七夕都知事選顛末記 ②

小池都知事の学歴詐称を考えるために

たじま よしお

 7月7日に都知事選挙が終わった後も小池都知事のカイロ大学学歴詐称問題、それに加えて公職選挙法違反問題などが話題になっています。この二つの疑惑は私には一つのもののように思えますがいかがでしょうか。一つの嘘を押しとおそうとしますと、次から次へ新たな嘘を積み重ねなくては自分を守れなくなるという、それが個人的なことならばまだしも、都知事という権力者のこととなると簡単に済ませるわけにはゆきません。
 ジャーナリストの浅川芳裕さんはかってはカイロ大学に在籍していたこともあり、エジプトの政治状況や語学も達者な方です。彼は「郷原信郎の日本の権力を切る」にたびたび出演して貴重な情報を提供していてその中で「カイロ大学の卒業証明書には、試験官、監査官、統括監査官のスタンプ、それらがあって初めて各学部長のスタンプが押されることになっている」とおっしゃっています。ところが、小池都知事のカイロ大学の卒業証明書にはスタンプは二つしか押されていないのです。浅川さんは、気骨のある人がそれを押すのを拒絶したのでしょうと言っています。エジプトでは偽の卒業証明書を使った物には懲役15年、それを発行した者より罪が重いというのです。
 話は違いますが小池都知事は「わたしエジプトの言葉話せるわよ!」と、スピーチを動画で流し、専門家に「これはアラビア語になってない」と指摘されその動画を削除したというのです。私はその動画を観ていませんが、そのことを聞いただけで気が滅入って、小池百合子さんが哀れになってきました。しかしここでやめるわけにはゆきません。それで学歴とは一体なんなのだと、その本質について考えることにしました。

日本の身分制度

 東京新聞の7月1日の16面に、内閣府が6月28日に発表した「省庁人事」が載っていました。内閣府人事については事務次官、審議官、官房長、政策統括官、賞勲局長、沖縄振興局長.内閣官房人事 内閣広報官、官房副長官となっており、以下金融庁、農林水産省、厚生労働省、法務省などの各部署の官僚など総計43人の名前が発表されています。
 43名のうち東大卒が26名、元帝国大学卒が9名で両者の合計は35名となります。他は一橋大学卒2名そして佐賀医科大学、秋田大学、中央大学、広島大学、神戸大学がそれぞれ各一名となっています。民間企業についても、先ごろ新聞赤旗が報じた都庁の高級官僚から三井関連企業への天下りの事実から高学歴の人々が企業の上層部を占めていることは言うまでもないと思います。以上紹介した地位の人々は各大学の中での「出世頭」と言っても良いと思います。
 徳川封建社会の身分制度は「士農工商」と学校の教科書にも書いてありました。しかし当時の各階層の人々に優越感を持たせるため穢多非人という、なんの根拠もなくさらに下の階層をでっち上げたのです。島崎藤村の「破戒」にあるように明治に入ってもその名残りは色こく残っていて、しばらく前のことですが、部落出身者の名簿を企業が持っていて、新入社員の採用の時それらの人を排除していることが社会問題となったことがありました。
 今も犯罪捜査のときは「部落の奴らならやりかねない」など標的にされたりしています。先に紹介した「省庁人事」にもその名簿が使われているかどうか。使われているいないにかかわらず、今も残る差別構造の屋上屋に学歴社会が成立していることを忘れてはなりません。

全共闘運動の検証

 一ヶ月ほど前のことでしたが、レイバーネットで、政治と金で揺れる自公政権にとって代わるのは「団塊の世代だ!」と、あの山田厚さんが叫んでいました。団塊の世代とは1947~1949年頃のベビーブームの頃に生まれた世代のことですから次の政権を担うには漠然としているなあと思いながらその動画を観ていました。
 それから間もなくして「東大全共闘━25年目の証言」という動画がネット上に現れました。まさに、グッドタイミングです。「25年目の証言」ですから、1993年に編集されたことになります。
 これは小池百合子カイロ大学学歴詐称についてそして近頃問題になっている東京大学の学費値上げに対する学生たちの反対運動を機に、56年前の全共闘運動を再検証して考えましょうと、どなたかが東京大学映像資料庫から見つけ出してネット配信したのだと思います。
 東大全共闘のことの始まりは、医学部卒業生の現場研修が無報酬(インターン制度)であったことへの抗議行動であったと聞いたことがありますが、いずれにしても貴重な映像ですのでブックマークからお気に入りに追加して、繰り返し観ながら文字起こしをているのところです。
 東大全共闘━25年目の証言は、安田講堂を背景にした山室秀男さんの次のような語りで始まっています。「なぜ彼らは彼らが生きてきた戦後を全否定しようとしたのか。そして、なぜ彼らは暴力を許容することによって自壊して行ったのか。26年後の今、彼ら自身の証言によって全共闘運動はなんだったかを考えてみたいと思います」
 当時を振り返っての証言者には匿名の方もいますが、実名で証言されているのは以下の皆さんです(敬称略)。肩書き・職業は1993年当時。
 最首悟(予備校講師)山口博(弁護士)橋爪大三郎(闘争後も東大に残り社会学の研究)大橋憲三(当時東大理学部修士課程)町村信孝(当時経済学部3年)
 そして現在予備校講師で、東大全共闘の代表であった山本義隆さんは当時、「現在の大学の教育を受けることによって、自らが体制のイデオローグとして、企業の管理職としての展望を持つ限りそういったこともまた実践的に否定されなくてはならない」というメッセージを発しています。
 自己否定と呼ばれるこの考え方によって全共闘運動は大学当局の批判から、東大の存在そのものを問う闘いへと変わってゆきましたが、東大全共闘の結成から4カ月、やがてこう着状態に陥っていったのです。そして、GDP世界第2位となった豊かさの中に若者たちは矛盾を感じ、やがて全学バリケードという闘争方針を打ち出し、1969年1月、1年間に及んだ東大闘争は自壊してゆくのです。

 1992年に山本義隆さんを中心に「東大闘争資料集」が編集され国会図書館に寄贈されました。1969年1月の安田講堂攻防戦はテレビ中継されて、視聴率は45%だったということですが、私は55%の中にいたことになります。「近代日本一五〇年・山本義隆著」は私の愛読の書ですが、この「東大全共闘━25年目の証言」に触れるまでは、恥ずかしながら山本義隆さんが東大全共闘の代表であったことは知りませんでした。彼が国会図書館に寄贈したという資料集は、動画で見ますとかなり分厚いファイル7冊となっています。これからの私はそこへ通って資料を読み込み、この社会の学歴による身分制度についてこだわり続けてゆくことになります。また、月刊世界6月号で笹野美佐恵さんが韓国の「女性教育水準の爆発的上昇」について述べています。そして中国のすざまじい受験戦争はネットで見られ、大変な迫力です。学問そのものはとても大切だと思いますが、学歴による身分制度はこのままにしておけません。どこまで広く深く掘り下げることができるかはわかりませんが、生き甲斐が一つ増えました。
 (2024・8)

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