東京電力の放射能汚染土

2045年までに福島県外だって?!

アリバイづくり許さない!

 1月17日、国は全国の公共事業で、原子炉等規制法で求める再利用基準(放射性物質として扱わなくてよい「クリアランスレベル」という基準)100ベクレル/kgの80倍にあたる8000ベクレル/kgの「放射能汚染土」を、陸では盛土、海では埋立材として使ってよいとする政令と告示を環境省が定めようと、パブリックコメントの募集(パブコメ)をはじめた(〆切は2月15日)。パブコメの正式名称は「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案等」に対する意見募集について
(https://x.gd/XozHG)。

 「放射能汚染
 土」とは何か

 「放射能汚染土」とは、福島原発事故対応の除染等で生じた「除去土壌」のことで、中間貯蔵施設で一定期間保管した後、福島県外で最終処分する。中間貯蔵・環境安全事業株式会社法では、除染等の措置に伴い生じた土壌等について、「中間貯蔵開始後30年以内(2045年まで)に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」ことが国の責務として明記されている。福島の中間貯蔵施設は福島第一原発周辺の宅地・農地・山林を買収、借地によってつくられた。「30年中間貯蔵施設地権者会」も組織され、独自に環境省との交渉を行っている。買収にも借地にも応じない地権者もいる。
 国は、2018年10月時点の推計で「除去土壌等の総発生量の見込みは、約1330万立米であり、そのうち約1300万立米が土壌、約30万立米が焼却灰と推定(帰還困難区域の除去土壌等は含まない)」と説明している。
 公共事業、陸では盛土。たとえば成田空港拡張計画では、用地造成工事では120万立米の切土を行い、330万立米の盛土をする。210立米は敷地外から運び込むことになる。国は「放射性セシウムの放射能濃度については、約1070万立米が8000ベクレル/kg以下、約230万立米が8000ベクレル/kg超」、「中間貯蔵開始30年後には、放射性セシウムの放射能濃度は、事故当初の4分の1以下に物理減衰し、約1330万立米のうち約8割超は8000ベクレル/kg以下になる」と説明するが、2045年に県外搬出をはじめるのではなく、終了させねばならないのだ。想像してみてほしい。

 汚染土再利用
 などゴメンだ

 このパブコメ開始に対し、市民団体「放射能拡散に反対する会」が素早く「『放射能汚染土の再利用はやめてくたください!』と書いて出しましょう」と、5点の意見案と解説を作成した。呼びかけ団体のひとつ、NPO法人市民放射能監視センター(ちくりん舎)のサイトで公開している。「2020年にも、環境省は同様のパブコメを行ったが、2854件の意見が提出されて、その大半が反対だった。そして環境省が、基準案の策定をその時は断念した珍しい経緯を持つ」と、ジャーナリストのまさのあつこさんは「地味な取材ノート」(https://note.com/masanoatsuko)で紹介している。あさのさんには『あなたの隣の放射能汚染ゴミ』(集英社新書)、『投票に行きたくなる国会の話』(ちくまプリマー新書)などの著書があり、noteには原子力規制委員会をはじめ、政府機関や審議会情報を日々紹介している。
 まさのさんは福島民報の記事でこのパブコメ開始を知り、1月20日に「多くの声を上げてもらいたいが、何重にもヒドイ、史上最悪のとっつきにくいパブコメ」、つづけて「『この省令は、令和7年4月1日から施行する』とある。なんと!環境省は今年4月から、汚染土壌の再利用を全国で進めたいのだ」と投稿している。

 石破内閣は昨年12月17日の閣議で、首相を議長、構成員をすべての国務大臣とする「防災立国推進閣僚会議」の開催を決めた。第1回は12月20日に開催。同日に第1回福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等の推進会議、第64回原子力災害対策本部が行われ、「福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等の推進に関する体制の強化について(案)」が了承されていた。
 この国の決定を受け、朝日新聞デジタルは次のようなインタビュー取材を行っている。
 「前に進んでいない」。30年中間貯蔵施設地権者会の門馬好春会長は国の新方針に厳しい目を向けた。閣僚会議は、やるべき項目を並べた基本方針を来春までに、時期を含めた工程表を来夏までにつくると決めた。しかし、最終処分地の選定につながる具体的な内容は示されなかったと、門馬さんは感じた。
 新宿御苑のそばに住む文筆家の平井玄さんは、「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」の世話人だ。地元では2022年末、話が突然ふってわき、説明会も限られた住民しか入れなかったという。「そもそもの安全性や浸水被害が起きたらどうするのか。問題は多くあるが、住民に説明する気が環境省から感じられなかった」「正面からごり押しできなくなったから、『資源』として建設資材などに紛れさせようとしているのではないか」。
 
 「第7次エネルギー基本計画(案)」に対するパブコメが1月26日に締め切られた。審議会での議論は昨春にはじまり、敏感に対応したのが自然エネルギー関係の市民やNGO、気候正義をめざす若い世代だった。若者らは2022年になってドイツの脱原発が10年前の倫理委員会などでの熟議を経て実現したことを知り、実践をはじめている。2030年や2040年の温暖化ガスなどの排出や資源の収奪に責任のある当事者だと自覚した若い世代が参加している。
 政府のパブコメは国民参加のアリバイづくりかもしれない。だが、知ったら行動に移そう。
(1月27日 KJ)

みんなでパブコメを出そう

『放射能汚染土の再利用はやめてください!』


 市民団体「放射能拡散に反対する会」よびかけ団体のちくりん舎(NPO法人市民放射能監視センター)サイトから
https://chikurin.org/wp/?p=7425

 環境省は、多くの反対の声を無視して汚染土の再利用を強行しようとしています。今の法律ではできないため、省令・告示案を発表し、パブリックコメントの募集を開始しました。福島第一原発事故で放射性物質に汚染された汚染土を、全国で道路の盛土などに利用する計画です。
 あなたのまちに放射能汚染土がやってくるかも知れません。放射線被ばくはできるだけ少なくすべきところ、“多少の被ばくは受忍せよ”と言うことです。
 パブコメで「被ばくしない権利」を主張しましょう!
締切り  2月15日24時 
 意見は何回でも提出できます。

【問題1:放射性物質は集中管理が原則】
 コメント例:放射線はどんなに少なくても危険です。特に妊婦、乳幼児、子どもへの影響は甚大です。これ以上の被ばくを避けるためには放射性物質の集中管理が原則です。放射能汚染した土壌を「再生利用」と称して全国にばらまいてリスクを拡散させるべきではありません。
〔解説〕は「(図)放射能から人を守るための大原則」を参照。

【問題2:被ばく線量・影響の過小評価】
 環境省は8000ベクレル/kgの土壌を再利用しても追加被ばく線量は年間1mSv以下で、問題はないと主張しています。とんでもない! 除染当時、環境省がさかんに言っていたように「1mSvは安全と危険の境目(1mSv以下は安全)ではありません。」 
 コメント例:汚染の少ない地域に汚染土を持ってくること自体が放射能汚染の追加であり、さらに想定外の自然災害が多発している近年、汚染土が流出すれば回収できません。 放射能汚染された粉塵による内部被ばくも心配です。
〔解説〕
 年1mSvでも70年続けば70mSv。ICRP(国際放射線防護委員会)の控えめな推定でも、がん死が10万人あたり350人増えます。これは発がん性化学物質の環境基準の350倍です。
 汚染土を再利用しようとすれば、福島にある中間貯蔵施設に埋め立てた汚染土を掘り起こし、運搬し、再生資材化の行程を経て、工事現場に運搬し、盛土にするなどの作業が必要になります。各段階で、土壌の放射性微小粒子の吸入を避けることはできません。粒子の大きさによっては肺の奥まで達し沈着する可能性もあります。また、微小粒子は相当な距離を移動するので住民も被ばくする危険があります。
 工事の作業者にはマスクも支給されません。環境省が年間1mSvまでは被ばくしないと主張しているのは、作業者が鉄板の上に乗って、年間労働時間の6割弱しか作業しない場合を想定しているからで、全く非現実的です。

【問題3:放射能基準のダブルスタンダード】
 「原子炉等規制法」では、放射性セシウムについては100ベクレル/kg以下のものしか再利用できません。今回の環境省の告示案では、除染で発生した8000ベクレル/kg以下の放射能汚染土を再利用しようとしています。
 コメント例:「原子炉等規制法」では100ベクレル/kg以下を再利用の基準としているにも関わらず、環境大臣が定める告示だけで8000ベクレル/kg以下の「除去土壌」なら再利用できると決めるのはおかしい。
〔解説〕
 「原子炉等規制法」は、原発敷地内で発生した放射性廃棄物を扱う際、放射性セシウムについては100ベクレル/kg以下のものは放射性物質として扱う必要がない(再利用できる)とし、これを超えたものはドラム缶で管理することとしており、今も原子力施設ではこの法律で運用されています。
 一方、福島原発事故後に制定された「放射性物質汚染対処特措法」は、緊急時の特例としてこの基準を80倍も緩め、8000ベクレル/kgを一般ごみとして扱うこととし、私たちの生活圏の方が原子力施設よりも緩い規制となっています。今回の省令改正は、この特例を汚染土の再利用にまで拡大しようとするもので、法律違反です。なお、放射性セシウム137の場合、8000ベクレル/kgから100ベクレル/kgに減衰するまでに190年かかります。

【問題4:「復興再生利用」には法的根拠がない】
 放射性物質汚染対処特措法には「除染土の再生利用」の規定がありません。環境省は41条に書かれている「処分」に「再生利用」という意味が含まれていると主張しますが、言葉の誤魔化しです。
 コメント例:多くの専門家も「処分」の意味に「再生利用」は含まれないと指摘しています。国会の審議もせず、放射能汚染土「再生利用」ありきの強引な解釈によって進めるべきではありません。
〔解説〕
 「廃棄物処理法」では「分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理」とし、「再生」と「処分」を明確に分けています。「再生利用」というからには用途があり「処分」ではありません。事故直後に「原子力安全委員会」が公表した「廃棄物の処理処分等に関する安全確保の当面の考え方について」においても「再利用」と「処分」を分けています。法的根拠はなく、あるのは環境省の基本方針のみで「再生利用等を検討する必要がある」と書かれているに過ぎません。

【問題5:住民の声を聴かず、環境省が一方的に決めている】
 コメント例:最大の被害者は汚染土を持ちこまれる全国各地の住民と作業者です。国会の議論や住民との熟議も経ず、拙速に省令案作成・パブコメ手続きを進めることは許されません。
〔解説〕 
 環境省は、こうした様々な問題指摘には応えず、住民と話し合って最善の方策を探るのではなく、「理解醸成」と称して汚染土再利用を住民に押しつけてきました。福島県内での実証事業による作業員の被ばく実態も明らかにされていません。一方で住民の強い反対により福島県二本松市の実証事業は撤回、埼玉県所沢市、東京都新宿御苑では中断しています。昨年発表されたIAEA(国際原子力機関)の最終報告書でも、住民らとの協議の場を設けることが重視されていますが、今回の省令案・告示案には何ら反映されていません。

◎パブコメの最初に「復興再生利用に反対します」と書きましょう。
◆意見提出方法  電子政府の総合窓口(e-Gov)
https://x.gd/XozHG

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