投書 終わりにしましょう天皇制

たじま よしお

デイサービスの反天皇制談義

 私は75歳まで約13年間、ある地方の山間僻地で、高齢者施設のデイサービスで働いていました。仕事の内容は風呂からあがった利用者さんの手足の爪を切り、お茶を出してあげるというもので、ときには雑談に加わったりもしました。そんなある時どなたかが皇室関係の本を持ってきて「天皇も皇后さんも自分で食事や洗濯などすることないでしょうから、幸せね!」などと皆さん、それぞれ来し方を振り返るような眼差しでした。
 そこで私が「楽な生活で幸せでしょうけど、夫婦喧嘩して皇后さんが『実家へ帰らせてもらいます』なんて言ったらどくまんじゅうだよ」と言葉を挟んだところ、皆さん一瞬ギョッとした雰囲気になりました。そして「勢いよくオナラもできないようでは、やっぱり皇后さんに生まれて来なくてよかった」と言い、大笑いの一場面となりました。
 午前中に25人もの利用者さんの、雑談している人たちをも順繰り入れ替えさせながら体や髪を洗う浴場の仕事場はよほど要領よく回さないと大混乱です。私の担当する爪を切ったり髪を乾かしたりの現場も何人も順番待ちとなりかねません。小ざっぱりしたみなさんにお茶を出してあげるのも私の仕事ですから大忙しですが、その日はもっぱら「反天皇制」の話題で盛り上がり、男性のテーブルの方からも「そうだ!」などの声が聞こえてきました。
 ところで「天皇制ってなに?」って急に聞かれても、日頃不勉強でなかなかうまく答えられません。何しろ「万世一系」と言いますから、一世代30年としても30万年の歴史を有することになります。私たちのご先祖さまは、チンパンジーの先祖とわかれて猿人となりやがてホモサピエンスとなったということですが、その起源は、現在の考古学では700万年前頃アフリカ大陸のほぼ中央の北部のチャドということになっています。そしてアフリカ大陸を出て永い旅の末、4万~3万6000年前に沖縄にたどり着いたと言われています。そうしますと「万世一系30万年」の天皇制の歴史はだいぶんまのびしております。そこで「井上清著・日本の歴史」を開いてみました。

大王政権と氏姓制度日本の歴史(上)・井上清著


 大王(後の天皇)は、まぎれもない世襲の専制君主であるが、その地位と権力は、彼の軍事力・経済力が、大和の他の族長たちを圧倒して、これを臣服させたことによって、かちとったものではない。彼は、先に邪馬台国王についてのべたのと同様に、特定の家系──大和国家を構成する諸部族の祭祀長であったと思われる──にぞくするがゆえに、大王になったのである。大王になる家系は一定不動であって、他のどんな族長も、これに代わることはできなかった。このことは、国家の形成・拡大が、氏族・部族的結合の拡大になぞらえておこなわれてきた社会においては、必然のことであろう。しかし、大王家の一族の中で、誰を大王に立てるかについては、族長たちの発言権は強かった。彼らは皆、自家に有利な大王を建てようとした。したがって、『日本書紀』は、皇位継承のすざましい闘争の物語にみちみちている。そのもっとも凄惨な一例は、五世紀中頃の尤恭天皇(倭王済か)の死後の争いである。
 このとき穴穂皇子は、皇太子軽王子をおしのけて皇位についた(安康天皇、倭王興か)。安康天皇はまもなく叔父の大草香皇子を殺し、その妻中帯姫を奪って自分の妻とした。ときに大草香の子眉輪王はわずか七歳であったが、三年後には、安康天皇が中帯姫のひざ枕で眠っているのを、刺し殺した。少年の背後には、天皇家とともに古くから強大であった豪族、葛城円がいた。安康の弟雄泊瀬皇子は、直ちに眉輪王と円およびその味方の皇族を殺し、さらに、この事件に何の関係もない市辺押磐皇子を、狩にさそうとだまして殺し、また御馬皇子が葛城氏と同じほど勢力のあった三輪と仲がよいので、これも殺した。こうして皇族の男子は一人残らず殺してしまって、自分が皇位についた。雄略天皇(倭王武か)である。
 大王の政府=朝廷は、最初は葛城・平群・三輪など、大王家に匹敵する有力諸氏の族長が、側近の最高の執政者となり、その下で、有力な族長が、その氏人・隷属民(奴隷及び後述の部長)を率いて、政務を分任し、その職務を世襲した。例えば大伴氏と物部氏は財政を、中臣氏と忌部氏は祭祀を、蘇我氏は財政を分任し、その職務を世襲した。(P40~41)
 この皇位継承をめぐってのすざまじい慚劇は「日本書紀・全現代語訳・宇治谷 孟(P28~29)」、そしてP111~112の「綏靖天皇神渟名川耳天皇」にも目を背けたいような場面が記されています。
 なお未だ国家形成に至る前、西暦107年の中国の「後漢書安帝紀、同東夷伝)には倭の国王、後漢の安帝に生口160人を献ずる」とあります。「生口」とは奴隷のことです。この場合の「倭の国王」は現在の「天皇家」とは直接的な関係はないと思いますが、国家形成の過程の出来事ですから「まったく関係ない」などと言わせてはなりません。
2026年6月29日

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