投書:「どうすればよかったか?」を観た
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川崎市アートセンターで映画「どうすればよかったか?」を観た。「どうすればよかったか?」は、1966年生まれの藤野知明(ふじの・ともあき)監督が、統合失調症を発症する8歳ちがい(1958年生まれ)の姉とその家族を中心に撮影した(撮影 藤野知明、淺野由美子〈あさの・ゆみこ〉)2024年製作で配給が「東風」のドキュメンタリー映画だ。
監督の姉は、両親の影響から医師を志し、医学部に進学する。1983年の春の夕刻、24歳の姉は突然、事実とは思えないことを叫び出す。統合失調症が疑われたが、医師で研究者でもある両親はそれを認めず、精神科の受診から姉を遠ざける。監督は、両親に説得を試みるが、姉が精神科に入院するのは、最初に救急車を呼んだときから25年が経過した2008年だった。
監督は、監督の父に最後にもう1度インタビューをしようと考える。質問の核心で、父は母が統合失調症に対する差別意識から隠そうと判断したのであり、父は母の考えに従ったと答える。「私はそれを事実だと受け止めることはできませんでした」(映画パンフレット、8ページ)。監督は、そういっている。
監督は、こうもいっている。「我が家は統合失調症の対応の仕方としては失敗例でした。現在は統合失調症を発症しても通院しながら仕事に就いている方々の話も聞きます。医学の助けを借りることはもちろん、家族会や専門家、書籍、ネット、色々な助けがあります。隠したり、閉じ込めたりしたら、その先は袋小路です。それだけは確かです」(映画パンフレット、8ページ)。
「かつて日本では自宅内に『座敷牢』を作り、色々な理由で人を閉じ込めることが横行していました。明治時代になり、1900年に制定された精神病者監護法で警察の許可のもと精神障がい者を自宅に閉じ込める『私宅監置(したくかんち)』が合法化されました。この法律は1950年に廃止されましたが、現在でも精神障がい者や発達障がいの人を長期間閉じ込めていたことが発覚したり、餓死させてしまう事件が報道されています。一方で治療するはずの精神病院で、入院患者が病院職員から暴行を受ける事件も起きています。精神障がい者に対する理解は少しずつ広がっているように感じる瞬間もありますが、精神障がい者が事件に関わったと報道されるたびにネットに『閉じ込めておけ』という書き込みがあふれます。障がいのある人が社会の中で暮らしていく仕組みが充分に整わなければ、その受け皿は家族になり、違法な自宅での監禁が増えるかもしれません」(映画パンフレット、9ページ)。
坂尻昌平(さかじり・まさひら)さん(札幌大谷大学非常勤講師)は語る。
「もとより『統合失調症』がこの映画の主題ではない。両親に対する愛憎でもない。弟の聡明で優しかった姉への思慕と悔恨の念ではなかろうか」(映画パンフレット、13ページ)。
誰が「悪かった」のか。それは、監督の両親であり、マスコミであり、ネットであるかもしれない。少なくとも監督のお姉さんの場合は、両親よりも弟(監督)の判断のほうが信頼できたのであり、そのような場合は弟に両親と同等の権限が与えられていればよかったのではないか。私は、そんなことも考えた。
星野概念(ほしの・がいねん)さん(精神科医として働くかたわら、執筆や音楽活動もおこなう)は語る。
「対話の難しさ、精神医療にかかることの医療的な怖さと社会的なスティグマの怖さ、先が見えなさすぎる不安と絶望感、親の深い苦悩、きょうだいの孤独……。これらを様々な形で抱え、どうしたらよいかわからず困っている人たちはいまも確かにいます。その人たちが、どうしたらよいか考える、大切な声の一つにこの作品はなるに違いありません」(映画パンフレット、21ページ)。この映画が「どうすればよいかわからず困っている人たち」の少しでも助けになればいい。私も、そう願っている。
映画『どうすればよかったか?』公式サイト
https://dosureba.com
藤野知明監督作品
『八十五年ぶりの帰還 アイヌ遺骨 杵臼(きねうす)コタンへ』(2017)、『とりもどす』(2019)、『カムイチェプ サケ漁と先住権』(2020)、『アイヌプリ埋葬・二〇一九・トヨペッコタン』(2021)など。
(2025年2月2日)
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