投書「霧のごとく」(大濛、A Foggy Tale)を観た

涙が止まらなかった 国家の解体は、私たちの課題だ SМ

 川崎市アートセンターで、映画「霧のごとく」(監督:陳玉勲〈チェン・ユーシュン〉)/原題:大濛、英題:A Foggy Tale/2025年/台湾映画)を観た。2回観た。睡眠不そくのせいで、2回ともウトウトしてしまった。そして2回とも泣いてしまった。涙が止まらなかった。「再見」(ツァイチェン)は、いい言葉だな。そう思った。
 舞台は、1950年代、戒厳令下の台湾だ。兄の育雲(ユーユン〈華〉、ヨーフン〈台〉)はサトウキビ畑に隠れていたところを警察に見つかる。妹の阿月(アーユエ〈華〉、アゴアッ/アグエー〈台〉)は、兄を助けようとして必死に警察に抵抗する。だが育雲は、警察に捕まり、処刑されてしまう。白色テロだ。兄の死を知った15歳の阿月は、遺体を引き取るために1人で台北(タイパッ、タイペイ)へ向かう。途中で何回も「試練」に直面する。だが、彼女は、輪タクの車夫である趙公道(ザオ・ゴンダオ〈華〉、チウ・ゴンドウ〈広〉)らに助けられ、兄の遺体を引き取ることに成功する。そういう話が描かれている。

金馬奨(台湾のアカデミー賞)で5部門を受賞

 「本作は金馬奨(台湾のアカデミー賞にあたる)で『観客投票による最優秀作品賞』をはじめ5部門で受賞するほど幅広い支持を得た」(三澤真美恵〈日本大学文理学部中国語中国文化学科 教員〉、NAKACHIKA発行の映画パンフレット、17ページ)。台湾では「1949年からの10年間だけに限っても約2000人が処刑され約8000人が重罪となった」(同上、16ページ)。白色テロの一端だ。
 映画には、「移行期正義」、「本省人」対「外省人」の「対立」(注1)、童養媳(トンヤンシー)という女性差別の慣習などの問題が含まれている。「昔の台湾では阿霞(アハ〈台〉、アシア〈華〉/阿月の姉)のように将来的に養家の息子の嫁になる童養媳(トンヤンシー)・新婦仔(シンプア)として幼いうちに預けられたり、査媒嫺(ザボカン)といって下女のような形で養家にもらわれたり、養子縁組して養女にだされたりする女児取引の習慣があった。というのも、女児が生まれると経済的な理由から溺死させて間引きをする『溺女』という風習もあり、それよりはマシということで他家に養女に出していたからだ」(同上、18ページ)。

白色テロの犠牲者たちに捧げる映画

 「不幸な未来を招き寄せないために、不幸な過去を忘れまいとすることは、現在を生きる私たちみんなの義務だ」(温又柔〈おん・ゆうじゅう、Wen Yourou、小説家〉、映画パンフ、29ページ)。「映画のラスト、スクリーンには『歴史のなかで霧となり、雲となったすべての人たちにこの映画を捧げる』という言葉が静かに現れる」。「映画における『霧』は白色テロの時代に消えていった犠牲者たち、そして理想と現実の落差を知り、沈黙を余儀なくされ、それでも生きのびた無数の人々の象徴である」(栖来〈すみき〉ひかり〈文筆家〉、足元を確認しながら深い霧をかきわけて進む 台湾映画『大濛』〈ダーモン〉、『世界』2026年2月号、80~81ページ)。

台湾を植民地にした日本と日本人の責任

 「台湾で戦後長く行われてきた人権侵害とわれわれ『日本人』は決して無関係であり得ない。台湾を植民地にした日本は、台湾の未来に責任がある。それはまず、台湾が抱えてきた記憶をきちんと知るところから始まる」(同上、81ページ)。
 
国家の解体は、私たちの課題だ

 マルクス主義者は、革命後、国家を一時的に認めるが、徐々に解体していくはずだった。革命が世界的に勝利していない段階において、帝国主義国との対抗上、国家は必要だとしても、それは「死に向かって進む国家」であって、当然、民主的で革命的なコントロールのもとにおかれ、帝国主義国よりもはるかに民主的でなければならないはずだった。だが、スターリン主義者は、国家を肥大化させた。第3インター(コミンテルン)は、怪物を作り上げた。国家の解体は、革命的で民主的なマルクス主義者の課題であり続ける。革命的で民主的な左翼の課題であり続ける。私は、そう思う。
 台湾人バンザイ。中国人バンザイ。世界に平和を。帝国主義はいらない。国家はいらない。
【注1】(「本省人」「外省人」といった言い方は)「台湾社会の亀裂を深め、差別的な意味合いを持つこともあり、現在台湾の公的言語では慎重に扱われる傾向がある」(映画パンフ、11ページ)。
【注2】①登場人物のカッコ内の〈台〉は台湾語ヨミ、〈華〉は華語ヨミ、〈広〉は広東語ヨミを表す。②阿霞の後のカッコは映画パンフ18ページにはない。③温又柔さんの後のカッコ内の「小説家」をのぞく部分は映画パンフにはない。④栖来ひかりさんの『世界』の文章の中には出てくるが、タイトルには「大濛」の読み方は、書いてない。
(2026年6月7日)

20260524・川崎市アートセンター・「霧のごとく」

20260531・川崎市アートセンター・「霧のごとく」2回目

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