フクシマの現状と課題
武藤類子さん(原発事故被害者団体連絡会共同代表)
2011年の東電福島原発事故直後、日本中の市民が事故のすさまじさに震撼し、原発を推進してきた国や東電に憤り、原発はもう止めよう、新しい世界を作ろうと家から一歩踏み出して、各地の集会に集まった。でも15年、あんなにすごいことが忘れられ、新エネルギー基本計画は原発を最大限活用していくと決め、各地の原発の再稼働が進められている。
再稼働に反対する
特に福島原発と同じ東電の柏崎刈羽原発の再稼働には深く憤りを感じる。事故の収束もしておらず、経営陣の誰も責任を取らないままの東電が、違う原発を動かすことは耐え難い程愚かで許せない。新潟でがんばっている皆さんと連帯したくて、福島からも誘い合って何度も足を運んだが、6号機の再稼働が容認されてしまった。
原子炉を動かそうとしたら、原発のブレーキとも言える制御棒のトラブルが何度も起き、それを対症療法だけで、強引にまた再稼働した。さらに中部電力の浜岡原発の地震動のデータ捏造事件は衝撃的だった。
規制委員会は外部通報がなければ気がつかず、しかも情報があってから、発表に至ったのは何カ月も後だった。福島原発事故は原子力を冷却する電源がすべて失われ、3つの原子炉がメルトダウンし、3つの原子炉が水素爆発するレベル7という最高レベルの過酷事故だった。失ったもの、危険に晒された命、侵害された人権はどれだけのものであったかを改めて思い出そう。
大量の放射性物質が拡散され、16万もの人に避難指示が出され、今までの暮らしのすべてを残したまま、家を出ざるをえなかった。一方で取り残され、命を落とした動物たちがいた。制限された避難指示で、高線量地帯に残留させられた人々もいた。何の保証もないまま子どもを連れて、自力で避難した人々もいた。メルトダウンの事実は隠され、安定ヨウ素剤は配られず、スピーディーな情報は公表されなかった。
放射性物質の入ったゴミの焼却の基準は一キログラム当たり100ベクレルから千ベクレルになった。やがて、売れなくなったコメが給食に使われ、風の強い日のマスク使用は認められず、プールの再開が始まった。そして復興のためのイノベーションコースト構想が始まり、避難者の住宅支援の打ち切りが始まり、オリンピックの会場になった。事故直後から、事故の隠蔽と被害の過小評価、放射線に関する基準を変えることで、住民を被曝の危険にさらし、救済をせず国や自治体、電力会社を守ることが行われた。
福島の今
今の福島はどうだろうか。原発構内での過酷な被曝労働は日々続いているにもかかわらず、中高校生を含む一般人の原発構内や中間貯蔵施設内の見学ツアーが行われ、福島原発周辺の安全のアピールに利用されている。昨年の復興の基本方針の変更によって、避難指示の解除をしないままに、帰還困難区域のバリケードを解除し、整備を再開し区域内での活動を自由化する山菜の接種基準の見直しが決められた。
それは全面除染はせず、被ばく線量や食品の摂取量は自己責任という住民への被曝防護の放棄の上にある。汚染水が意図的に流され、海をさらに汚染し続け、被曝労働と莫大なおカネをかけて集めた除染土は復興再生と名付けられ、そのほとんどが全国の公共事業に使われようとしている。小児甲状腺がんは県民健康調査とがん登録制度そして民間の調査を合わせて、417人となった。原発事故との関連は否定されたままだ。
貧困、病気、孤独、情報弱者などそれぞれが深刻な事情を抱え、避難住宅を退去できない避難者に対して、福島県などが起こした追い出し訴訟は国家公務員住宅だけでも40件にのぼり、追い出しの強制執行が行われている。そして最高裁は避難者に高額の支払いを決定している。
その一方で、原発近隣市町村への手厚い補助金や移住政策が盛んにおこなわれ、小さな子ども連れの若い人がどんどん移住し、起業している。そこには原発事故や被曝の文字は見当たりません。福島イノベーション首都構想やエフレ国際研究教育機構ではロボットやドローン、宇宙開発など軍備への転用が可能な技術の開発が莫大な復興予算を使って行われ、広大な津波被災地に最先端な研究都市が作られようとしている。
嘘は悪いことだ
復興の物語の中で、夢、未来、希望、理解、寄り添うという言葉が盛んに語られるが、どの言葉にも真実はない。被害者の暮らしと暮らしの再建とかけ離れた復興は砂上の楼閣のようだ。原発は核の平和利用ではない。人類が原子爆弾を手に入れると決めた時から、圧倒的な力のためには何かを犠牲にしてもかまわない。これが核の思想だ。原爆と原発と同じ技術だ。いま私たちは原子爆弾を出発とした核の歴史の中で核兵器が、核実験が、ウランの採掘が、核廃棄物が、そして原発事故がもたらすものをしっかりと見つめ、ウソと理不尽と暴力に満ちたその歴史を一刻も早く閉じなければならない。
そのために、最後に分かち合いたい言葉がある。嘘が悪いことだと当たり前に言おう。何よりも命が大切なのだと堂々と掲げよう。恥ずかしがることなく、人に思いやりを持とう。自分で考えることを放棄することはやめよう。言葉の真実を取り戻そう。(発言要旨、文責編集部)

武藤類子さん(3.7)
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