8.3平和の灯を! ヤスクニの闇へ キャンドル行動

あなたは祖国のために戦えますか?
自衛隊と殉国・ヤスクニ思想のいま

 【東京】8月3日、13:30から「2024平和の灯を! ヤスクニの闇へ 第19回キャンドル行動」として「シンポジウム・あなたは祖国のために戦えますか?~自衛隊と殉国・ヤスクニ思想のいま~」が全水道会館大会議室でおこなわれた(会場参加+オンライン参加のハイブリッド開催)。主催は、「平和の灯を!ヤスクニの闇へ キャンドル行動実行委員会」だ。会場参加者は、120人だった。
 会場参加者には、ていねいな資料が渡された。録音・撮影は禁止ということだったので、この文章は資料とメモを参考にしながら作成した。

 司会は、矢野秀喜さんだ。
 開会のあいさつは、ズーム参加の今村嗣夫(つぐお)さんだ。
 「『日本人として』自分の国は自分で守ろうということが、国民の日常の生活感情の中に自然に芽生えていく。こうして平和憲法を改正し、自分の国は自分で守るという国民感情を植え付けていくことが意図的、政治的におこなわれていく。お互いの主体性を喚起するキャンドル行動がいよいよ大切になりましょう。気を引き締めましょう」。

 シンポジウムのパネリストは4人だ。朴錫珍(パク・ソクジン)さんのみが会場参加で、他3人はズーム参加だ。

髙橋哲也さんの提起

自衛隊とヤスクニ思想のいま

 まずは、高橋哲也さん(東京大学名誉教授)が発言した。
 「アメリカから見た東と西がもしつながれば、第2次世界大戦でもそうだったように、ヨーロッパと東アジアを二つの主な戦場として、第3次世界大戦になる可能性があるだろう。このところ、日米・韓米だけでなく、『日米韓』の結束強化が盛んに言われている。不穏な情勢の中にあって、私たちは、東アジアで決して戦争を起こさせないためにより大きな声を挙げていかなければならない。
 今年1月9日、陸上幕僚副長(陸上自衛隊のナンバー2)を含む陸上自衛隊員22人が公用車を使って靖国神社を参拝。昨年5月17日に、練習艦隊司令官を含む海上自衛隊の初級幹部ら165人が昇殿参拝(本殿に上がって参拝)していたことも確認された。さらに、今年4月、靖国神社の宮司に大塚海夫元海将(admiral)が就任した。自衛官出身の靖国神社宮司としては、1978年にA級戦犯合祀をおこなった松平永芳氏がいるが、海将のような幹部将官経験者が初めて靖国神社のトップになったのだ。さらに、靖国神社崇敬会総代に就任している火箱芳文元陸上幕僚長(=陸上自衛隊のトップ)は日本会議の機関紙『日本の息吹』昨年8月号に寄せた文章で、『近い将来国を守るため戦死する自衛官が生起する可能性は否定出来ない。我が国は一命を捧げる覚悟のある自衛官たちの処遇にどう応えるつもりなのか』と問いかけた。
 そして『筆者なら靖国神社に祀ってほしい』と個人の心境を吐露し、『今後靖国神社を国家の慰霊顕彰施設に復活し、一命を捧げた自衛官を国家の慰霊顕彰施設に祀れるようにする制度の構築が急がれる』と主張しているのだ。戦死した自衛官の『霊』を慰め、国家に命を捧げたことを褒め称えるために、靖国神社を国家の施設としてそこに神として祀るべきだ―これが火箱氏をはじめ自衛隊の現および元幹部の「本音」であることは、容易に推測できる。
 戦争が起こり、自衛隊員にも戦死者が出たらどうするのか。今のままでは一宗教法人にすぎない靖国神社に祀ることは出来ない。それが分かっているので、靖国神社を急いで国家施設として復活させたいわけだ。
 しかし、靖国神社を国家施設とすることにどれほど無理があるか、これもまた歴史的に散々確認されてきたことだ。火箱氏は、『憲法の改正をしなくても法律の改正で出来るのではないか』と言っている。
 しかし、靖国神社を『靖国神社』のままで(つまり宗教施設のままで)国家施設にすることは、政教分離を定めた憲法にあからさまに違反するので、憲法を変えない限りできない。逆に、靖国神社から宗教性を消して(つまり『神社』でなくして)国家施設にしようとしても、靖国神社は明治天皇による創建以来の形を変えることを拒否しているので、できない。かつては、鳥居をなくすとか、名前から『神』をとって『靖国社』にするとか、神社の性格を薄めて国家施設にしようとさまざま提案されたが、靖国神社から拒否されて終わっている。2005年には当時の麻生太郎外務大臣が、宗教法人格を外して国営の特殊法人『靖国社』にすれば、政府がA級戦犯を外して中国や韓国の首脳にも参拝してもらえるなどと提案したが、それ自体が政府による宗教施設への介入であり憲法違反になるとは思っていなかったようだ。
 このように、どう考えても無理があるにもかかわらず、自衛隊幹部が靖国神社にこだわるのはなぜか。一言でいえば、旧日本軍との連続性が断ち切れていない、断ち切ろうとも思ってこなかった、ということだろう。

戦争絶滅請け合い法案


 次に、WINN/Ga llup Internationalが世界的におこなっている世論調査で、『もしあなたの国が戦争に巻き込まれたら、国のために戦いますか』という質問での回答結果を見てほしい。まず2015年のもの。日本は11%で60数か国中最下位だ。次に2023年のもの。ウクライナ戦争開始後のものだが、日本は9%で同じく最下位だ。いつも話題になるのは、『国のために戦う』というパーセンテージが日本だけ例外的に極端に低いということだ。調査対象は18歳以上の男女だから若者だけではないが、若い世代の感覚は推して知るべしだろう。
 しかし、こうした世論状況から、『いまの日本にはやはり戦争はできない。戦後平和主義が定着したんだ』などと考えるとしたら、甘いと言わざるをえない。戦うのは自衛隊員だ。たしかに今の自衛隊は、先日も大量処分者を出したように、法令違反やセクハラ・パワハラの横行など規律が緩み切っていて、タカ派の政治家や右翼の論客たちは『これで戦えるのか』と焦っているようだが、『有事』となれば当然、自衛隊員には『戦う覚悟』が徹底されるだろう。
 出動を命じる側(首相、防衛大臣、自衛隊指揮官)は、上記の理由から『戦死すれば靖国神社に祀られて神様になれるぞ』とは約束できないにせよ、別のやり方で、『祖国のために命を捧げた英霊』として称えられることを約束するにちがいない。何らかの儀式をおこなって、戦死した自衛官を国家的な慰霊顕彰の対象とすれば、ましてやそこに天皇が臨席すれば、遺族もまた、戦死の悲しみを名誉と歓びに転化する『感情の錬金術』に抵抗することは難しいだろう。『国のために命を捧げることを讃える』という観念の危うさに対する批判は、今日では、靖国神社の国営化を阻止するだけでなく、いわば『靖国神社なきヤスクニ思想』、つまり、靖国神社とは別のところでの『戦死者の英霊化』への批判を備えなければならない。
 ここでは考えるヒントとして、二つの材料を共有しておきたいと思う。
 まず一つ目は、1970年代に当時の統合幕僚会議議長(=自衛隊全体のトップ)を務めた栗栖弘臣氏が、2000年に出版した著書で述べていたことだ。『自衛隊は国民の生命・財産を守るものだと誤解している人が多い』が、自衛隊が守るのは『国の独立と平和』(自衛隊法)である。そして『国』とは、『長い年月の間に醸成された国柄、天皇制を中心とする一体感を享有する民族、家族意識』であって、『決して個々の国民を意味しない』と。
 つまり、自衛隊は自分たちを守るために戦ってくれるんだと思っている国民は間違っている、自衛隊は国家を守るのであって、そのためには個々の国民を犠牲にすることもある、というわけだ。国民でさえそうなので、日本に住む国民以外の人びと、在日外国人の人びとはなおさら犠牲にされるだろう、と考えられる。私たちとしては、『国を守るため』と言って自衛隊の出動を命ずる人たち、とくに首相や防衛大臣に、自衛隊はいったい何を守るのか、国民や住民、一般市民の生命を守るのではないのかと、厳しく追及していく必要があると思う。
 もう一つは、『戦争絶滅請け合い法案』だ。1929年に長谷川如是閑が、『デンマークの陸軍大将フリッツ・ホルム』考案との触れ込みで紹介したもので、この法律が世界中で成立すれば戦争がなくなることは間違いない、というものだ。
 戦争が始まったら10時間以内に、次の順序で最前線に一兵卒として送り出す。第一に国家元首。第二に国家元首の16歳以上の男性親族。第三に総理大臣、国務大臣、次官。第四に男性代議士、ただし戦争に反対した者は除く、云々。これらの人たちの女性の家族も、従軍看護婦として戦場に最も近い野戦病院に送られる。要するに、戦争は国家の権力者たちが一般国民を駒として使ってやるものだから、権力者たち自身が真っ先に最前線に駒として送られるとしたら、権力者たちは戦争など出来ないだろう、というわけだ。
 『防衛力は持っているだけではダメで使わなければならない。戦う覚悟が必要だ』といった麻生太郎氏、『あなたは祖国のために戦えますか』とSNSで言って『炎上』した櫻井よしこ氏など、自分は戦わなくてよい安全地帯にいて、一般国民や若者に戦うこと、命を捧げることを求めるような人たちには、『戦争絶滅請け合い法案』を突き付けて、他人に求めるのではなくまずは自分自身で模範を見せてくれるよう要求すべきだろう」。

44人の兵士・戦警が良心宣言


 次は、清水早子さん(沖縄・「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」共同代表)だ。清水さんの資料には、「宮古神社参拝」「『黒鷹の勇士』慰霊碑」「『大東亜戦争』『英霊の御霊』という表記」「成人祝いに旭日旗と菊の紋章」「沖縄の伝統文化へ『侵入』する自衛隊」などの小見出しがある。
 次は、邱士杰(チュウ・スーチェ)さん(近現代史研究者、台湾大学文学博士)だ。邱士杰さんの資料には、「台湾人民の『祖国=アイデンティティ』の喪失と両岸戦争の危機」の見出しがある。
 最後は、朴錫珍(パク・ソクジン)さん(韓国・「開かれた軍隊のための市民連帯」常任活動家兼代表)だ。朴錫珍さんの資料には、『戦って守るべき祖国はどのような祖国ですか?』の見出しがある。一部を紹介する。
 「強制徴兵:軍事政権は軍情報機関を大学内に常駐させ、集会やデモに参加した学生ら、学内の思想サークルに参加した学生、学生会活動をした学生など、いわゆる『問題学生』を摘発し、彼らを強制的に軍隊に入隊させる方法で学生運動を弾圧した。緑化事業:強制徴兵された学生は、いわゆる緑化事業(注1)の対象となった。作戦戦闘警察(略称 戦警):戦警は、軍隊に入隊した兵士の身分を警察に転換させ、集会やデモ鎮圧業務に動員した制度である。徴兵制が韓国社会の民主主義を抑圧する道具として悪用されると、軍隊内で抵抗の声が噴出した。それが、軍人・戦警の良心宣言者たちである。最初の良心宣言以降、1993年まで合計44人の兵士・戦警が良心宣言を通じて韓国軍の変革を要求した。この報告を書いている私(朴錫珍さん)もその44人のうちの一人である」。
 4人の報告の後、質疑応答がおこなわれた。
 その後、遺族等の訴えがあった。韓国の李熙子(イ・ヒジャ)さん(太平洋戦争被害者補償推進協議会)が、「ヤスクニと闘い続けて35年になる。いつまでできるか分からないが、これからも頑張っていかねばならない。戦争をふせぎ平和をつくるためできることは何でもやりたい。天皇の責任を問うため、天皇の孫と会いたい」と発言した。  
 次に、台湾のチワス・アリ(高金素梅)さんからのメッセージが紹介され、雲力思(ウン・リース)さんが「出草」の歌を歌う映像が流された。
 次は、特別アピールだ。木瀬慶子さん(日本軍「慰安婦」問題解決全国行動)は、「慰安婦問題は終わっていない」と発言した。上田慶司さん(長生炭鉱の水非常(注2)を歴史に刻む会)は、「協力してくれとはいいません。一緒に闘ってほしい」と発言した。金英丸(キム・ヨンファン)さん(民族問題研究所)は、「(佐渡鉱山のユネスコ世界文化遺産への登録が決定した問題について)世界のみなさんに喜ばれる遺産になるためには、歴史の真実を明らかにするべきだ。産業遺産情報センターは、朝鮮人差別はなかったというような宣伝をおこなっている。産業遺産情報センターに行って文句を言ってほしい。佐渡鉱山の強制連行を記録する資料館を市民の手でつくるべきだ」と発言した。
 次は、ソン・ビョンフィさんとイ・ジョンヨルさんによるコンサートだ。資料には「ノイバラの花」「君は遠いところに」「キューバを離れながら」「平和のメダル」「20+」「人間の歌」「朝露」の歌詞が紹介されている。「朝露」は、2024年7月21日に亡くなられた金敏基(キム・ミンギ)さんが作詞・作曲した歌だ。
 
国際連帯で闘おう

 最後は、矢野秀喜さんによる閉会あいさつだ。
 「2006年からヤスクニキャンドル行動をやってきたが、今年ほど戦争の危機が迫っていることはなかった。ガザでは多くの人たちが亡くなっている。今こそ即時停戦を訴えるべきだ。それなのに、この国の政府は戦争の危機をあおっている。どこかの首長は、祖国のために死ぬことは道徳的だとまで言っている。祖国のために戦えますかという声、民族主義にのるのではなく、国際連帯で闘っていきたい。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権支持は30%いかない。岸田政権もそうだ。台湾も頼清徳(ライ・チントー)が政権を取ったが、国会は野党が多数だ。そういう人たちが戦争へのみちを進むことを許してはならない」。
 【注1】緑化事業。アカ(韓国社会で共産主義者または社会主義者を卑下して表現する言葉)および反政府的な人の思想を政府に優しい思想に変えるために軍情報組織などがおこなった事業。
 【注2】長生炭鉱事故。太平洋戦争開戦から2カ月後の1942年2月3日朝、長生炭鉱の海底に延びた坑道のおよそ1㎞沖合で水没事故(水非常)が起き、183人の抗夫たちが亡くなった。そのうち7割に及ぶ、136人が朝鮮人労働者だった。遺体や遺骨は収容されていない。犠牲者は今も暗く冷たい海に眠ったままだ。(SМ/2024年8月26日)

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