自民党総裁選と石破自公政権の登場

石破政権と対決する新たな左派結集の軸を作りあげよう

選択的夫婦別姓制度をめぐる自民党内の反応

 9月27日に実施された自民党総裁選は、決選投票のすえ石破茂が高市早苗をかわして新総裁に当選した。獲得票は石破が215票(議員票189、都道府県票26)、高市が194票(同173、同21)であり、21票の僅差であった。
 9人が乱立した総裁選告示前の下馬評は、小泉進次郎と石破の決選投票になるだろうというものだった。しかし、小泉の知名度と人気を背景に演出しようとした「劇場型選挙」は失敗した。よく吟味もされずに打ち出した「政策」の薄っぺらさは次々と明らかにされ、何よりも決定打は「選択的夫婦別姓制度」を1年以内に実現するという「リベラルな政策」を打ち出したことだった。小泉は有権者の1%ほどで作られている自民党が、どのような政治信条と利権で結集している保守政党なのか知らないはずはない。しかも党員のほとんどが中高年の男たちであり、伝統的な保守主義としての家父長制の擁護者が圧倒的多数派である。世襲4代目であり、国会議員であることがすっかり「家業」となってしまっているボンボン政治家としての小泉進次郎だったからこそのなせる業だったのかもしれない。
 その小泉に噛みついたのが高市だった。夫婦別姓制度反対と合わせて、裏金問題の再処分にも反対した高市支持票が一気に上昇した。告示直後に実施した共同通信の自民党支持者への世論調査では、高市が27・7%で1位に躍り出た(石破23・7%、小泉19・1%)。そして高市を押し上げた国会議員票は、その大部分が裏金議員集団の巣窟である安倍派であり、決選投票ではそこに神道政治連盟や生長の家系の日本会議、そして統一教会といった右翼宗教集団の組織票にすがりつこうとする自己保身的な議員集団が加わったのであった。ここでピエロ役を演じたのが、キーマンと言われてきた麻生だった。麻生は石破に対する個人的な恨みつらみから「決選投票では高市支持」を派閥方針とした。しかし麻生派54人の内どれだけがその方針に従ったのかはわからないが、11票が高市に流れていれば高市が勝っていたのである。

自民党への猛烈な逆風は止まらない

 自民党は9月の総裁選を「自民党の命運をかけた」一大イベントとして盛り上げて、次期総選挙で勝つための「党の顔」を選ぶものとして位置づけてきた。しかし現実はそんなに甘いものではない。物価高騰に苦労し、将来を不安視する有権者の多くは、多額の裏金を懐に入れて税金も払わない「脱税裏金議員」と、その実態調査もまともに行ってこなかった自民党政治を見逃しはしないだろう。この「政治とカネ」問題を棚上げして総選挙になだれ込めば、間違いなく自民党は過半数割れどころか大敗することになるだろう。
 4月に実施された衆院3補欠選挙では自民党が全敗しており、7月に実施された都議補選でも自民党は2勝6敗の惨敗だった。また6月に実施された富裕層が多いとされる東京港区長選においても、自公推薦の現職が僅差で敗退している。こうした流れは、自民党にとって猛烈な逆風となって止まってはいない。何故ならば総裁選をやって顔をすげ変えても、自民党は「何も変わろうとしていない」からにほかならない。
 自民党にとってもうひとつ気がかりなのは、立憲民主党が野田佳彦元首相を代表に選出したことだ。野田は民主党政権時もそうであったように、打ち出されている政策は自民党とさほど変わらないものである。安保法制については「当面は現状維持」であり、党綱領でもある原発ゼロも「原発に依存しない社会の実現」に後退させ、消費税減税も「税率を下げると戻すのが大変」だと表明している。そして物価対策も自民党同様の「バラマキ」だ。
 立憲民主党の主要政策はもはや「第2自民党」である。それは保守層と右傾化してきた有権者に「もう一つの選択先」を提供したということである。その上で総選挙では、自民党の金権腐敗と裏金問題を徹底的に叩き、また選択的夫婦別姓制度については、早期実現をめざすことを訴えるとしている。先に示した共同通信の自民党支持層への世論調査では、夫婦別姓について41・4%が賛成している(反対は43・2%)。

石破は安倍派との「戦争」に踏み込めるのか

 こうした状況を前にして石破政権は総選挙前に何をしようとするのか、何ができるのかが鋭く突きつけられている。石破は持論である「アジア版NATO」の創設や日米地位協定の見直し、「防災省」の創設や、「地方創生」、税制改革などを語ってはいるが、何よりも自民党として早期に実施しなければならないことは、裏金問題をはじめとした「政治とカネ」の問題と、統一教会をはじめとする「政治と宗教」の癒着問題にもう一度メスを入れてウミを出し切ろうとすることなのではないだろうか。もし石破政権としてそれができないまま解散・総選挙になだれ込めば、自民党は大敗北することになるだろう。
 最低でも裏金問題で離党勧告と党員資格停止の5人を含む党として正式に処分を下した安倍派幹部ら39人に対して、選挙での公認取り消しを実施しなければならないだろう。しかしそれは、各派閥を巻き込んだ石破政権と安倍派(89人)との分裂含みの「全面戦争」「仁義なき戦い」になること間違いなしだ。そうなれば早期の解散・総選挙などと言っていられない状態になるだろう。自己保身を最優先して岸田文雄と麻生・岸田・茂木の派閥連合ができなかった安倍派との戦争を、石破茂とその政権はできるのであろうか。その3派連合もすでに崩壊していると言っていいだろう。派閥として唯一解散も決定することなく存在している麻生派は、茂木派のように自壊に向かうことになるだろう。こうして自民党は命運をかけた歴史的な大再編に突入することになる。石破はそこに踏み込めるのか。それとも岸田同様に自己保身の道を選択するのであろうか。
 一方、維新の会も自民党裏金問題での対応や、兵庫県知事のパワハラ辞職問題、カネ食い万博問題などで尻に火がついている。8月に実施された大阪府箕面市長選では、維新公認の現職首長が結党以来、初めて落選している。
 反安倍政治として成立していた野党共闘も、立憲民主党の保守路線への純化によって崩壊した。共産党は最大限の独自強化を推し進めながら総選挙を戦うとしている。新たな左派結集の軸を作り上げて行くために、労働運動、反原発・反基地などの市民・住民運動、反差別など大衆運動を沖縄の反戦・反基地運動と連帯しながら、粘り強く作り上げていかなければならない。がんばろう!
(9月29日 高松竜二)

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