横堀農業研修センターの一坪共有地強奪に向けた全面的価格保障の適用の前提は崩れている

横堀農業研修センター裁判報告集から転載

 この裁判解説は、「横堀農業研修センター裁判報告集」に掲載されている。執筆は山下一夫(一般社団法人三里塚大地共有運動の会事務局)
 本論は、成田国際空港会社の手前勝手なストーリーに対して、とりわけ民法258条に基づく、全面的価格賠償の適用に対して批判している。6月16日に千葉地裁で判決が行われる。判決に対してどのように批判するかも含めて参考資料として活用していただきたい。

 成田国際空港会社は、空港機能強化で新設される第3滑走路(C滑走路)と現空港をつなぐ誘導路にあたる土地(横堀農業研修センター)強奪に向けて、2023年6月15日、三里塚芝山連合反対同盟(柳川秀夫代表世話人)と土地の共有者4名に手紙を送りつけてきた。
 反対同盟には「本書面到着後1カ月以内に本件各建物等を収去して、下記土地を明け渡していただけない場合は、当社といたしましては、法的措置もやむを得ないものと考えております。」と無理な要求をしてきた。しかも共有者には保障額を提示し月末までに返事を求める一方的な通告を行ってきた。
 そのうえで8月2日、空港会社は反対同盟と共有者4名を被告として千葉地裁に「所有権確認、持分全部移転登記手続き、共有分割、建物等収去土地明渡請求事件」を提訴した。根拠法として民法258条に基づき、全面的価格賠償(2021年民法改正で明文化)によって土地強奪に踏み込んできた。
 民法258条とは、以下のような構成になっている。
 「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
 共有物の分割は、①共有物の現物を分割する方法 ②共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法がある。
 さらにこの方法により、共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させる恐れがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
 さらに裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
 ただしその要件として、①特定の者に取得させるのが相当であること②価格が適正に評価され、取得する者に支払能力があること③共有者間の実質的公平を害しないこと」と明記している。
 空港会社の訴状は、全面的価格賠償を適用するために各要件をクリアーするための作文をでっち上げてきた。手前勝手な作文はこうだ。
 成田空港拡張は「国家的プロジェクト」であり、成田空港会社は金銭支払い能力があり、「本件土地の面積は595㎡であり、空港会社の共有持分は198分の194であり、被告柳川外3名の共有持分は各198分の1」だけだから、「現物分割は何ら合理性がない」。「被告の共有持分の土地面積は、わずか約12㎡にすぎない」から「反対同盟が同建物を維持することはできない」などと結論づけている。
 そのうえで各被告に対して「共有持分198分の1の賠償額26万1527円」支払う、反対同盟に対して「横堀農業研修センター及び工作物を収去して一坪共有地を明け渡せ」と通告してきた。
 なんと一方的であり、盗人猛猛しい姿勢だ。このような空港会社の乱暴な主張に対して弁護団と被告は、つぎのように反論した。そのポイントを以下のように整理した。

①土地の位置が特定できていない

 空港会社(第3準備書面)は、「被告らが現に共有持ち分を有している土地(一坪共有運動の対象土地)と『125番1』として分筆登記されている土地とが異なる土地であることは明らかであり、そうであるなら、『125番1』の登記情報は実際の権利内容と符号しないことになるため、その是正を求めているものである」と主張。
 このように「登記情報の是正」を行えということは、土地の位置が特定できていないまま提訴したということである。
 そもそも全面的価格賠償の前提となる土地の位置が特定できていない。さらに、建物認定の誤認(フリースペース、納屋)など杜撰な訴状で提訴をしている。しかも「国家的プロジェクト」と称して、一方の当事者である被告の権利を無視して強引に押し進めることは権利濫用(民法1条3項は、権利の行使とみられる行為でも、社会常識や道徳に照らして無効と判断される行為を指し、「権利の濫用はこれを許さない」と規定している)であり、「共有者間の実質的公平」を害していることは明白だ。
 空港会社は訴状を撤回すべきだ。

②「信義則違反」と横堀農業研修センターの維持・管理について

 空港会社(第3準備書面)は、「(被告が)信義則違反に当たるから許されない旨の主張がなされ、同主張は千葉地方裁判所及び東京高等裁判所により排斥され、その結論は最高裁判所の決定により確定しているから、被告らの指摘は当たらない」と主張。
 被告は、90年代のシンポ・円卓会議で今後の空港建設で「あらゆる意味で強制的手段」をとらないと約束したにもかかわらず、今回いきなり提訴してきた。明らかに「信義則違反」だ。「あらゆる意味での強制的手段」には「あらゆる意味」という以上、当然、民事裁判的手続きも含まれる。提訴の正当性も公平性もないのであり、権利濫用でしかない。
 しかも空港会社は、横堀農業研修センターは「年に1度の旗開き」しか使っていないという認識を提訴の根拠のひとつとしていた。
このような事実誤認に対して弁護団・被告は、反対同盟・田んぼくらぶ・支援によって現在も年間維持管理され、農作業・集会等のたびに使われている証拠を提出し、反論した。
 弁護団・被告の反論に対して空港会社は、「年に1度の旗開き」使用というでっち上げの破綻に対して、空港会社は「竹が繫茂しており、監視塔から、同土地上にある『横堀農業研修センター』における被告らの活動状況を把握することはできない」などと居直った。
 過去の裁判(横堀現闘本部裁判、横堀一坪共有地裁判)と明確に違うのは横堀農業研修センターが反対同盟・田んぼくらぶ・支援によって維持管理されており、旗開きだけではなく、学習会、諸イベント、壁画設置運動などが取り組まれてきたことだ。
 空港会社のみの都合(空港拡張)によって、広く人々に活用されている施設を一方的に取り上げようとするのは、「共有者間の実質的公平を害しないこと」に反し、全面的価格賠償を適用するための前提がくずれていると言える。

③空港会社の強引な一坪共有地強奪


 空港会社は「相当の対価の支払と引換えに譲り渡してほしい旨を同人らに申し入れた。これに対して、同人らから何らの返事もなかったため、本件訴訟を提起するに至ったものである」と述べている。
 一坪共有地運動の責任機関は、三里塚大地共有委員会である。「三里塚大地共有契約書」は、共有者に対して「転売、贈与、担保権の設定等、権利の移転及び共有地の分割は一切しない」の文言がある。被告は、「単に登記名義を取得した」にすぎないと反論した。
 しかも空港会社は、過去の「裁判」を通して被告と三里塚大地共有委員会との約束事を知っているはずであり、にもかかわらず一方的に「譲り渡せ」と手紙で通告してきた。空港会社は、「同人らから何らの返事もなかったため、本件訴訟を提起するに至ったものである」と述べている。しかも返信期間は2週間でしかない。このプロセスはあまりにも乱暴である。つまり、最初から司法を使った全面的価格賠償方式を使って強制的に権利取得する手法を選択していたのである。これは権利濫用である。「共有者間の実質的公平を害」している。

④滑走路誘導路の位置の変遷と土地取り上げの緊急性

 誘導路に隣接している場所に横堀農業研修センターの土地がある。ところが誘導路の位置は、公表の都度以下のように変わっている。〈1〉四者協議会提案した拡張予定地(2016年9月27日)この段階では誘導路の位置はいまだ未定だった。 〈2〉成田空港の更なる機能強化 環境影響評価準備書(2018年4月27日) C滑走路への誘導路は真っすぐB滑走路方向に延びている。〈3〉さらなる機能強化の概要 への字に曲がった誘導路の位置が黄色で示された。そして、〈4〉「新しい成田空港」構想 とりまとめ2・0概要(2023年7月)。
 最後の「新しい成田空港」構想(新旅客ターミナルと新貨物地区)では第3滑走路からの誘導路はへの字には曲がらず、B滑走路方向へ一直線に伸びている。つまり、誘導路建設構想の変遷は、設計がいまだに流動的であり、緊急性がないのである。設計変更が可能だということだ。
また、日本経済新聞(2025年2月25日)の記事は、「成田の計画はやや遅れるリスクもある。最大のハードルは用地買収だ。滑走路を新設する地域には約200軒の民家や墓地、神社などがある」と報じている。
 つまり、2029年3月末の第三滑走路完成を目指していると言うが、このペースでは達成するには程遠いと言える。否!横堀農業研修センターの強権的取上の緊急な必要性は存在しないということだ。

第5回裁判後の報告集会で発言する柳川秀夫さん(2.17)

週刊かけはし

購読料
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009  新時代社