5・11ATTAC記念講演 香港を耕す

デモの都で考えた農と自由
安藤丈将さん(武蔵大学教員)の講演

 司会の稲垣豊さんが「ATTACはグローバリゼーションの中で、様々な問題をグローバルに解決していこうという運動からスタートした。安藤さんの出版した『香港を耕す』(岩波書店、2024年)は香港を分析する本の中で一番すっきりくる。新自由主義を批判する立場から、香港での農の取り組みをやっている人たちとの交流を通じて書いている。いままでの研究者にはない視点で書かれている」と紹介し、講演が始められた。
 安藤さんの講演は、中国本土と香港をつなぐ高速鉄道建設反対運動が生み出した農の担い手に焦点を合わせ、「社会運動としての農」の可能性とその意義を明らかにした。成田空港第三滑走路の巨大な拡張による農業・環境破壊との闘いにも相通じるものであった。  (M)

安藤さんの講演から
香港における「農」、その可能性

 農場に入り、農民と時間を共にした。香港はビジネスと観光の都市。金融の都市。2010年代は農が密かに流行している。そのことはあまり知られていない。2020年7月に香港国家安全維持法が施行され、治安状況ががらりと変わってしまった。にもかかわらず、農業活動自体は継続している。
 一番中心に調査した生活館、自然あふれる所で共同農場をやっている。野菜をつくっている。機械を使うと狭いので割に合わない。ボランティアを使いながら、手作業で活動している。ビルの裏側や29階の一番上に、屋上菜園がある。香港の北側にある中国大陸に一番近くにある新界地区だ。
 渡り鳥の棲息地。鳥が休める場所をつくるために、田んぼをやる。自然保護活動であり、生物多様性保護活動。稲を育てている。後ろのビルは中国大陸の深圳と手前にある香港の田んぼ。対比をしてみると単なる農ではない。食料生産だけでなくて、政治的・社会変革的な意味がある。ある種の社会運動として農をやっている。
 2014年の雨傘運動。この時に「輝く力を市民に取り戻す」、そういうことを書いたのが「民主耕地」。社会運動と農はかなり密接にある。
 「社会運動として農」は私のつくった造語。それは農を営む、それを通して社会を変革する。そういう実践。社会運動は一人でやるのではなく、集合的にやる。人と連帯してやる。もう一つは社会を変える。仲間内だけでなくて、社会全体を変える。

 香港で社会運動として農がどうして生まれたか。何をしているのか、どういう変化を社会に起こしてきたのか。東京とか日本においてはどういうふうに考えるか。

高速鉄道反対運動と菜園村

 香港はデモが盛んな所として知られていた。2003年7月1日、治安維持法的な法律をつくろうとした。市民50万人がデモをして反対した。それ以後、毎年7月1日には数十万人のデモが行われた。
 こうした活動の中で、農の活動の誕生のきっかけになったのは高速鉄道反対運動だ。2009年から2010年。新幹線を広州から深圳を経由して香港まで通そうとした。2008年に、新幹線が通る所に菜園村があった。立ち退きを迫った。立ち退きを迫られたのは土地の権利を持っていない人たち。1940年代から50年代に、中国大陸から来ている移民。文革の混乱から逃げてきた人たち。
 村人たちを助ける都市の若者たちが菜園村支援グループをつくった。大学生、高校生、様々な労働者。彼らは菜園村に住んでいない。なぜ反対したのか。①高速鉄道が香港全体の利益なのか。この事業によって儲ける人とそうでない人が出て不平等だ②新幹線を作り開発する。開発が本当に良いのか。生活・自然環境が壊される。香港から広州まで45分で着いてしまう。交流が活発に行われ、村人の生活が面白いと感じた。
 反高速鉄運動後の「新農」の急増。生活館の農は、化学肥料を使わない、機械をほとんど使わない。60~70種類の野菜と2種類のコメ。販売は共同購入。ガイドツアーで啓発活動をしている。200~250人が支援している。

世界的な新自由主義
反対農民運動の発展

 社会運動としての農。農は人間が生きるための総合的なトレーニング。農は持続可能性を実現する。2000年代に世界に広がる。ビア・カンペシーナ、WTO・世銀反対運動など。企業主導の農業批判、農薬ではなく農法の変革で。運動の転換が必要ではないか。国家中心でなく、路上の行動で。農は①日常性②社会問題の集約性、貧困問題③地域的展開性、視野の拡大、つながりをつくる。
 香港人は、大陸から自由を求めて移住してきた人びと。資本主義の拘束からの自由。農による自由は、資本主義的な論理からの解放。「自由であること」は今日の運動の核となる。
 
非暴力的抵抗

 暴力の連鎖。香港政府の弾圧。運動の暴力のやむをえなさ。現在的にはミャンマー、ウクライナ、パレスチナなど。2019年香港、肯定も否定もできない。副作用がある。抵抗の主流化、犠牲者の英雄化。非暴力な抵抗はあるのか。
 農は非暴力的「抵抗」。生活館の場合、開発行政との対決。それに対する批判的な見方を草の根で広め、開発行政の正当性を揺るがし、生の展望を与える。
 香港の農民から学べること。
 「社会運動としての農」というスタイル。農は食べ物を生産するだけではない。環境や土地の保護、市民の教育、地域づくり、さらには民主化の方法でもある。

農から東京の未来を描く

 東京オリンピックや大阪万博、原発推進など開発型が推進されている。農民の急速な減少、農家時給10円問題など農の危機は進んでいる。農は、社会再構築の方法。「開発の亡霊」と決別し、協働を促すことを可能にする、未来の変化に向けて土を耕し種をまく。
(発言要旨、文責編集部)

香港の農について講演する安藤さん(写真右側)


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