参院選で問われているものは何か?
軍拡・改憲を阻止し
「エコ社会主義的左翼」再生の第一歩を
大森敏三
第27回参院選が、7月3日公示、20日投開票で実施される。今回は、イスラエルとアメリカによるイラン核施設などへの攻撃、生活を直撃している物価値上がりとコメ不足、気候変動による異常気象の日常化といった状況の中でおこなわれる参院選となる。われわれは、この参院選にあたって自前の候補者を擁立して闘うことはできていない。しかし、この論稿では、参院選において何が問われているかを提示した上で、今後の新たな左派結集に向けた課題と選挙に臨む方向性を明らかにしていきたい。
昨年衆院選以降の国際情勢の激変
トランプ大統領の再登場は、国際情勢の様相を一変させ、われわれをある意味では予測不可能な激変に直面させている。トランプは、「MAGA」(アメリカを再び偉大に!)、「アメリカ・ファースト」を掲げて当選し、大統領就任後は、国際的にはアメリカ一極覇権の再現、国内的にはブルジョア民主主義的体制の破壊と白人男性支配の再構築を目論んで、さまざまな施策を矢継ぎ早に打ち出してきた。そして、中国に対する軍事的・政治的・経済的圧力を高めるとともに、アジアの「同盟国」により一層の軍備強化、軍事費増大(GDPの5%!)を要求してきている。すでにヨーロッパでは、NATOが2032年までに軍事費・軍事関連費をGDP比5%にまで引き上げることで合意した。
また、第2期トランプ政権の誕生は、世界の極右勢力を刺激し、その活動を活発化させている。イスラエルのネタニヤフ政権は、トランプの再登場に力を得て、ガザでのパレスチナ人抹殺計画を新たな段階へと進ませ、イランの核関連施設などへの攻撃に踏み切った。そして、アメリカ自らも「バンカーバスター」爆弾を使用したイラン地下核施設への攻撃をおこなった。長期化するロシアによるウクライナ侵攻と合わせて、世界的に戦争と軍事衝突の危機が高まっている。
参院選で問われているものの第一は、こうした戦争と軍事衝突の危機に対して、とりわけ東アジア(朝鮮半島と台湾海峡)における緊張の高まりに対して、石破自公政権のように軍備拡大・軍事費増大の道を突き進むのか、それとも東アジアの緊張緩和と平和に向けた政策を選択するのか、という点にある。具体的に言えば、軍事費増額、沖縄・南西諸島をはじめとした軍事基地の強化、米軍主導下での日米軍事一体化などに反対していくことが課題である。参院選を通じて、トランプ政権の圧力のもとで、軍事費をGDP比2%にとどまらず、さらに増やそうとすることを阻止し、軍拡・改憲反対、辺野古新基地建設反対、南西諸島の軍事要塞化反対の主張を大きく拡げ、運動を強化していかなければならない。その意味からも、沖縄選挙区において、辺野古新基地建設に反対する高良沙哉さんの当選をかちとることが重要である。
同時に、われわれは、政府がイスラエルによるガザでのジェノサイド攻撃を明確に糾弾し、イスラエルへの制裁をおこなうこと、民主勢力への攻撃を続けるミャンマー軍事政権との関係を断つことを要求していかなければならない。
気候危機の深刻化とエコ社会主義的
社会変革の切迫した必要性
トランプはまた、徹底した気候変動・地球温暖化の否定論者であり、その主張はアメリカ資本主義支配層内部の化石燃料産業や軍事産業、巨大IT企業の意向に沿ったものである。トランプはパリ協定からの離脱と気候危機に対処するための予算・人員の徹底的な削減に踏み出している。
しかし、トランプがいくら否定しようが、気候危機はその間も容赦なく深刻化しており、不可逆的に地球沸騰化が進行するティッピングポイントが目前に迫っている状況に変わりはない。
こうした気候危機の深刻化は、われわれが第四インターナショナル第18回世界大会で確認した脱成長エコ社会主義革命の客観的必要性をますます切迫したものとしている。現在の資本主義的生産様式のもとで、過剰なエネルギー消費と商品生産を続けることは人類の生存そのものに関わっているからである。
われわれはエコ社会主義的変革に向けた展望を見据えながら、現に存在している気候危機を少しでも遅らせ、緩和するための施策を要求していかなければならない。
地球温暖化の主因であるCO2排出をただちに削減しなければならないが、そのためにはエネルギー消費と不要・有害な生産活動を抑制する方向へ社会のあり方を変える必要がある。石炭火力発電の廃止、工業的農業からの転換、公共交通システムの抜本的整備などが緊急に求められている。
その一方で、原発の新増設・再稼働が進められていることに対して、石炭火力も原発もない社会を掲げて、原発反対の闘いを強めていかなければならない。原発は、原子炉製造・ウラン採掘と廃炉の過程で大量のCO2を排出し、一度事故が起きれば大災厄をもたらすからである。
脱炭素・脱原発の方向に決定的に舵を切るのかどうか、が参院選の中で問われている第二の問題である。
労働者民衆の生活と権利の防衛を
労働者民衆の生活と権利を防衛することもきわめて大きな課題である。進行する物価値上がりと社会の二極化、格差の拡大は、経済的・社会的に脆弱な人々、とりわけ女性、青年層、高齢者、非正規労働者などを直撃している。こうした人々の生活を防衛するためには、非正規労働者の正規化(労働者派遣法の廃止も視野に入れて)、大幅賃上げ、最低賃金の全国一律での抜本的引き上げ、消費税廃止などが必要である。
また、医療・水道・子育て・高齢者福祉・公共交通・教育などの公共サービスを市場メカニズムに委ねるのではなく、民営化されたものを再公営化するなど地域住民の手に取り戻し、住民自身の管理と統制のもとにおくことが求められている。こうした政策に必要な財源は、巨大独占企業をはじめとした資本家階級と富裕層に払わせなければならない。さらに、労働者が自らの生活と権利を守るためには、正規・非正規を問わず、とりわけ非正規労働者の労働組合への組織化のためにとりくむことが決定的に重要である。
コメ価格の高騰とコメ不足問題は、政府の進めてきた減反政策の致命的誤りを露呈させ、農業政策の根本的転換が必要なことを明らかにした。当面は、コメ生産者への所得保障とコメの価格保証によって、コメ不足の解消を図ることが必要だが、問題はそれだけにはとどまらない。農業の資本主義化・大規模化ではなく、小規模農業生産者が有機農業を実践できる農業政策と農産物を地産地消する枠組み作りが必要である。
三里塚空港拡張(第3滑走路増設など)をはじめとする巨大開発に反対するとともに、大阪万博や夢洲でのカジノ建設を含めた資本の利益のためだけの都市再開発事業に反対し、労働者民衆自らが管理する都市計画・防災体制を作っていくことが問われている。
さらに、多様な生き方を尊重し、被差別の立場に置かれている人々とともに、女性、LGBTQ、外国人などに対する差別と闘い、一切の差別を許さない社会を作り出すための施策の要求とそれを実現させていく運動を強めていく必要がある。とりわけ、参政党や自民党の一部が、移民の排除など外国人嫌悪の政策を公然と掲げていることを厳しく批判し、これと対決することも参院選の中での大きな課題である。
自公与党勢力を過半数割れに追い込み、左翼再生への第一歩を作ろう
先ごろおこなわれた東京都議選では、自民党・公明党が歴史的な敗北を喫した。その一方で、従来の自民党支持保守層の支持も得て、極右・参政党が3議席を獲得した。その一方で、共産党が議席を減らし、社民党やれいわ新選組も議席を獲得できなかった。そして、投票率は前回よりも5・2%増えたとは言え、半数以上の有権者が投票に行っていない状況に変わりはない。つまり、昨年総選挙で見られた低投票率の中での自公与党勢力の敗北、伝統的左派勢力の後退という傾向が続いていると言えよう。
こうした中で実施される参院選において、われわれの獲得目標は何よりもまず参議院でも自公与党勢力の過半数割れを実現し、あわせて国民民主や維新、参政党などをも合わせた改憲勢力を3分の2以下の議席数に追い込むことである。その結果、少数与党政権になるのか、あるいは野党による政権が樹立されるのか、のいずれであっても、9条改憲阻止、軍拡反対、脱炭素・脱原発、生活防衛を求める大衆的な運動のためのスペースが大きく開かれることになるだろう。その上で、参政党など議会内極右勢力や街頭に登場する極右レイシスト集団などとの闘争がますます重要な意味をもつことになる。
そうした闘いを進めていく上においても、周縁化と孤立を余儀なくさせられている左翼の再生が決定的に重要である。現在の政治・経済・社会システムの根本的な転換=オルタナティブな社会をめざす闘い(エコロジー的で社会主義的なプロジェクトの再構築)には、全く新たな、資本主義とは決別した社会のイメージを提示することができ、そこに至る要求と闘争の道筋を示し、現にそうした闘いや運動の先頭に立つことのできる、労働者・民衆から信頼を受ける左翼の再生が不可欠だからである。それは直線的に実現できるものではなく、現在の枠組みを超えた広がりと内容を持って、多様な形で追求されていかなければならない。今回の参院選を通じて、こうした挑戦に向けた第一歩を作り出していこう。

6・25米国大使館抗議行動(報告記事2面)
The KAKEHASHI
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