大川原化工機えん罪事件─勝訴判決

勝訴判決! 謝罪も反省もしない検察庁、警察庁、警視庁を許せない!

戦争国家化に向けたでっち上げ事件

「これでも人間なのか?」

 12月27日、東京地裁(桃崎剛裁判長)は、大川原化工機冤罪事件に対する大川原正明社長らの都と国への損害賠償訴訟(2021年9月8日)に計約1億6千万円の賠償を命じた。勝訴だ!
 大川原正明社長は「警視庁、検察庁にはしっかりと検証してもらい、できることなら謝罪をしていただきたい。このことを、一緒に過ごしてきた相嶋さんの墓前に早く報告したいです」と述べた。
 亡くなった相嶋静夫さんの家族は「夫は『まだ死にたくない』と言っていた。商品の開発や後輩の指導に目を輝かせていたのに、元気な夫の姿で返してもらいたい。がんが見つかり、何度も保釈請求をしたのに裁判所は却下の連続で、夫は『これでも人間なのか?』と言っていた。検事と公安警察、この国の司法は何のためにあるのかと思う」と批判した。
 判決に対して東京地方検察庁の新河隆志次席検事は、「国側の主張が一部認められなかったことは誠に遺憾であり、早急に、関係機関および上級庁と協議をして適切に対応して参りたい」、小池都知事は、「判決については承知している。今後の対応については警視庁の方で検討しているところだ」と強がってみせた。
 結局、国と都は1月10日、判決を不服として東京高裁に控訴した。大川原化工機側も国と都の控訴を受け、控訴した。高田剛弁護士は「事件は捜査不足ではなく作られたものだった。今後新たな証拠を提出して立証につくす」と述べた。
 露木康浩警察庁長官は「警視庁で精査した結果、『上級審の判断を仰ぐのが適当』という結論に至った。警視庁が通常要求される捜査を怠ったとされる点や、原告を誤解させて供述調書に署名などをさせたという点について、『これまでの主張と異なり受け入れることは難しい』という報告を受けた」と会見を行った(1月11日)。
 警視庁は、アリバイ的に公安部内に捜査指導を担当する幹部の「捜査指導官」設置、「緻密かつ適正な捜査を行うために、幹部らの『教養』を充実強化する」などと全く反省せず、被害者への謝罪姿勢も示さずふざけたことを言い出す始末だ。
 警察庁、警視庁公安部のえん罪事件への居直りを許してはならない。あらためて大川原化工機冤罪事件の内容、判決などに対する検証を行い、今後の裁判闘争に注目し、反弾圧、公安政治警察解体にむけて生かしていこう。

経済安保法制定射程にして強行

 事件の経過(要約)─警視庁公安部は機械メーカー・大川原化工機の社長・幹部3人を外為法違反容疑(不正輸出)として不当逮捕(20・3)する。大川原化工機が生物兵器の製造に転用できる噴霧乾燥機を、ドイツ企業傘下の中国の子会社に無許可で輸出したとしてでっち上げた。
 大川原化工機幹部3人は11カ月も不当に勾留され、相嶋静夫さん(顧問)は勾留停止中の入院先で、ガンで死去している。
 2021年7月、東京地検は「兵器転用可能な技術か疑義が生じた」「起訴時点の証拠では軍事転用可能な技術と判断したが、結果的に疑義が生じ、反省すべき点があった」として起訴を取り下げた。東京地裁は8月2日に公訴棄却を決定している。
 噴霧乾燥器の規制要件のひとつは「定置した状態で内部の滅菌又は殺菌をすることができるもの」(大川原化工機国賠訴訟弁護団)という公安部の殺菌理論を作り上げて実験を繰り返したが、結果的に「完全な殺菌はできない」ことが判明していた。地検はこれらの証拠が公判に提出されたら公判維持ができないと判断せざるをえなかったのだ。
 この事件の背景には、経済安全保障推進法(2022 年 5 月)制定を射程にして活躍する公安警察を押し出すために、その生贄として大川原化工機をリストアップし見せしめの打撃を与えたのである。捜査は外事1課管理官と第5係長宮園勇人警部ら20人態勢で強引に押し進めた。
 後に、その現れとして警視庁公安部外事第一課は警察庁長官賞と警視総監賞を受賞、捏造捜査を指揮した宮園警部が警視、安積警部補が警部に論功行賞として昇進させている。警察白書や「治安の回顧と展望」に「手柄」として押し出したほどだ。事件がっち上げだと明らかになるやコソコソと削除している。論功行賞はそのままだ。

都と国の違法性について

 東京地裁は、以下のように都と国の違法性を認めた。
 ①捜査機関の国賠法上の違法性。
 判決は、「逮捕・勾留請求等に関する捜査機関の判断については、その時点で現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得たと証拠資料を総合勘案して、その判断に合理的な根拠が客観的に欠如していることが明らかである」と認めた。
 ②事件の逮捕・勾留請求及び公訴提起について。
 噴霧乾燥器の規制要件について公安部は独自の殺菌理論を採用した。外為法等の解釈権限がある経産省に確認時、経済産業省安全保障貿易管理課の笠間大介課長補佐が警視庁公安部に「ガサぐらいなら」と追認した。このプロセスを地裁は「捜査機関として要求される捜査はつくしていたものといえる」と示したが、「製品を熟知している会社の幹部らの聴取結果に基づき製品の温度測定などをしていれば、規制の要件を満たさないことを明らかにできた。会社らに犯罪の疑いがあるとした判断は、根拠が欠けていた」と断定した。検察庁は、噴霧乾燥器の公安部の殺菌実験で完全な殺菌ができないと判明し、このレベルでは公判維持ができないと判断し、起訴を取り下げたのだ。
 「逮捕の違法性」について判決は言う。
 「警視庁公安部は、原告会社及び原告大川原ら3名に対する捜査の過程で、本件噴霧乾燥器について構造を熟知していた亡相嶋を含む原告会社の従業員から測定口等の温度が上がりにくい箇所があることを聴取していた。そして、亡相嶋及び原告会社の従業員らの供述は、具体的な箇所を特定するものであり、更に測定口に関しては温度が上がりにくくなる理由を説明している」と強調し、だから「再度の温度測定は当然に必要な捜査であったといえる」と述べ、「警視庁公安部の判断は合理的な根拠が欠如していることは明らかであり、原告大川原ら3名を本件各事件について逮捕したことは国賠法上違法である」と断定した。つまり、ずさんな捜査であったと認定したのだ。
 さらに「勾留請求及び公訴提起の違法性」では「原告会社の従業員らの供述があった以降に行われた公訴提起は、いずれも検察官が必要な捜査を尽くすことなく行われたものであり、国賠法違反である」とダメ押し的に違法だと断定している。
 「原告島田に対する取り調べの違法性」についても、「原告島田の取り調べを担当した警部補は、取調べを通じ、島田に『殺菌』の解釈をあえて誤解させた上、噴霧器が『殺菌』ができる性能を持っていることを認める趣旨の供述調書に署名捺印するよう仕向けたと認められる」と認定した。
 すなわち島田さんが供述調書の修正を求めたが、捜査員は修正したように装って弁解録取書を作成したのであり、判決は「かかる取り調べは偽計を用いた取調べであるといえるから、国賠法違法である」と結論づけた。
 判決はこの警部補の「弁解録取書」作成に対しても踏み込んだ判断をしている。判決は、「島田の指摘に沿った修正をしたように装い、実際には島田が発言していない内容を記載した弁解録取書を作成」し、強引に「署名指印をさせたことが認められる」と認定し、「このような方法による供述調書の作成は、国賠法上違法である」と認めた。
 また、勾留中にがんで亡くなった相嶋静夫さんについても、「体調に異変があった際に直ちに医療機関を受診できず、不安定な立場で治療を余儀なくされた。家族は、夫であり父である相嶋さんとの最期を平穏に過ごすという機会を、捜査機関の違法行為によって奪われた」と批判している。
 地裁がここまで踏み込んで認定をしたのは、やはり現職公安警察官の6月の証人尋問の証言だろう。
 公安警察官─「幹部がねつ造しても、そのうえには指揮・監督するものが何人かいたわけですから」。「マイナス証拠もちゃんと反証していれば、こういうことは起きなかったと思います」。「輸出自体は問題ないので、後は捜査員の個人的な欲というか、動機がそうなったんではないかと私は考えます。年齢があって定年も視野に入ってくると、自分がどこまで上がれるのかと、そういったことを意識なされたのではないかと思います」。「(宮薗勇人警部に)事件潰れて責任取れんのかというのをずっと言われて」いたなどと恫喝され、再捜査が認められなかったことを証言している。判決では触れていないがこれらの証拠は、かなりのインパクトがあったはずだ。
 それだけではない。起訴後に届いた現職公安警察官の内部告発の手紙(20・6月)は、「匿名での文書で申し訳ありません。地方公務員法に抵触する恐れがあるところから本名を明かさず文面にて連絡させていただきます。単刀直入にしるしますと、警察側にAという捜査員がおり、貴社へも何度も出入りしていると記憶しております。彼は貴社側にたった見解を持っており、警察組織の意向とは関係なく自分の意見を貫くタイプの人間です。貴社に有益かつ警察側に不利益となる情報が明らかになると確信しております……」と述べ、「捜査に疑問を持っていた警察関係者」の存在していることまで伝え、会社側の立場にたっていることが明らかになっている。公安警察の暴走、見込み捜査、違法捜査であることを証明する重要な証拠だ。

公安政治警察は解体しかない

 公安政治警察は、そもそも見込み捜査、えん罪でっち上げの常習犯であることを根本的に切開しなければならない。だが警察庁、警視庁は、大川原化工機冤罪事件での大失態を反省するのではなく「捜査指導官」設置し、よりゆるぎない事件のでっち上げに向けてマニュアルを練り上げていこうとしているのだ。
 すでに国と都は裁判で「違法な捜査はなかった」などと脆弱に反論し、その延長で現職公安警察捜査員の「(事件は)ねつ造」だという証言に対して、「個人の臆測で信用性が低い」などと反論していたにすぎない。このような主張のレベルを控訴審でも行うのであろうが、ほぼ揚げ足的な「いちゃもん」でしかないだろう。判決が言う「公訴提起が私人の心身、名誉、財産等に多大な不利益を与えることを考慮すると安易な公訴提起は許されないというべきである」、「有罪立証に合理的な疑いを生じさせる事情が認められた場合にはそれを否定するだけの十分な捜査ができないのであれば公訴提起は行うべきではない」と面子のための控訴であったならば、より居直りの度を深めたのであり、断罪しなければならない。
 大川原さんは、「謝らないということは、同じことを繰り返すっていうことだから。我々としては少なくとも同じようなことは繰り返してほしくないですよね」などと公安政治警察の本質を見抜いている。そして控訴に対して「落胆ということではなくて、あきれたという思い。まだするか」(1・11)と検察庁、警察庁、警視庁を厳しく批判している。
 大川原化工機冤罪事件損害賠償訴訟の控訴審勝利を応援しよう。(遠山裕樹)

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