書評 ヤニス・バルファキス著『テクノ封建制:何が資本主義を壊したのか』(下)

ウォルデン・ベロ

議論の明確化が必要

 私はバルファキスのパラダイムの重要な要素について、いくつかの意見があります。それらは批判的意見ですが、同志的な批判です。
第一に、彼が言う「クラウド・プロレタリアート」には低賃金のサービス労働者しか含まれていないように見えます。情報技術者やその他の情報関係の専門家、あるいはその仕事を支援するオフィス労働者はどうなるのでしょうか? 彼は本書の前半で後期資本主義における「テクノストラクチャー」の役割について述べていますが、この組織構造を構成する種々の階層がテクノ封建制の時代においては労働者ではなく経営者に含まれると考えているようです。ところがマッケンジー・ワークが強調しているように、新技術の開発に専心する技術者「ハッカー」は、巨大ハイテク企業のエリートによって収奪される価値の生成に寄与しています。
 第二に、本書の中でテクノ封建制の権力構造において誰が最高の権力を握っているのかという点において、少し曖昧さが見られます。本書の大部分ではジェフ・ベゾス、イーロン・マスク、ティム・クックといった巨大ハイテク企業を率いる超富裕層が権力エリートとして描かれています。しかし、バルファキスはクラウダリストに匹敵する権力を持つ金融界の超大物たちについても「・・・非公開株式や地上型資本家のすべてを合わせた力を上回る権力を持つ3つの米国企業︱︱BlackRock, Vanguard, and State Street ︱︱は、事実上アメリカの資本主義を支配している」と述べている。これはこれらの企業がそれぞれの事業部門における最も戦略的に重要な企業の支配株を保有しているためです。そうすると権力エリートは権力の源泉が異なるブロックに分割されているのでしょうか? 私たちは本当にポスト資本主義時代に生きているのでしょうか、それとも単に資本主義の新しい(より高度な、あるいは超高度の?)段階にすぎないのでしょうか?
 これは第三の問題と関連します。第三に、バルファキスはテクノ封建制の力学が独占資本主義の力学と実際にどう異なるのかをもっと説明する必要があるということです。
 進歩派、正統派を問わず経済学者はこれまで、自動車産業や医薬品産業のような独占または寡占の状況では、有力な企業は利潤を得ると同時に「レント」も得ている、と主張してきました。この場合の「レント」とは自由な市場競争の下で得られると考えられる利潤を上回る超過利潤のことです。自動車産業や医薬品産業と同様に、ハイテク部門でも寡占と熾烈な競争が存在しますが、その多くは「価格以外での競争」であり、その力学によって利潤とレントの両方が生み出されます。クラウダリスト間の競争の力学も、実際には同じことではないでしょうか。独占資本主義の下のレントは、テクノ封建制の下のレントとどう違うのでしょうか。たとえばGoogleの収益は、数量的な違いを除けば、JP Morgan, Johnson, Johnson,Toyotaなどの寡占企業の収益とどう違うのでしょうか。
 最後に指摘したいことは、国家とクラウダリストの関係の変化についてです。本書では国家は主に大不況の余波とパンデミックの最中に、中央銀行が無償の資金を提供することでクラウダリストの台頭を助長した存在として描かれています。
 しかし最近の展開では、国家は巨大ハイテク企業を取り込んで、行動の自由を抑制する動きを見せています。
 第一次トランプ政権下でもバイデン政権下でも政府は中国企業との先端的情報技術の共有を規制するなど、クラウダリストの利益を侵食する非常に厳しい規制を導入しました。
 たとえば、バイデン政権が2022年に導入した先端的AIチップの輸出規制によってNvidiaの中国のAIチップ市場におけるシェアは95%から50%へと劇的に低下し、同社に数十億ドルの損失をもたらしました。第二次トランプ政権下では、政府はさらに大胆な措置を導入しました。関税を課すことによってAppleのようなクラウド企業にグローバル・サプライチェーンの主要部分を米国に移転させようとしています。これが大きなコストと混乱を伴うにもかかわらずです。それでもAppleのCEOであるティム・クックは最近、連邦政府の主導的役割を認めて、「大統領は米国での生産拡大を望んでおり、Appleも米国での生産拡大を望んでいる」と述べました。

野獣を正確な名前で呼ぶことについて

 確かにバルファキスは、こうした最新の展開が示すように国家の役割がより顕著になっていることには言及しています。しかし彼はそのことが、彼がクラウダリストの強大な力として説明してきたことや、クラウダリストたちの将来についてどのような意味を持つのかについて十分には説明していません。
 地政学的な敵対関係が激化し、収益性よりも国家の安全保障についての懸念が優先事項となってきた中で、米国における政府と巨大ハイテク企業の関係は、『テクノ封建制』で描かれたような、国家が「クラウダリストの台頭を助長する」役割から、中国共産党政権とアリババやバイドゥといった中国の大手データ企業との関係に近いものに変化しています。
 中国の政治経済は国家資本主義あるいは政治的資本主義と呼ばれてきました(鄧小平による「中国的特色ある社会主義」という定義に固執しているのは中国共産党だけです)。バルファキスは政治経済の本質を理解するにはそれを「正確な名前で呼ぶ」ことが重要だと主張しています。私も同感です。しかし、米国の政治経済において国家がさらに大きな指令的役割を担うようになる可能性や、国家安全保障が収益性に優先する方向への変化が進む可能性を強調するには、「テクノ封建制」よりも適切な言葉が必要だと思います。(そうすれば「テクノ封建制」という言葉がフリードリヒ・ハイエクの古典的な反社会主義的新自由主義論集『隷従への道』を連想させるという問題を回避できるという利点もあります)
 「テクノ封建制」は刺激的な分析であり、論理的にも文章的にも優れています。政治経済や経済学の知識があまりない人たちにも伝わる内容です。完全に同意できない点や、より厳密に論じるべき点もあるかもしれませんが、現代を代表する進歩主義思想家の一人による本書が、私たちが生きる時代を理解する上で大きな貢献を果たしているという私の評価は変わるものではありません。    (おわり)

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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