高橋哲哉さんの講演から
新自由主義から『暗黒啓蒙』へ
民主主義の危機に向き合う
世界はいま未曽有の反動期を迎え、第二次大戦後最大の転換点にある。1990年代には国際法が整備され、ジェノサイド、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪について責任者を裁く国際刑事裁判所(ICC)が設立され、実際にプーチンやネタニヤフなどに逮捕状が出された。しかし、アメリカのルビオ国務長官はICCの解体を目指すと公言しはじめた。第2次大戦後の最良の遺産としての国際法秩序がなくなる局面を迎えている。これまで「法の支配」を盛んに言ってきた日本政府の姿勢が問われる。
「暗黒啓蒙」とは何か
第1次政権でトランプを支えていたのは、オルト・ライトと呼ばれる人種差別主義、白人至上主義だった。しかし、第2次政権では、新反動主義と言われる思想が政権を支えている。それは、暗黒啓蒙とも、テクノファシズムとも言える。この新反動主義には3つの要素が含まれる。第1の「テクノリバタリアン」は、ピーター・ティールやイーロン・マスクに代表される考え方で、「自由至上主義」、政府の最小化、資本の自由を掲げ、税金は一つの収奪だと考えるもの。第2の「暗黒啓蒙」は、カーティス・ヤーヴィン、ニック・ランドなどSNSに依存した思想家に代表され、近代リベラリズム批判、民主主義批判と認知エリートによる君主制を主張している。第3の「国民保守主義」は、家族や地域社会を大事にする、キリスト教を中心にした伝統に帰れという主張。
アメリカの影の大統領と言われるピーター・ティールは、『リバタリアンへの教育』で「最も重要なのは、私はもはや自由と民主主義が両立するとは思っていないこと」と公言。彼は、CIAと二人三脚で発展してきた「パランティア・テクノロジー」の会長で、日米首脳会談の直前に高市首相と会談した。自衛隊が指揮統制の意思決定支援システムへのAI活用としてパランティアのシステムを導入する計画と報道された。これにより、ますます米軍との一体化から抜け出せなくなる危惧がある。
カーティス・ヤーヴィンの『ネオ君主論』は、トランプに影響を与えている人たちが信奉する考え方。「権威主義的かつ階層的な統治、理想的にはハイテク企業型の君主制への回帰をめざす」として、ハイテク企業のCEOが全てを取り仕切る君主制を目指す新自由主義の極限とも言える考え方である。トランプはまさにこの思想を体現して、リベラル系の大学やメディアを攻撃してきた。TSMC以外の台湾を中国に渡す取引や日本による北朝鮮政権の買収と特区国家への転換なども主張しているこの人物がトランプ政権の黒幕という信じられない現実がある。
この新反動主義をまとめると、「少数の認知エリート(高いIQ保有者)による統治」「暴力の廃絶は不可能」「民主主義の否定」「主権企業トップが君主として君臨し、その成員は市民ではなくサービスの顧客であり、移動は自由」「テクノロジーへの無条件の楽観主義、民主主義とリベラリズムは技術の進歩の障害物」という考え方である。
東アジアと高市政権
高市政権が軍拡の口実として用いているのが「台湾有事」や安全保障環境の激変である。
高市の「台湾有事」発言は、日本政府の立場としては間違っていなかった。そういう事態を想定して、「存立危機事態」と安保法制など着々と準備を進めてきたからである。発言撤回できないのは、安保法制そのものの撤回につながるから。それに沿って、2024年2月の日米共同指揮所演習「キーン・エッジ」では、台湾有事を想定して、中国艦艇を攻撃する演習をしている。2025年6月、台湾・日本・アメリカの各軍元トップが参加した「台湾海峡防衛机上演習」では、中国が台湾に武力侵攻した場合、アメリカの対応策の一つとして「台湾を独立国家として承認する」ことが含まれ、日中共同声明による「一つの中国」政策を見直す可能性に言及されたと報道された。また、沖縄タイムスの昨年の記事では、24年の日米合同机上訓練で、自衛隊トップが米軍に対し、台湾有事では「核の脅し」を使うよう求めたという。
1972年の日中共同声明では、日本政府は中国政府の台湾についての立場を「十分理解し、尊重し」としていて正式には「承認」していない。日米安保条約における「極東」条項に台湾が含まれていることを前提として、「十分理解し、尊重し」という表現にとどまった。共同声明には実はすき間があり、これが現在では大きくなっている。現行の日米安保体制自体を問わないと戦争は防げない。このままで終わるのではなく、どこまでも抵抗していきたいと思う。
台湾の自己決定権について、ぜひ強調しておきたい。台湾の人々のアイデンティティ調査では、「自分が台湾人」と答える人が最も多く、「台湾人であり中国人」という人がその次に多い。台湾独立についての質問では、「時期を決めずに現状維持」が最も多く、「現状を維持した上で決定」がその次で、「本土との統一」は6%程度。この結果は、台湾が独自の歩みの中で民主化を実現させたことで、民主主義を大事にしたいとの思いが強いからだと思う。『世界』7月号での対談では、リベラル派の中に中国に対する遠慮があって、中国に対する的確な批判ができてこなかったと述べた。ドイツがガザでの事態でイスラエルを批判できないのを見て、中国に対する大きな戦争責任を直視しながらも、中国に問題あれば指摘すべき、と考えるようになった。少数民族に対する迫害、香港民主化運動の弾圧という歴史を見ないわけにはいかない。台湾の人々の自己決定権を必ず尊重してほしい。中国による軍事的統一は認められないし、それに対して日本が軍事介入することも認められない。
(文責編集部)
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