投稿 AI―資本の危険すぎる混沌
西島志朗
巨額費用にいら立つ投資家
AI開発とデータセンター建設に、膨大な資本が集中している。2025年には ビッグテックの 社債発行が 2000 億ドル超に達した。ビッグテックといえども自己資本では賄いきれず、1年間に、日本円にして32兆円もの借金をしたということである。
IT・ビジネス分野の調査・アドバイザリー企業であるGartnerによれば、2026年の AI 関連総支出は202兆ドル(約320兆円)、 世界の総投資の7・2%を占める見通しである。
しかし、投資に見合う収益が確保されているとは言い難い。日経新聞(4月7日)は、アメリカの投資家がAI企業を提訴し始めたと報じている。
「人工知能(AI)企業が拡大している資金調達や設備投資を巡り、米国の投資家が相次ぎ訴訟を起こした。市場の「巨額すぎないか」という懸念は、AIへの期待の前にかき消されがちだったが、今後、妥当かどうかを裁判所も判断するようになる。(中略)訴状によると経緯はこうだ。米オープンAIとデータセンターの拡張で合意したオラクルは建設資金に充てるため、2025年9月に180億ドル(約2兆8000億円)の債券を発行した。その7週間後、追加で多額の発行をすることが明らかになり、債券価格が下落して年金基金は損失を被ったという。 (中略)一方、巨額の設備投資がそれに見合う利益につながっていないと訴えたのが株式の投資家だ。25年後半にオラクルの株価が下落したことを受け2月に集団訴訟を起こし、同様の訴訟はその後も続いている。訴状では「多額の設備投資を実施すれば直ちに利益成長を加速させると、投資家を錯覚させた」と指摘した。 (以下略)」。
激しい開発競争が、AI関連企業を新たな投資へと駆り立てる。高収益のマグニフィセント・セブンでさえ、投資額の半分しか自己資金で賄えていないという。
「テック企業側はAI開発の先行投資がかさむ。4社合計のフリーキャッシュフロー(四半期ベース)は23年に600億ドルを上回っていたが、26年には200億ドル前後まで落ち込む。AI半導体という固定資産を大量に抱え、アセットライトなIT企業からインフラ企業のような財務構造へと様変わりする」(日経2月26日)。
AI関連企業の収益性(利潤率)は、低下せざるをえないだろう。第一に、データセンター等への投資が、資本の有機的構成の高度化を急速に進行させることで。第二に、総投資に占める借入資本の割合が増加して剰余価値のより大きな部分が金融資本に移転することによって。
だからこそ、「勝者総取り」(独占超過利潤)をめざす開発競争はさらに熾烈さを増す。
エヌビディアの「ひとり勝ち」?
AI開発企業の先行投資を急拡大させているのは、「AIデータセンター」の建設であり、それに不可欠なエヌビディアの画像処理半導体(GPU)である。AIの利用や開発は大量のデータを処理するため、高性能GPUを大量に使う。
「米エヌビディア製の先端半導体を搭載するサーバーはAI企業間の奪い合いだ。半導体を調達し、動かす電力を確保して初めてAIの計算に使える「資源」になる。・・・AI半導体は慢性的な供給不足が続いてきた。さらに輪をかけて需給を逼迫させたのは自律的に動くAIエージェントの普及だ。エージェントは単に利用者の質問に答えるだけでなく、目標の達成へ自問自答する。
AIがさらに複数のAIエージェントに指示を出すこともあり、24時間稼働し続けられる。そのため膨大な計算資源を消費する」(日経4月1日)。
エヌビディアの25年11月~26年1月期決算は、過去最高の売上高681億ドル(10兆6000億円)を記録した。その 「純利益率」は63%。驚異的な数字だ。最先端GPUをほぼ独占(占有率80%)するエヌビディアは、「言い値」で売っている。エヌビディアは自社工場を持たない。設計に特化し、製造は台湾のTSMCに委託する。設備投資の規模は小さく、利益率は高い。手元に潤沢なキャッシュを保持し、ライバル候補の新興企業を買収する。
しかし、競合他社が座して見ているわけではない。
アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)、インテル、メタ、アマゾン、グーグル、オープンAI、ソフトバンクなどが、AI向け半導体の独自開発と「内製化」を目指してエヌビディアの背中を追う。エヌビディアの最先端GPUの輸入を制限された中国企業もまた、独自開発を進めている。
AI開発企業が今後もエヌビディアのGPUを買い続ける保証はない。ジェンスン・ファンは激を飛ばす。
「食うために走るか、食われないために走るか、どちらにせよ、走れ。歩くな」。
エヌビディアは、独占を維持するために高機能の新商品を毎年投入する。AI開発企業は、それを奪い合う。奪い合いながら独自開発も進める。競合に追い上げられれば、投入サイクルはさらに短縮する。既存設備の減価のサイクルは極端に短縮され、収益を圧迫する。このような減価は、マルクスが「固定資本の道徳的摩損」と呼んだ利潤率を下押しする要因のひとつである。
「循環投資」(ベンダーファイナンス)
ビッグテック4社のAI開発投資は、この4年間に6倍になった。その8割は、エヌビディアからの半導体の購入に充てられている。その半導体は、世界中で建設されている「AI向けデータセンター」に搭載される。
エヌビディアは、対話型AI「Chat GPT」を開発したオープンAIへ約1000億ドル出資するが、オープンAIは調達した資金でエヌビディアのAI半導体を購入する。 このような出資(融資)を、「ベンダーファイナンス」という。買い手の購入資金を売り手が提供する仕組みであり、「ITバブル」(2000年前後)の時期に、ITのインフラを独占する大手企業(シスコシステムズなど)が顧客に資金を提供した構造と何も変わらない。オープンAIに投資する資金は循環してエヌビディアに戻って来る。エヌビディアの収益の一部は、自身の資金提供によるものである。
「「錬金術」とも言える高レバレッジ経営は新興企業にも広がっている。米新興企業のコアウィーブは画像処理半導体(GPU)を担保に高金利で多額の資金を借り入れ、GPUを大量調達してAI向けクラウドサービスを提供する。オープンAIと総額で約224億ドル、米メタと142億ドルの巨額契約を結んだ。コアウィーブの事業モデルはAI投資熱が持続すれば莫大な収益を見込める。一方でブームが収束してGPUの価値が下落すれば、巨額の減損損失につながる恐れがある。同社はGPUの減価償却期間を6年と想定しているが、実際の開発サイクルは1年単位まで短縮している。想定よりも短期間で旧型品の価値が下落しかねない。・・・AIのインフラと半導体をめぐる複雑な会計テクニックはウォール街の知恵を取り込みながら、様々な企業の相互連関性を高めている。収益モデルがまだ定まらない技術で巨額の投資だけが先行する前代未聞のチキンレースを支えている」。 (日経25年10月16日)。
AI開発企業は、購入したエヌビディアの製品を担保にして資金を作り出し、さらにエヌビディアの製品を買う。売り手と買い手が相互に依存し、金融資本が触手を絡める相互依存の連関の中で、一社が倒れれば全体がリスクを負う。
オープンAIの「Chat GPT」の利用者は「1週間あたり9億人を超す。5000万人以上いる個人有料会員や企業向けサービスを中心に、月20億ドルの収益をあげている。それでもAI開発・運用にかかる出費をまかなえず、収支面は赤字が続く」(日経4月1日)。
問題の核心は「収益モデルがまだ定まらない技術で巨額の投資だけが先行」していることにある。熾烈な開発競争と、「循環投資」やまるで「錬金術」のような、利潤を求める資本の混沌とした激しい運動とが、「AIバブル」の背後で繰り広げられている。
「危険すぎて公開できない」?!
「ついに開発してしまった」ということだろうか?
「危険すぎて公開できないAI(人工知能)が米国で開発され、関係者が危機感を募らせている。悪用された時の影響が計り知れないと、開発企業が一般提供を見送り、米政府は金融機関と対策を練る。日本でも自民党が20日、政府の関係省庁や米IT大手と議論を始めた」(朝日4月21日)。資本とその政府は、自ら招いた深刻な危機を前に、相当に焦っているようだ。
問題になっているのは、アンソロピックの新型AIモデル「Claude Mythos(クロード・ミトス)」だ。
「「クロード・ミトス」は、サイバー攻撃で「穴」となるソフトウェアやシステムの弱点を見つける能力を劇的に高めた。・・・専門家が27年もの間、見つけられなかった弱点をミトスはわずか数時間で発見したことだ。500万回のテストを繰り返してもわからなかった欠陥も特定できた。サイバー防御に活用できるよう生み出されたミトスだが、攻撃側の手に渡れば大きな脅威となりうる。さらにミトスは開発試験中、人間の制御を外れ、指示していない行動にも出たという。アンソロピックも戸惑いを隠さない。「サイバーセキュリティーのあり方を一変させうる」として、安全性を確認できるまで、技術の外部提供をやめた。同社が製品を一般公開しないのは初めてのことだ」(日経4月17日)。
しかし、4月23日の朝日新聞によれば、「米ブルームバーグ通信は21日、米新興企業アンソロピックが開発した新型AI(人工知能)モデル「クロード・ミュトス」に、許可を得ていない数人のアクセスがあったと報じた」。 許しがたい危険極まる事態に、人類社会が直面していると言っても過言ではないだろう。
ミュトスの危険性
北陸先端科学技術大学院大学客員教授の今井翔太さんは、朝日新聞のインタビューに答えて下記のようにミュトスの危険性を指摘している(朝日4月25日)。
「我々の住む世界では、金融、医療、交通など、様々な基幹インフラでソフトウェアが使われている。それらのソフトウェアのバグ(不具合、欠陥)をなくすことはできないが、一方で人間がその脆弱性を突くのも難しい現実があった。ところがミュトスは、人が見つけられないほどのソフトウェアの脆弱性を大量に発見することができる。15~25年放置されていた基幹ソフトのバグを見つけた例もある。この特性を使えば、金融や医療など、財産や人命に関わるシステムに致命的な打撃を与えることも可能になりかねない。
世のAI開発機関がミュトスと同じような高度なAIを開発すれば、それが一般に開放されるのは時間の問題だ。公開されれば一般人もハッカーもそれを手にできる。サイバー攻撃は一気に増えるだろう。今はそれまでの猶予期間だ。
(猶予期間の長さは)あと1~2年というところだ。(中略)社会に放置されてきたバグや不完全さは、AIで残らずあらわにされてしまう。ちょっとでも弱い部分があれば、必ずそこを突かれる。そんな時代が来たことを社会に示し、共有することが第一歩だ」。
IT化が進行したことで、金融や医療や交通だけでなく、生活と生存のあらゆる分野で、社会はコンピータのソフトウェアとインターネットに深く依存することになった。ミュトスの開発と、さらにそれを上回るAIの開発を社会がこのまま許すならば、インターネットそのものを遮断するしかないことになるだろう。
ベッセント米財務長官は、大手銀行のトップらと緊急会合を開き対応を協議した。金融機関への「サイバー攻撃」によって、金融システムがクラッシュすることの現実性を、彼らは深刻に危惧している。
しかし、金融システムがクラッシュしても、実体経済が、生存と生活に必要な物(使用価値)を生産し続ければ、人間は生きていける。今緊急に必要なこと、そしてできうることは、生存と生活にかかわるITインフラを優先して守ることしかないだろう。
AIとイラン戦争
イランへの軍事攻撃には、AIが本格的に使用された。人工衛星やドローンの情報をAIが瞬時に解析し、攻撃目標と攻撃の優先順位を決定する。もはや、AIが自ら攻撃の判断を下す「完全自律型兵器」投入の一歩手前まで来ている。
対するイランの反撃は、AIの弱点を明確にした。革命防衛隊は、バーレーンとUAEにあるアマゾンとオラクルのデータセンターを攻撃したのだ。イランは「アマゾンが標的の選定や追跡に関与している」と主張した。イランの反撃には、中国の人工衛星の情報が利用されたとも報じられた。(中国当局は否定した)
現代の戦争は、「人工衛星の情報に基づいてAIが指揮し、無人の自律型兵器(ロボットやドローン)が前線に立ち、サイバー攻撃で敵のシステムを破壊する」ものになりつつある。AIと宇宙を制する国家が軍事的覇権を握ることになる。
「ロボット兵」が、人間兵士の採用と訓練や死傷者への補償の費用よりも安価に生産できるようになる時、AIの「自律的」判断で人が殺される日が来るだろう。
「AIによるサイバー攻撃の自動化につながることから、中国などがミトスの技術を入手しようとする可能性が高いとみる。・・・米ジャーナリストのトーマス・フリードマン氏は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)のコラムで、ミトスは核兵器の登場と同等の「根本的で重要な転換点になる可能性を秘める」と指摘し、次の米中首脳会談で最重要議題にすべきだと提起した」(日経4月15日)。
中国は独自のAI開発を進める。GPUの性能ではエヌビディアが優位を保っているが、「AIモデル」(膨大なデータ学習によって作られたAIの「脳」としての機能)の質の面では、アメリカに半年ほど遅れているだけだと言われている。
お互いに軍事的覇権を争う二つの超大国が、ミュトスの危険性を前に、何らかの合意(規制の枠組づくり)を形成できるだろうか。仮にできたとしても、それこそ人類全体への、核兵器の存在と並ぶ巨大な脅威となるだろう。
最先端テクノロジーを独占的に使用する国家が、外に向けては強大な軍事力を展開し、国内では国民の生活と労働を徹底的に監視する社会を築く。ジョージ・オーウェルの描いた世界がすぐそこにある。
問題は資本の権力
「これまで「テクノロジーの完全な支配」を目指すとしてきたトランプ米大統領は15日放送の米メディアとのインタビューで、AI技術に対して政府が強制停止のための「キルスイッチ」を持つべきだと語った」(日経4月17日)。
トランプは、図らずも問題の核心に触れた。オートバイの「キルスイッチ」が、点火系統への電気供給を断つことでエンジンを停止するように、全く同様に、データセンターへの電力供給を止めれば、AIは機能を止める。
その電力を供給しているのも、AIを兵器に実装しているのも、AIが自律的にAIを設計できるようにアルゴリズムを作っているのも、そもそも膨大なデータを、世界中の「データワーカー」を酷使して「学習」させているのも、全て人間、資本の指揮下で働く研究者と労働者である。
「人間はAIの暴走を止められるか」― テクノロジーそれ自身のあたかも「自然な」発展の問題として「没階級的」に問題を提起することが、問題の本質から目を背けさせる効果を生んできた。「テクノロジー幻想」が、社会を覆っている。それは、独占的利潤をわがものとしようとする開発競争の本質を覆い隠してきたし、投資を呼び込む強力な広告塔の役割を果たしてきた。
問題の核心は、資本の権力が、利潤の確保だけを目的にしてAIを開発し、それを私的に独占し支配していることである。そして、莫大な資本が ― それ自身が世界中の労働者から搾り取った剰余価値に他ならない― 人類の福祉に向かうことなく、資本の権力を強化し、さらに労働者を搾取するための道具、戦争の道具としてのAI開発に集中していることである。
AIがどんなに「便利」な道具のように見えても、その本質は変わらない。それは資本のために、生産の効率化と労働コストの削減、生産とサービスの現場での資本の権力の強化のための道具である。
労働者の闘いは間に合うか
トランプ政権を支える「テックライト」(テクノロジー開発へのあらゆる規制に反対する右派勢力)の圧力がますます強力になり、「国際ルールやAI倫理の整備が追いつかないうちに、テック企業は愛国心という踏み絵を迫られる事態」(日経3月6日)になった。
しかし、2018年にグーグルの従業員が、国防総省のドローン開発事業に参加することに抗議して、中止させたことは記憶に新しい。生産現場の労働者の力こそが、「テクノロジーの暴走」という形で表面化した「資本の暴走」に歯止めをかけることができる。
そして、世界各地で、巨大なデータセンター建設への反対運動が巻き起こっている。AIの弱点はデータセンターであり、電力だ。エヌビディアとオープンAIは、10
GW級のデータセンター構想を計画している。これは800万世帯(東京都の世帯数に匹敵)の消費電力に相当する。驚くべき巨大さと電力の浪費である。
東京電力は、柏崎刈羽原発の周辺に大規模データセンターを開発する方針を固めた。 地域住民と共に、データセンター建設に反対する闘いは、エコロジーの最優先課題だ。
古代ギリシャ語で「語り伝えられる物語」を意味する「ミュトス」は、資本の飽くなき利潤追求が生み出した制御不能の怪物として語り継がれることになるのだろうか。それとも、労働者階級は資本の権力に挑戦して、AI開発そのものの「キルスイッチ」を押すことができるだろうか。 (4月25日)

AI開発に抗議をする人々(3月、サンフランシスコ)

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