アジ連公開講座「フランスはいま」
注目の的、反資本主義新党
資本主義の危機と左翼の果敢な挑戦
五月十六日、アジア連帯講座は、文京シビックセンターで「フランスはいま
LCR(革命的共産主義者同盟、第四インターナショナル・フランス支部)からNPA(反資本主義新党)へ」 というテーマでフランス社会運動研究家の湯川順夫さんを講師に迎えて公開講座を行った。
LCRの解散と
NPAの結成
二月初旬、LCR(革命的共産主義者同盟、第四インターナショナル・フランス支部)は全国大会を開き、大衆的な反資本主義的政治組織の結成のためにNPA(反資本主義新党)に結集することを決定した。LCRは、スターリニズムに対する左翼反対派の闘いとともに民主的複数主義的組織と機能を積み上げてきた。この経験と成果がNPAに合流して闘うことになったといえる。NPAには、四百六十七の地区委員会、九千人以上の党員が結集した。そして結成大会(二月六日~八日)で綱領、暫定規約、名称、政策のガイドラインを採択、新指導部を選出した。地球規模の環境危機、金融危機に端を発した資本主義世界体制の根本的危機という局面の中で新しい大衆的な反資本主義政党を建設していくことを確認したのである。
この新党結成に至る過程においてLCRの役割は重要であった。この経験を学ぶことは、日本資本主義の危機と失業攻撃が吹き荒れる中、反資本主義左翼潮流建設をいかに展望していくのかという論議にとって重要だ。
サルコジに対抗
する候補第一位
講座の最初は、LCRが取り組んできたファシストとの闘い(一九七三年)、反戦・失業・新自由主義反対諸闘争、大統領選挙闘争などの取り組みの記録がDVD上映された。なかでも〇七年大統領選挙戦で「旋風」を巻き起こしたLCR大統領候補ブザンスノーのインタビューシーン、四月初めのNATO結成六十周年記念式典と首脳会議に抗議するNPAのデモが映し出され、闘う仲間たちのいきいきとした姿が迫ってきた。
湯川さんは、冒頭、「オリビエ・ブザンスノー人気」について取り上げフランス階級闘争の一局面を分析した。
「サルコジに対抗する候補ナンバーワンとして社会党、共産党を『抜いて』いる。革命派のスポークスパースンがなぜこれほど広く支持されるのか?第一は、資本主義が深刻な危機に陥っており、そのツケが民衆に(首切り、失業、移民追い出し、公共サービスの解体、地球環境の危機)押しつけられていることだ。第二は、破綻した資本主義体制に対する唯一のオルタナティブとして資本主義の手直しでもケインズ的政策でもなくて反資本主義政策でしか見いだせないことの反映なのである。政治地図的には、社会党は社会自由主義の道でしかなく、その周辺に共産党、緑が存在している状況だ。とりわけ共産党 は、スターリニズムの根本的な総括に手をつけることができず、ノスタルジー的ネオスターリニズムか社会民主主義かの二者択一から脱出できないありさまだ。新自由主義の攻勢に対抗して代弁するのがブザンスノーへの期待へとつながっている。彼は、若く、現役の労働者であり、常に闘いの現場にいる。だから民衆から信頼されている」と紹介した。
その「信頼」はLCRが「全国大衆運動、労働者の闘いの統一と闘いにおける民主主義のために一貫して闘い続け、セクト主義を排してきたこと。すなわち、トロツキズムの立場を堅持しながら一九六八年以降の現実に柔軟に対応しながらトロツキー教条主義ではなく、フェミニズム(指導部の半分は女性)、エコロジーへの取組みを重視していった。九〇年代以降は、社会運動の再生の中でグローバリゼーションに抵抗する運動の先頭で闘い抜いた。その過程においても党内民主主義の実施、女性の権利、固定されない分派の権利保障など目的意識的な党建設」を推進してきたからであることを強調した。
社会運動の背景からの分析では、「一九九〇年代以降の新自由主義の攻撃のなかで社会党、CFDT指導部は右傾化し、共産党も衰退していった。民衆は、『自分たちで自身を組織して自己防衛するしか道はない』と自覚的に踏み出していく。失業者、サンパピエ、劣悪な住宅条件にある人々、エイズ患者、農民、新自由主義に屈服した指導部によって排除された労働組合員が闘いに立ち上がった。AC! DAL、SUD、農民連盟などが組織されていった。このひとつの頂点が一九九五年の公共部門のゼネストだった。社会運動と政府との一大対決だったが、同時に闘わない、闘えない社会党、共産党の姿が浮き彫りとなり、既成勢力圏外に独立した社会運動が成立していった」ことを明らかにした。
この闘う層は、グローバリゼーションに対する抵抗が拡大する中で発展していった。世界的にもAttac、世界社会フォーラム、ヴィア・カンペシナ、第三世界の債務帳消し運動へと波及していったことを忘れてはならない。
労働運動・社会
運動の再編成
報告の第二の柱は、NPA結成に至る準備過程として、以下のようなポイントを取り上げた。
二〇〇二年:大統領選挙、ラギエ(「労働者の闘争派」)とブザンスノーが合わせて10%を突破 ジョスパンの社会自由主義政策への人々の批判
二〇〇三年:年金改革に反対する公務員のスト、ゼネスト直前へ
二〇〇五年:新自由主義の欧州憲法条約案をめぐる国民投票でNON(反対)が過半数
二〇〇六年:若者のCPE(書記雇用契約)に反対する闘いの勝利
二〇〇七年:大統領選挙。欧州憲法条約の国民投票での勝利を受けてノン派による新自由主義に反対する統一大統領候補擁立の運動に発展したが最後の段階で分裂し、サルコジが当選してしまった。
湯川さんは、この大統領選候補をめぐる分裂が決定的だったことを指摘し「左派のノンの分裂の背景は、社会党との関係をめぐる対立だった。緑の党、共産党はわずかの議席を確保するためには社会党に依存しなければならない(議会主義の論理)という立場だった。当然、支持者は幻滅し、人々の非政治化、国民戦線に絶好の機会を提供してしまった。ジョゼ・ボベも中間的な立場だった。結局、統一候補擁立に失敗したが、LCRは政治面でも社会党の左に位置する政治勢力の主流に押し上げられていった。こういった背景をもってLCRは、全国政治組織のパートナーが存在しないなかで待ちではなく、下から呼びかけを出して活動家自身がその準備を推進する新党建設を決断する。かつ新党は、新バージョンのLCRではなく、大衆的な反自由主義、反資本主義を貫く政党をめざすことだった」ことを明らかにした。
そのうえで再びLCRの闘いをスケッチし、「地方選でLCRの得票数が大幅に増加した。それはLCRのイニシアチブで県レベルの労働組合指導者、活動家、社会運動活動家、エコ社会主義者、郊外庶民居住地区の活動家による委員会が形成されていったためだ。地区(準備)委員会は、三百から三百五十におよんだ。それまでは自立的な各委員会を調整する全国機関はLCR全国機関だったが、新たな全国会議が求められ、それを保障する新党建設に踏み出していった。全国会議は全国組織化コレクティフ(CAN)と呼ばれ、この中でLCRは少数派となるほどだった」と勢いを描き出した。
このような粘り強い蓄積のうえで新党結成大会(2009年2月6日から8日)を迎え、六百五十人の代議員を中心に千人が参加し、五大陸四十五カ国の七十組織の代表が百人以上が出席した。
21世紀の社会
主義めざして
湯川さんは、結成大会で採択された「結成原則」の文書の重要性を以下のように指摘した。
「文書は、環境、金融危機を含む資本主義体制の深刻な危機であり、『よい』資本主義はないと断言している。さらに、体制の手直しや改良ではなく主要な生産・交通・通信手段を労働者と民衆の手に、その管理下での民主的な計画を選択すべきだと主張している。さらに国家はブルジョアジーの道具であり、政治と社会の変革にはこれら既存の国家機関は役立たない、それらを打倒しなければならないと言い切っている」。
すなわち「民主的でエコロジーの観点に立ったフェミニスト的21世紀の社会主義を目指すということであり、政治、経済、社会のすべての分野におけるすべてのレベルでの労働者の権力である」と結論づけていることだ。
そのうえで「国際主義、新しいインターナショナル」を目指し、「緊急課題として、第一に大資本グループの無償没収、それらを労働者と民衆による管理下での社会的所有にする。第二が、医療、教育、水、エネルギー、交通、電気通信、郵便、児童、高齢者に関する分野は、労働者と利用者によって管理、統制される公共サービスを。第三は、地球環境破壊に対して民主的な計画化を打ち出した」ことだと整理集約した。
さらに湯川さんは、NPAへの踏みだしについて、「LCRの40年間にわたる闘いの成果の上だ。その経験と訓練は、新党の中に生かされていくだろう。復活しつつあるマルクス・ブームと言われるが、マルクス以降の運動の経験と教訓を抜きに語ることはできない。その橋渡しを粘り強く、ていねいに説明していく努力が求められている」ことを問題提起した。
最後に湯川さんは、LCRオールドメンバーたちの連名の「LCR大会準備文書」を取り上げ、新たなステージへの挑戦と決意について報告して終わった。
文書の結語は、こうだ。
「LCRのメンバーの経験と教訓は、NPAの建設にとって決定的に重要である。それは新しい党の成功にとって、そして新しいものと古いものの統合の成功にとって、前提条件である。疑いもなく、これはめざましい訓練となるだろう。すなわち、より広い人々と語ること、われわれが使う語彙に特に注意すること、他の人々に耳を傾け尊重すること、われわれがこれらの人々にもたらすものを過小評価しないと同時にこれらの人々から学ぶことである。NPAの設立大会を受けて、すべてのLCR出身の同志たちはこの新しいプロジェクトの建設に参加すべきである。このためにこそ、われわれは何十年も闘ってきたのだ」(「週刊「かけはし」09年2月2日号に掲載)。 (Y)
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