資本主義の失敗とフィリピンの移民家事労働者(上)
チョン・ウンヒ
「その匂いを嗅ぐと言葉も出ません。その気持ち、わかります」。連帯の日程を終え、母親に会いに行くと言って立ち上がった私に、ある清掃労働者が言った。その方は平日は義母の世話をし、週に一度、実母の世話をするために高速バスに乗って地元に行く。その方が言う「あの匂い」とは、一週間ぶりに会った母親の匂いだそうだ。自分のように老親の世話ができず、泣き寝入りしている組合員は少なくないという。清掃労働者の組合員のほとんどは、1960年代生まれのマーチャー世代(親を扶養する最後の世代であり、子どもに扶養されない「最初の世代」という意味)だ。そして、そんな人々自身は3人に1人が孤独死を心配しており、低所得層ではその数は半数にのぼるという。
このように労働者が一生搾取され、尊厳をもって死ぬ権利もなく、腐敗することを心配しなければならない現実は、新自由主義の失敗であり、資本主義の失敗を示している。ナンシー・フレイザーはこれを「共食い資本主義」の構造的な矛盾の一つと呼んだが、この失敗した場所に今、韓国政府は移民家事労働者を投入する予定だ。これまでは国内の朝鮮族同胞や一部の移民女性だけが移民家事労働をしていたが、今後は韓国もフィリピンの家事管理士の実証事業を皮切りに、「まともな」ケアチェーンの主役として登場しようとしているのだ。しかし、この政策は移民家事労働者を搾取し、ブルジョアや中産階級家庭にのみサービスを提供する差別的な政策でしかない。さらに、政府が子どもは移民女性労働者に任せて「働く」ことを強調するように、これまで女性を抑圧してきた「母性」イデオロギーの代わりに「能力主義」を語る、女性労働者に対するもう一つの抑圧的な再生産政策でもある。
新自由主義の労働柔軟化と仕事と家庭の両立政策の失敗
韓国で少子化が深刻化したきっかけは、新自由主義的な構造調整だった。1997年の外国為替危機をきっかけに金大中政権は新自由主義的な構造調整を推し進め、その結果の一つが急激な出生率の減少だった。例えば、それまでの20年間、合計特殊出生率は1・5~1・7人の間を維持していたが、1998年には1・46人、2002年には1・18人に急落する。この時の根本的な変化は、これまで生涯雇用された「男性一人生計維持モデル」から「共働き夫婦モデル」への転換といえる。これまで韓国社会の労働力再生産は、ほとんどが結婚家庭で女性の無給の家事介護労働に依存してきたが、何より労働の柔軟化が従来の生涯雇用された男性世帯主の生計扶養モデルを変え、再生産体系の根本的な変化を引き起こす。韓国開発研究院(KDI)が実施したIMF危機後20年のアンケート結果でも、外国為替危機の影響の最も大きな経済問題として、非正規労働者の増加(88・8%)が挙げられ、全賃金労働者のうち非正規労働者の規模は2003年32・6%から2023年37%に増加する。
そして、このような非正規労働者の増加は決定的に実質所得の急減につながる。例えば、2004年に非正規雇用者は正規雇用者の月平均実質賃金の61・8%を受け取ったが、2019年には正規雇用者の51・0%に過ぎないほど、正規・非正規雇用者の賃金格差が拡大する。そして、男性世帯の実質賃金の低下は女性の経済活動参加率の増加につながり、共働き夫婦モデルを一般化した。もちろん、女性も相当数は非正規雇用に編入され、家計所得に画期的な影響を与えたとは言い難い。結局、結婚や妊娠出産に対する若者の考えがどうであれ、出生率の急落には構造的な原因があった。2022年の韓国経済研究院の分析報告書によると、正社員の出産確率が非正規雇用の2倍、結婚確率は非正規雇用の1・65倍である。
このような状況下、政府は一連の政策転換に乗り出したが、現実とはかけ離れた政策に過ぎなかった。すでに1990年代末から金大中政権は年金財源枯渇を問題として「少子化政策」を議論し始め、盧武鉉政権の時に少子高齢社会委員会を発足し、人口政策を改編する。また、女性が子供を産み育てながら仕事をすることができるように支援するという方針に基づき、2007年に男女雇用平等法を改正し、家族親和的社会環境造成法を制定して「仕事と家庭の両立政策」を導入する。 しかし、そうして政府は2006年から16年間280兆ウォンを投入したが、結果として合計特殊出生率はさらに低下し、0・78にとどまった。結局、このような措置が中産階級には一定の助けになったかもしれないが、非正規・不安定労働が拡大する中で、労働者に対する実質的な支援措置、出産・育児休業時に横行する不利益を遮断する措置はなかった。例えば、労働基準法に育児休業が明記されていても、全体の68%に達する5人未満の事業所では、不利益や不当解雇の可能性があるため、労働者が使う勇気が出ないのが現実だった。さらに、現在、家事介護労働者の大多数(家事使用者)は、家事介護という社会の必須労働に従事しているが、労働基準法すら適用されず、低賃金と劣悪な労働条件、非人格的な扱いに苦しんでいる。
移民女性労働者の過剰搾取と再生産権格差の拡大
このような再生産の危機的状況で出生率を高めるためには、非正規雇用の撤廃や出産・育児休業制度の改善をはじめ、労働者、特に女性労働者が負うケアの負担を国が担う必要があった。しかし、政府は新たな搾取強化策を打ち出してきた。それが「移民家事労働者サービス事業」だ。政府がこの事業を始めたきっかけは、呉世勲ソウル市長が「少子化」を問題視し、2022年9月、シンガポールの移民家事労働者は最低賃金の5分の1すらもらえないと主張したことから始まった。その後、尹錫悦大統領が外国人留学生・結婚移民家族などを最低賃金未満の家事労働者として活用しようという案を提示し、移民家事労働者導入の議論が本格化した。現在、ソウル市は雇用労働部と一緒に「フィリピン家事管理士試験事業」を開始し、100人を選抜して教育しており、政府は来年上半期に雇用許可制を通じて1200人の移民家事労働者を導入する計画で、今後、留学生及び移民労働者の配偶者を対象とした家事使用者就労許可試験事業も実施する予定だ。
8月20日
(「社会主義に向けた前進」より)
【次号へつづく】
朝鮮半島通信
▲朝鮮北部で7月下旬に起きた洪水により避難した被災者が8月15日に首都平壌に到着し、金正恩総書記が挨拶を行った。朝鮮のメディアは、金総書記が被災者の子供たちに新しい制服や学用品、かばんや靴などを贈ったと報じた。
▲金正恩総書記が8月15日、解放塔に花輪を献じた。
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