寄稿 リニア問題について静岡からの報告
芳賀直哉 (静岡県リニア工事差止訴訟の会事務局長)
1 鈴木新知事が真っ先に取り組んだこと
就任してすぐにまさにスピード感をもって、「リニア行脚怒涛の一週間」を敢行したことについては全国ニュースでも取り上げられたのでここで繰り返さない。その後もJR東海社長・山梨県知事との三者会談をもって、川勝前知事が認めてこなかった山梨工区静岡県境300メートル以内への長尺ボーリング工事をあっさり容認したことは、県環境保全連絡会議地質構造・水資源専門部会の「条件付き了承」が伏線になっていたとしても、前知事との違いは明らかである。また、工事現場を視察して「順調に進んでいるようだ」と述べて、静岡工区自体のトンネル工事許可を出す時期が早まるのではと危機感を抱かせた。
しかし、左記に紹介する「残土置き場のツバクロに断層」の報道により、新知事のスピードも少し落ちた。「情報は全面開示を」とJR東海に要求せざるをえなくなった。
2 断層の存在をなぜ隠していたのか
前述の専門部会において、JR東海は会議メンバーからツバクロ対岸の崩落地(上千枚沢、下千枚沢など)に係る断層の有無など地質構造に関するデータ提出を求められていた。専門部会会議の前にデータは県担当部署に届いており、その図面には対岸崩落地に何本もの断層が実線で表示されている他に、求めていなかったツバクロにも断層を示す実線が記されていた(専門家会議提出資料ではなぜか「存在の可能性」を示唆する点線に修正)。JR東海は2010年度に行った当該地の調査で断層の存在を確認していたものの、「盛土の計画・設計に影響しないとして専門部会に提示してこなかった」と釈明したが、都合の悪いデータを「隠していた」と言わざるをえない。
3 残土置き場予定地に断層がある場合の法令対応は?
素人ながら調べてみたところ、「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」(令和5年5月施行)同法には、断層の有無による規制規定はない。ただし、「特定盛土等又は土石の堆積に伴う災害により居住者等の生命・身体に危害を生ずるおそれが特に大きいと認められる区域」を「特定盛土等工事規制区域」として盛土を規制すると定める(同法第二十六条)。しかし、ツバクロ周辺に人家はなく、これには該当しないことになる。
他の法律ではどうか?森林法では、ツバクロは私有林のため規制外。河川法では、ツバクロは「河川区域外」のため、同法二十七条に規定する盛土許可の対象外となる。
お手上げか?たしかに法令上では断層の有無で盛土を規制する規定はないが、環境影響評価の視点から生態系や景観を保全する目的を前面に押し出して対応することは可能なのではないか。この観点で「静岡県環境影響評価条例」を紹介したい。
「県は、現在及び将来の県民の健康で文化的な生活を確保するため、この条例の規定による手続が適切かつ円滑に行われるように事業者等に対し、必要な指導、助言その他の措置を講ずるものとする。」(第三条)
現に、静岡県環境保全連絡会議において事業者に対して必要な指導・助言・その他の措置を講じてきたし、今後も継続していくことを願っている。
4 川勝知事の「強気」を支えた意外な法律
品川―名古屋間のリニア路線は、多摩川・相模川・富士川・大井川・天竜川などの一級河川をはじめ、多くの二級河川以下の小河川を、橋梁やトンネルによって横切る。河川区域に構造物を建設するには当該河川の河川管理者の許可が要る。一級河川については、概ね下流域は国土交通大臣が許可権限者であり、上流域(管理範囲は河川によって異なる)の許可権限は立地県の知事がもっている。
大井川について言えば、中流域の川根本町にある長島ダムを境に下流は国交大臣、上流は静岡県知事が許可権限を有している。つまり、二軒小屋の北で大井川上流(東俣川・西俣川)の下にトンネルを建設するためには、県知事の許可が必要となる。
他の都県でも、二級河川等県知事の許可が必要な構造物があったはずだが、静岡県以外はリニア建設促進であるため、橋梁やトンネルに許可を出したのである。
(2024年11月9日記す)
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