報告はその後のバイデン政権後半から第2期トランプ政権の始動を経た現在の時点で、軍拡や戦争の拡大を止め、対話と外交によって平和を実現する課題がますます切迫している中で、7つの問いを発し、それぞれについてどのように考えるべきかを提案した。

猿田佐世さんの問題提起

猿田佐世さん

 ①トランプ政権の下で米国の対日政策は変わるのか?
 変化はあるだろうが、米国にとって日本が対中国政策やアジア政策において戦略的に重要であることは今のところ変わらない。日本が米国と手を切って独自で中国や朝鮮と対抗したり、台湾有事に介入することも非現実的だ。
 ②米軍が撤退して中国が台湾に攻め込んできたら、日本は戦争に巻き込まれるのでは?
 そういう心配がないわけではないが、必ずしもそうなるわけではない。実際にそうなってしまったら今の日本の軍事力ではどうすることもできない。戦争に巻き込まれることを心配するより、戦争に巻き込まれないように本気で努力すべきだし、むしろ米軍が撤退したほうが中国と台湾、南北朝鮮の軍事的緊張が減り、対話の道が広がる可能性の方が大きいと思う。
 ③ウクライナの状況から考えると、アジアでも中国が台湾に武力侵攻する可能性が高いのではないか?
 中国にとっては、台湾は今の状態で経済的に関係が深まっているので、それを壊してまで武力を行使する理由はない。あるとしてもその前段で双方からの挑発行動や戦争準備があるはずで、いきなり武力侵攻があるとは考えにくい。
 ④日本は中国に軍事的に勝てるか? あるいは攻撃を抑止できるか?
 ⑤日本の防衛力の拡大は可能か?
 今では中国は経済力で日本の5~6倍、毎年の防衛費の対GDP比でも大差がある。日本の防衛費をこれ以上拡大することは難しいし、これ以上人々の生活を犠牲にすることはできない。
 ⑥日本の防衛力を強化すれば日本は安全になるのか?
 過去の歴史を振り返ればわかる。軍備の拡大は戦争を抑止するどころか、近隣国との緊張を高め、戦争に導く。戦争の脅威を取り除くには、近隣国を脅すのではなく近隣国の安全を脅かさないこと、さまざまな外交ルートを使って安心できる関係を作ることが最も効果的だ。(⑦については時間の関係で省略)

三牧さんと猿田さんの対談

 ここからは2人の報告・問題提起に関わる対談。
 まず三牧さんから猿田さんに、「最悪のシナリオとして、ウクライナ停戦がウクライナの頭越しに米国とロシアの権威主義的政権の間の取引で進むようなことが見過ごされるなら、今後は米・露・中がそれぞれの『勢力圏』で何でもできるようになる。中国と米国の接近が伝えられている。それは悪いことではないが権威主義的な政権同士の取引であれば、大国中心の秩序ができるだけで平和や人権をもたらさない。ヨーロッパはトランプに追随するのではなく、アメリカが放棄した責任を自分たちで担っていこうとしている。日本もこれからは、そのような責任が問われるのではないか?」
 猿田さんの返答、「先日、アメリカの民主党の人たちとこれからの日米関係について意見を交わす機会があったが、あまり急激に変わることは現実的ではなく、周りの環境が変わるまで曖昧にしておく点があってもよい。台湾有事の問題は中国がそのような判断をする状況を作らないようにすることだ。グローバルサウスの諸国は、過去の経験から、大国との関係ではバランスを取りながら国際機関等を通じて独自の発言力を強めている。NDで多くの国の政府や民間団体との対話を重ねているが、ベトナム政府の外交政策はひとつのモデルだ。かつてベトナムを侵略した米国、中国や日本、フランスとも友好的な関係を築いており、平和的な環境の中でこの30年間に経済的にも見違えるように発展を遂げてきた。日本では保守層が今後の日米関係について心配しているが、私たちはむしろ、私たちの考え方をはっきり打ち出して、まず動いてみることが大事。かならず止められるという保証はないが、私たちが動かなければ止められないことはまちがいない」。
……という雰囲気で対話が続いた。結論として「若者とグローバルサウスに可能性と希望がある。丁寧に対話を重ねて、互いの理解を広げていくことで変えられる」。

高校生平和大使の報告

 このあと高校生平和大使の「ジュネーブ国連欧州本部訪問報告」。昨年8月19日から24日まで、全国から選ばれた22人の(第27代)高校生平和大使がジュネーブの国連欧州本部を訪問し、軍縮会議日本政府代表部・市川とみ子大使との会見、国連軍縮会議の傍聴、国連軍縮局でのスピーチと広島・長崎市長のメッセージ、9万6428筆の署名・目録の提出、ジュネーブ安全保障政策センターと国連軍縮研究所の訪問などの活動に奮闘した。24日には長崎で帰国報告会を行い、全国のメンバーと共有しながら、活動をしていくことを再確認した。
 今回は関西の労働組合や市民団体48団体と個人94人の賛同を得て、約500人が参加した    (大阪支局・A)
 

アジアの平和をいかに実現していくのか(3.22)

三牧聖子さんの講演から

三牧聖子さん

トランプ2期目の2カ月─変容するアメリカ
  

 連日メディアを賑わしているトランプの外交政策を歴史的文脈で考えると「第二次世界大戦以降の国際秩序の終焉」を意味しているかもしれない。1月20日の就任演説やその前後のトランプとトランプ政権のキーパーソンの一連の発言から、トランプが言う「偉大なアメリカ」は、世界の最大の軍事力・経済力・政治的影響力を使って国際社会の中で指導力を発揮することではなく(そもそもそれが良いことかどうかは別として)、自国の利益をすべての基準にして、これまでの同盟国との関係も見直すことを意味している。バンス国務長官や民間人であるイーロン・マスクがドイツのAfDやハンガリーのオルバーン政権などの極右勢力と連携し、プーチンのロシアともつながってヨーロッパを分裂させている。6月にはトランプと習近平との会談も予定されている。
 しかし米国内やヨーロッパでは、まだ戦後の国際秩序や人権・民主主義・自由という価値観を守ろうとする人たちが抵抗しているので、どうなるかはわからない。アメリカとヨーロッパのどちらの民主主義が私たちの未来を示しているのか? 日本の私たちも自分の問題として考える時だ。 いろいろな可能性が考えられるが最悪のシナリオは第二次世界大戦末期に米・ソ・英の3国が自分たちだけで戦後の支配体制を話し合い、それぞれの勢力圏を認め合ったヤルタ協定をモデルにした「ヤルタ2・0」が米・露・中国の支配者の間で進められることだ。
 トランプ政権が連邦政府のDEI(多様性、公正性、包括性)プログラムを終了する大統領令に署名したことに関連するアメリカ社会の変化について具体的な動きを詳しく報告した。
 一言で言えば、多様性を否定し、マスク、ベゾス、ザッカーバーグなど新興AIに代表される富裕な男性による支配(ブロリガーキーまたはブロリガルヒ)が台頭している。この動きについて日本でも「多様性の行き過ぎが問題だった」という議論が聞かれる。たしかに民主党政権とくにバイデン政権の問題はあるが、トランプ政権下で起こっていることはそれとはレベルの違う問題だ。
 日米関係や日本の外交政策においても、これまで考えてこなかったような問題に対応しなければならない。これまでのように中国の軍事力に対しては米国が守ってくれるという前提は成り立たない。多様性と民主主義の価値観を共有することを基準に、日本の方向も変えていく必要がある。

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