沖縄報告:8・3戦争PTSDを考える講演会・シンポジウム
終結した後も心に爪痕を残す戦争を論議
8月17日 沖縄 沖本裕司
8月3日(日)、那覇市の沖縄県男女共同参画センターてぃるる1Fホールで、戦争PTSDを考える講演会・シンポジウムが開かれた。共催団体は、ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会と南京・沖縄をむすぶ会。後援団体は、沖縄戦・精神保健研究会と(公)沖縄県精神保健福祉会連合会。沖縄戦終結80年の今年、戦争の実態を振り返り、軍隊の暴力による加害と被害、戦争後も継続するトラウマに向き合う努力が地元二紙をはじめ広がりを見せている中、大きな注目を集め約280人が参加した。司会は、平和ガイドとしても活動している瀬戸隆博さん、松井裕子さんのお二人。第1部は講演、沖縄戦のPTSD、日本兵のPTSD、南京戦のPTSDに関してそれぞれ報告があった。第2部では、「親から子へ―連鎖する戦争トラウマ」と題して、四人のパネラーが壇上で意見交換した。なお、アンケートは計69通提出され、関心の高さを示した。当日の模様は以下のサイトで視聴できる。
第1部 https://
youtu.be/
PC3sBEDOIFM
第2部 https://
m.youtube.com/
watch?v=
2UL8DGDn7oY
PTSDに関して多様な角度から報告と議論
新垣邦雄さん(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会事務局長)が開会あいさつに立ち、共催に至った経過に触れながら、「戦争トラウマを考えることは現実の戦争の動きを止めようとすることにつながる」と述べた。
當山冨士子さん(沖縄戦・精神保健研究会 会長)は、かつて保健婦として激戦地であった具志頭村(現八重瀬町)で行なった調査から、戦争体験がどのように生き残った人びとの精神に影響を及ぼしてきたかを詳しく報告した。この調査は沖縄戦のPTSDに関する最初の発見といわれるもので、家族および本人の戦死傷・被害など戦争体験と統合失調症・てんかんなどとの関連性を明らかにしたものである。
さらに當山さんは、2012~13年にかけて6市町村・2離島村のデイサービスでの75才以上の400人を対象に行なった調査を報告した。それによると、戦争を思いだすきっかけは、テレビ・新聞の報道(79・1%)、慰霊の日や法事(72・8%)、基地や軍用機(51・4%)、雷や花火(20・2%)。PTSDのハイリスク者が40%に上るにもかかわらず、精神健康度が良好であった理由として、「自然順応の哲学」「‘ゆい’という相互扶助の精神や地域共同体とのつながり」をあげた。
黒井秋夫さん(PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会代表)ははじめに、戦争PTSDの兵士を収容した国府台病院(千葉県市川市)で撮影された、手足のけいれんで立ち上がることも(失立失歩)水を飲むこともできない患者の映像を放映した。ヨーロッパで「シェル(砲弾)ショック」と呼ばれた戦争神経症を日本政府・軍部は早くから知っていたが、「皇軍には皆無」として隠ぺいしてきたのである。
黒井さんは、五年前自宅に交流館を設け、戦争PTSDの兵士の家族と共に各地で証言集会の開催を重ね、厚生労働省に対する国としての詳細な調査を求めるねばり強い活動を続けてきた。新聞・テレビが大きく報道するに至り、今年になりやっと、厚労省が「しょうけい館(戦傷病者史料館)」で、国府台病院に残された資料を展示するに至った。国府台病院に収容された兵士は1万4000人余、残されたカルテは8000余に過ぎない。黒井さんは、詳細な調査により悲惨な実例を余すところなく後世に伝えることによって、戦争をしない社会の世論をつくることができると述べた。
そして、昨年9月に中国吉林省を訪れ生徒・教員たちが並ぶ校庭で土下座し「加害者の子ども」として日本軍の侵略を謝罪した映像を流した。日本の中国・アジア侵略の残虐な歴史をふりかえり、日本が再び侵略をしないという信頼を獲得してこそアジアの平和が訪れると締めくくった。
南京・沖縄をむすぶ会の沖本裕司事務局長は、「南京戦が生み出した戦争トラウマ」と題して、1937年南京戦に至る経過、南京戦を取り扱った日中二つの小説、中国侵略・南京戦から受けた日本兵のトラウマ、国際安全区委員会のミニー・ヴォートリンの日記、南京の人々のさまざまな被害とトラウマの実例、幸存者二世のお二人の証言を紹介したあと、今年10月に計画している南京訪問への参加を呼びかけた。(次号掲載予定)
休憩をはさんで、第2部は當山さん、黒井さんに加えて、幸喜愛さん(沖縄県議会議員)、平良次子さん(対馬丸記念館館長)の四人のパネラーによるシンポジウムが行なわれた。
シンポジウムで幸喜愛さんは、戦争トラウマが世代を越えて負の連鎖をするということを当事者としての事実に即して語った。沖縄タイムスの連載「悲しや沖縄―戦争と心の傷」にも詳しい記事が掲載されたので、ご覧になった方も多いだろう。自ら指を詰めて徴兵を拒否した祖父が周りから「非国民」扱いされた上、祖父の二人の娘が日本軍の弾薬運搬に協力して沖縄戦で命を落とし遺骨も帰らないという事態の中で、祖父の性格が一変、家庭内で暴力を振るい周囲とも距離を置くようになった。そういう祖父に育てられた父は父で、外面と内面が全く逆。演出家として名声を得た父は家庭内では子供たちに対して厳しい暴君のようであった。こうした親子関係に苦しみ父に憎しみを抱いていた幸喜さんはのちに當山さん達の研究会に繋がり、「戦争トラウマの負の連鎖」ではないかと考えるようになったという。
閉会あいさつは具志堅正己さん(南京・沖縄をむすぶ会代表)が行ない、「今回のシンポジウムは北部・石垣にも広がりを見せている。新たな戦争PTSDを生み出してはならない」と締めくくった。
また、講演会・シンポジウムに先立ち、8月1日には県庁記者クラブでの記者会見とフィールドワークが行なわれた。フィールドワークは、ガマフヤーの具志堅隆松さん、平和ガイドの松井裕子さんの案内で、糸満市束辺名の自然林、ひめゆり学徒隊の山城本部壕、魂魄の塔、平和の礎などをまわった。
戦後日本が置き去りにした「大日本帝国の戦争」
今、戦争PTSDが大きな社会問題として浮上していることの意味は何か。戦後日本が置き去りにしてきた「大日本帝国の戦争」その兵士の問題が無視できなくなったのである。当然である。日本国家は日中戦争・日米戦争に国民を総動員した。その結果、戦病死者230万人、多数の負傷者と共に、戦争トラウマを抱えたおびただしい数の元兵士が地域の隅々に放置された。戦争PTSDの兵士の問題は長らくそれぞれの家庭に押し込まれ潜在化したままであったが、黒井秋夫さんの頑強な訴えをきっかけに顕在化し各メディアが取り上げるところとなったといえる。
戦争トラウマに苦しんだのは日本兵だけではない、様々な戦争被害を受けた日本国民、何よりも皇軍の暴力を受けた中国・南京の人々をはじめアジア諸国民が一番の当事者であることにこそ思いをはせなければならない。沖縄で開催された戦争PTSDを考える講演会・シンポジウムは、日本兵のPTSD、沖縄戦のPTSD、南京戦のPTSDを共に取り上げることを通じて、戦争のトラウマを多角的に論じる必要性を提起したといえる。
この機会に、戦後日本が置き去りにしてきた「大日本帝国の戦争」に社会全体として向き合うべきではないか。天皇制、戦犯、沖縄と基地、在日朝鮮人、植民地支配、国民の戦争被害、中国・アジア諸国での日本軍の暴力など、歴史を知り学ぶことは未来を築く基礎となる筈だ。
8・2辺野古県民大行動に600人
8月の第一土曜日、恒例の辺野古県民大行動が実施され各地から600人集まった。まず、PTSDの日本兵家族会の黒井秋夫さんが持参した白旗を横に、「日本軍のアジア侵略により多くの日本兵が戦争トラウマを抱えた。日本政府は隠してきたが、100万人以上のPTSD兵士がいたはずだ。全容を明らかにすべきだ」と述べ、8・3講演シンポジウムへの参加を呼びかけた。
稲嶺進さんはいつものように「ハイサイ、グスーヨー」と切り出し、「日本の右傾化は沖縄にとって危険。許してはいけない、認めてはいけない。心を一つにして新たな闘いの出発を」とアピールした。司会の福元勇司さんが玉城知事のメッセージを読み上げたあと、昨年の安和ゲート前でのダンプによる死傷事故について、三宅俊司弁護士と重傷を負い今なおリハビリを続けている女性の姉が発言した。
三宅弁護士は、「先週警察から連絡があった。こともあろうに、被害者の女性を犯罪被疑者として取り調べようというのだ。不当極まりない。死傷事故に責任があるのは工事を急ぐ防衛局と警備のアルソックにある。被害者を加害者とする策動を許さない」と表明した。被害者の姉は、「妹は一時、生命まで危ぶまれる状態だったが、度重なる手術に耐えリハビリを続けて、杖をついて歩けるまでに回復した」と報告した後、当日の現場の映像を公開するよう求めていることを明らかにし、妹さんのメッセージを読み上げた。
そのあと、うるま市、大宜味村、名護市、本部町の各島ぐるみのあいさつが続いた。沖縄選出国会議員で構成するうりずんの会のメンバーと共に前に立った新参院議員の高良さちかさんは「昨日、初登院だった。みんなで勝ち取った平和の一議席、重みのある議席。6年間頑張っていきたい。くらしの問題、基地の問題、私たちの手に憲法を取り戻すために闘う」と決意を表明した。
県議会与党会派は11人が並び立ち、仲村未央さん(おきなわ新風)が参政党を鋭く批判、基本的人権を大切にする人間ファーストの政治の実現を訴えた。現闘部の瀬長和男さんは「安和の現場に、平日の3~6時、台数チェックのために来ることができないか、協力してほしい」と呼びかけた。
(了)

2025.8.3 戦争PTSDを考える講演会・シンポジウム。シンポジウムで発言する黒井秋夫さん。
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