総選挙結果について
自・公過半数割れだが にもかかわらず国民的湧きあがりがない
「自民党政治への厳しい国民の審判が下った」「裏金政治をめぐって自民党に鉄鎚が下った」のだが、何となく喜びに沸く・期待が持てると言う感じになっていないと言うのが選挙結果に対する国民の大多数の感じではないか。
今度の衆議院選挙は戦後3度目の自民党過半数割れの事態である。1度目は1993年細川政権の成立。それから16年後の2度目は2009年民主党政権の成立である。今度の3度目は安倍第2次政権成立から15年目である。
1度目はともかく2度目は「国民の生活が第1」のマニュフェストの下に自民党に代わる政権が誕生したので国民的興奮も伴ったのであるが今回は違うようだ。
確かにおごり高ぶった自民党安倍政権のあまりにひどい政治資金法の踏みにじりに対して国民の怒りが反映して自民党は過半数割れに追い込まれたのだが、生活苦、格差の拡大、移民問題、軍備拡大と戦争の危機等国民が直面する問題についての改善方向については全く展望が見えていない。
今度の選挙結果についていくつかの側面から見てみたい。
戦後3番目の低投票率
50%が政治に期待持てず棄権
自公過半数割れを結果したにもかかわらず、今回の選挙の投票率は戦後3番目に低い53・85%だった。有権者の約半分しか投票していないということである。93年は67・26%、09年は69・78%だった。前回の自民党過半数割れは投票率が10%ばかりアップしたことの効果が指摘されていたが、今回は投票率が3年前よりも下がる中で自民党の過半数割れが起こっており、自民党に代わる政権を求めてこれまで選挙に行かなかった層が積極的に投票に行った表れということではないようだ。 「投票に行こう」の呼びかけは政治にあきらめを感じている層に覚醒を促すのだが、魅力ある政策を掲げる政党への期待なくして投票への動員は不可能なのだ。裏金問題での「赤旗」報道は極めて重要な効果を及ぼしたのだけれど、肝心の共産党への投票数は減になってしまったこととの相関関係があるのだろう。
20代、30代の得票1位は国民民主党の異変 生活苦からの脱出願望の即時的反映か
この間若年世代の政治意識の右傾化、無関心化が話題となり、20
代30代でも比例区の政党別得票率では自民党が1位を占めてきた。ところが今回は20代、30代の得票率は立民ではなく国民が26%、21%で1位に躍り出た。
国民民主の予期せぬ議席4倍化はとりわけ都市部の若年層での得票率アップによるものなのである。これはSNSによる政策発信が功を奏したと言われるが、課税最低年収の引き上げによる「手取りを増やす」が高齢者医療費の削減イメージとあいまって若年層に支持されたと言われる。
この国民民主の得票率の伸びは右傾化、無関心ということではなく若年世代のある意味での政治への反応の顕在化として注目しなければならないだろう。
「右傾化」にストップはかかっていない
自民党の過半数割れは、従来の政治感覚で言うと保守の後退・革新の伸長とか右派の後退・左派の伸長という概念ではとらえられないであろう。自民党の過半数割れの主要な原因はこの間の安倍派主導の政治にあり、また安倍派を支えた岩盤支持層の右主流が自民党枠組みとの軋轢を起こしていることである。
さらに17年民進党の分裂によって成立した立民が新自由主義世界経済のブロック化の緊張の高まりの中で「右」に引き寄せられてきたことである。
日本の資本主義はジャパンアズナンバーワンの行きづまりを新自由主義グローバリズムの中で主に中国への資本投資で生き延びてきたが、新自由主義経済の行きづまりの中で新たな利潤の確保先を求めて国内産業の再編制に取り組まなければならない。
また日本はウクライナへのロシアの侵攻以来G7の一翼としてアメリカの中国包囲の戦略の下中国を対象とした軍事力増強にはまり込んでいる。
その中で起こっている安倍退陣以降の統一教会問題、裏金問題、衆院解散・総選挙を射程に置いた自民、立民党首選、自公・政権過半数割れの過程は「立憲主義」を基準に考えれば「立憲政党」の勢力後退の危機としてとらえなければならない。選挙結果は立民に立憲的議員が含まれているものの、明確に「立憲政党」としては衆議院全体でれいわ9人、共産党8人、社民1人の合計18人、4%の少数派であるという事実である。
このことと密接な関連がある改憲について「安倍政権の下での改憲反対」の立憲が反改憲の議席として数えられていたのだけれど、「ともかく改憲」も含めて今後の成り行きに対処していかなければならない。
生活苦に対する反応は敏感
危機打開のための本質的政策争点化不在
選挙で争点は裏金問題にみる金権政治の浄化の大衆的要求が帰趨を決定した。軍事強化と戦争の危機回避、改憲、地球温暖化危機、外国人労働者・移民問題等今後先鋭化するであろう本質的問題での争点化は全く不十分であった。
しかし国民の直接的切実な実感は生活苦であるだけに、「手取りを増やす」(国民)「手元にお金を残せ。インフレ対策給付金10万円」(れいわ)等分かりやすい政策には反応が高まったし、野党は1500円の最賃を掲げた
しかし格差拡大緩和のための即決の政策である税制について、消費税撤廃、累進課税率是正、法人税、内部留保の課税、利子所得課税などについての議論はほとんど焦点化されなかった。
選挙期間中、日米共同統合演習「キーン・ソード」が開始され、防衛3文書後の初めての国政選挙であるにもかかわらず、立民の「国を守るために軍備増強は必要だが増税には反対する」という主張により軍事増強・戦争の危機回避の大問題について全くと言っていいほど焦点化されなかった。
自民党一強体制の崩壊から「3極」への移行か
自公政権の過半数割れは直ちに連立政権の枠組みをめぐって政局に移行していく。50議席増の野党第1党の立憲がこの政局の要になりえないのは数の不足というよりも、裏金問題という「敵失」によりもたらされた議席増であり、自公政権に代わる政策的魅力が国民的に感じられないからである。
新自由主義に基づく急進的「改革」によって招いた格差とアンダークラスの拡大の危機を民主党政権の「失政」と国民意識の相対的右傾化に基盤を置いた「岩盤支持層」の取り込みによって維持されてきた自民党政権基盤は再編を余儀なくされている。すでにG7諸国で起こっている保守中道、左派、極右という3極への構造の力学が動いているだろう。戦後初めての保守・参政の「極右」政党の議席獲得はその予兆であろう。
マスコミでは自民党の分裂による「高市新党」など話題にされているのだ。「極右」の形成はいずれにせよ伝統的天皇制イデオロギーが基軸となるのではなく、日本資本主義中枢が構想する資本の効率化のための「価格転嫁」「生産性の向上」労働市場の「緩和・労働権骨抜き」社会福祉制度の再編は国民大多数の犠牲を一層強要することになり、軍備増強による中国敵国意識の高まり、また外国人労働者に対する排外主義的高まりが醸成される度合いによるのでありこれを阻止していかなければならない。
市民と立憲野党
の共闘の行きづまり
安倍政権による「専守防衛」から「集団安保」への転換への国民的危機意識の高揚から始まった立憲野党と市民の共闘は、19年立民の成立と共産党の自主的候補取り下げにより、選挙においても自民党多数において一定の歯止めの役割をしてきた。しかし立民の右傾化、共産党の独自候補の最大限擁立方針への転換によって、市民連合など熱心な運動が続いた地区などを除いて「立憲野党」の選挙での共闘は成立しなかった。
この不成立は立民の党首選の中での15年安保法の容認姿勢によって決定的となったが、しかし共産党自身が「独自候補の擁立は党大会の決定による」と認めているように、共産党は1月の29回党大会において「党首公選論」の波紋、待ったなしの党組織の後退により、「自衛隊活用発言」の停止、「共産主義社会における自由」「革命党」の強調により、今までの民主連合政府の過程による現実主義的政策から独自的党防衛への路線転換を進めていたのである。
れいわの伸長に左派の活路が
一方れいわは1・75倍得票を増やし共産党を得票数で上回り議席も3倍の9を獲得した。
共産党とれいわの得票の分布の違いは世代別の得票率に大きく表れている。20代~50代でれいわは10%を超えたにもかかわらず共産党は5%。逆に70代と80代では共産党は8%だがれいわは1~3%である。
この結果について共産党は未来社会の訴えなどが「とりわけ若い世代、労働者の中で新鮮な注目と期待をよんだ……党の世代的継承を中軸とした党づくりをすすめるうえでも大変重要述な教訓だ」と述べている。
外国人労働者問題、旧立民出身幹事長の発言問題、沖縄一区の擁立問題などれいわにも克服しなければならない問題が部分的に露呈したわけだが、れいわ結成以来4年を経過して伸長したことは今回の選挙の大きな特徴である。
何となく「暗く」「内部統制的」で「言論の自由」がないような印象を与えている共産党に対して若者の関心を惹起し、アンダークラスに基盤を置き、何となく自由な感じの左派の伸長は今度の選挙の大きな特徴でもある。
われわれの立ち遅れを克服しよう
左派の統一戦線ブロック構築を
『かけはし』では総選挙の投票について「比例は社民党・共産党に投票を」という総選挙アピールが掲載された。れいわに対する評価が煮詰められていない事情によって従来のまま出されたアピールであるが情勢への立ち遅れを率直に認識しなければならない。
ウクライナへのロシアの侵攻、パレスチナ危機、ブリックスの台頭と世界のブロック化、政治の多極化の中で日本においても中道左派との共闘ではなく左派統一戦線ブロックの形成が必要である。
左派統一戦線は議会選挙に規定された政党の組み合わせ中心のものではなく、全国各地、諸課題の大衆闘争は既存の政党下にあるというよりも既存の政党から独立して展開されており、広く総結集を図っていかなければならない。
新自由主義経済の行き詰りの中で、国家の統制による資本主義の生き延び策に対して民衆の側からの大資本の統制と生活権確立を要求する闘いを進めていこう。
(S・T)
THE YOUTH FRONT(青年戦線)
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