9条が輝くとき③
憲法99条[憲法尊重擁護の義務]と憲法96条[憲法改正の手続]の矛盾
たじまよしお
②において「『軍法裁判所の創設』の動きについて述べましたが、海上自衛隊の三等海佐の山田裕之という人物が2016年6月に『一般司法制度に近接する軍事司法制度・軍事司法制度の現代的意義と変革の展望』なる論文を発表したことを考えるうち、ふと59年前に国会で問題になった「三ツ矢作戦」のことを思い出したのです。
その「正式名称は昭和三十八年度総合防衛図上研究。名前の由来は「三十八年の研究」であることと、毛利元就の「三本の矢」の故事にならい、陸海空三自衛隊の統合という意味から名づけられた]」「1965年(昭和40年)2月10日の衆議院予算委員会において社会党の岡田春夫がこの研究の存在を発言し、一般的に研究の存在が知れ渡った。(wikipediaより)」これは「60年反安保闘争」と「70年反安保闘争」の間で起きたことで、今の若いみなさんの記憶にはないと思いますが。ネットで「三ツ矢作戦」を検索すれば見られますので是非ご覧ください。
労働者・学生・市民にこそ憲法の発議権を!
安倍晋三元首相の頃から、この社会の行末を左右するような大切なことを、閣議決定で決められてしまい国会が空洞化しています。それで「軍法裁判所」が閣議決定で創設されるのではないかと恐れを抱いてしまいます。まさかとは思いますが。そんな情勢の中で憲法の「発議権」について考えてみたいと思うのです。
憲法99条には「[憲法尊重擁護の義務]天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とあります。この99条は、この社会を取り仕切る立場にあるものは、とかく自分たちの利益を優先しがちになるから、厳しく制限を加えてこの枠内で人々のために尽くしなさいという「取り決め」が憲法なのです。しかし「この社会を取り仕切る立場にある」人たちが「このような厳しい制限では、どうしようもない。制限を緩めるべきだ」などと言い出したら、クーデターの共同謀議で全員逮捕です。それくらい厳しく「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」は「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」のです。
ところが憲法96条[憲法改正の手続]には「①この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会がこれを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする」とあります。憲法99条と憲法96条は明らかに矛盾しています。このことは護憲運動の中でもあまり話題になりませんが、敗戦まもない頃にはそのような世論は存在したのです。
「古関彰一著・日本国憲法の誕生」には、敗戦の翌年二月三日公表の輿論調査研究所による調査結果が次のように紹介されています。
①[明治]憲法七三条により改正案を天皇が提出することを支持するもの 二○%
②議会の憲法改正委員会において改正案を提出する方式 二四%
③憲法改正委員を公選して国民直接の代表者が改正案を公議する方式 五三%
この輿論調査では、天皇制反対は9%にも達していました。敗戦後わずか6カ月後にです。そしてこの①と②に関する%の数字を見ても天皇や当時の国会の貴族院・枢密院などが信用されていないことがよくわかります。当時の世相について「憲法読本」には次のように記されています。
「当時民衆の意識が猛烈な勢いで変化しつつあった」「労働運動や民衆運動は急激な高まりを見せていました。相つぐ労働組合の結成、激しい労働争議の続発、古い政治勢力を打ちたおして民主的な政治を求める『民主統一戦線』や『民主人民戦線』の動き、食料を求める民衆運動は、誠にめざましいものでした」。
このような社会情勢の中で、もしもこの③が実現したら、民衆の手で直接選んだ委員によって憲法が起草されることになります。日本の支配層やマッカーサーにとって、想像もしたくもない恐怖そのものであったでしょう。そこで民衆がそこそこ受け入れるような憲法を制定して「③憲法改正委員を公選して国民直接の代表者が改正案を公議する」ような動きを封印してしまおうという、そのような意図で制定されたのが、現日本国憲法なのです。勿論憲法研究会などによる憲法草案などもあって、GHQもそれらの優れたものを参考にしたということはありますが、国民投票を経て制定されたものではないのです。そのあたりにこの国のありようの分かれ道があったことは否定することはできません。その「分かれ道」に戻ってみんなで考える一つの方法として「南米チリ」の動きを次に紹介します。
(つづく)
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