書籍紹介 写真集「被爆2世の肖像」
吉田敬三作/南山舎刊/2500円+税
被爆者の強い思いがにじむ
知人からの年賀はがきで、吉田敬三さんの写真集「被爆2世の肖像」を知った。本を取り扱っているという沖縄県石垣島の「島のもの屋」に注文した。
100点以上の被爆2世の肖像画が映っている。そのすべてといっていい肖像が笑顔なのだ。撮ってもらいたいという強い意志、被爆2世として背負ってきたものを勇気をもって訴えている。それは撮影者の吉田さんが被爆2世で、親たちの被爆の歴史を絶対に風化させてはならない、この世から原爆を無くしたい、という強い思いがあり、それが被写体としての被爆2世たちとの繋がりを作り出しているからだろう。
写真に映っている被爆2世から、親たちとの被爆の状況や受けた差別などの報告が掲載されているが、その中でも、吉田さんへの感謝の思いがつづられている。
それまで、ひっそりと自分の中に被爆2世であることを閉じ込めていたことを、外に表現する手段を得られたこと、吉田さんとの貴重な出会いだった。偶然だが、私が知っている人が二人もいた。
最初困難をきわめた
被爆2世を探すと言っても、簡単でない現実を吉田さんはこう書く。
「当初、被爆2世を探しだすことは難しく、たとえ見付けても10人に声をかければ9人から撮影を断られた。『私は良いけれども子どもが学校でいじめられる』『連れ合いにみっともないからやめとけと言われた』『表に出ることで逆に差別を生むのでは』と断る理由はさまざまだ」。……「これまで気付かなかった差別や偏見も見えてきた」。
1年後、諦めかけていた頃、山口の被爆2世の夫婦が快く撮影に応じてくれ、そこから、徐々に共感が広がった。そして「これまで北海道から沖縄まで31都道府県で撮影した被爆2世は130人を超える。会社員や専業主婦、教師、デザイナー、看護師、歌手など社会の中核で活躍しながら、積極的に平和運動に関わっている人もいれば、直接には被爆や戦争体験と関係のないところで自分の道を確立した人、育児に専念している人、多種多様な生き方があった。この写真集は、親の被爆体験と向き合い、迷いながらも自らの歩む道を探す被爆2世たちのありのままの素顔を20年間追い続け、日本全国を訪れて撮影した集大成だ」。
生きる力で希望である
被爆2世の証言を紹介しよう。
被爆二世は被爆者にとって喜びであり、生きる力であり、希望である
「ともすれば被爆二世は原爆を受けた親から生まれた被爆二世という宿命づけられた存在として語られました。放射線による遺伝子への影響、病気や日常的な身体の不調、絶えずつきまとう健康上の不安、急性白血病で亡くなる二世もいた。それらはすべて親が被爆者だったことに原因しているのではないか。親が原爆など受けなかったら自分の人生はどんなに幸せだったことか……」。
「原爆を自分の心身に受け、放射線に生涯苦しみ抜いた被爆者の親が新たな命の誕生を迎えることができた。そのことは被爆者にどんな喜びと生きる力を与えたことでしょうか。心身に受けた苦しみと肉親を失った悲しみを生きる被爆者にとって被爆二世は生き抜いていく希望の象徴であり、生きる力であったと言ってもよいと私は思うのです。長崎原爆の爆心地からわずか500mの自宅で小さな4人の子どもたちを失った私の父にとって、再婚した母との間に生まれた私たち4人の兄弟は父にとってまさにそのような存在であった……」。
「核兵器を人間の上に使うことはもう絶対に許さないという思いとともに……、被爆二世は、新しい人間像を個人の生き方の中で刻んでいくことができる者ではないでしょうか。それは二世としての私自身の課題であり、同時に私にとっての希望なのです」。
1枚の肖像画が被爆2世にスポットを与え、生きる希望を与える手助けになっている。写真がこれほどの力を与えるものかと感動させられた。 (滝)
吉田敬三写真展
写真家・吉田さんを知る参考になるので、吉田さんが今までに開いた写真展を紹介する。
1996年
「FRIENDS~大都会の片隅」(オリンパスギャラリー)
1998年
「LANDMINES~悪魔の兵器」(ニコンサロン)
2003年「星空の学舎~自主夜間中学の生徒たち」(オリンパスギャラリー)
江東、松戸、川口で市民の自主運営による夜間中学で学ぶ人々の写真展
2012年「被爆2世108人の肖像」(ペンタックスフォーラム)
親の被爆体験と向き合い迷いながらも自らが歩む道を探す被爆2世の写真展
2017年「What a Wonderful World~人工呼吸器を付けて街に出よう」(アイデムフォトギャラリーシリウス)
人工呼吸器を利用しながら住み慣れた地域で自立生活を送る人たちの写真展

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