1.29京都・主基田抜穂の儀違憲訴訟

控訴審結審

 【大阪】2025年1月29日大阪高裁で、京都・主基田抜穂の儀違憲訴訟控訴審の第一回口答弁論が開かれた。
 この訴訟は、令和天皇が2019年5月1日に即位し、その年の11月14,15日に行われ大嘗祭に関与した京都府の行為を違憲として、11月4日に京都地裁に提訴されたものである。

大嘗祭は皇室神道の祭祀

 天皇の譲位については、日本国憲法や皇室典範には規定がない。明治前はともかく、その後は天皇が死去すると直ぐ次の天皇が即位したが、令和天皇は、先の天皇の譲位によって天皇に即位した。皇位の継承は日本国憲法第2条で、皇室典範の定めに従うとされている。皇位継承の儀式は、剣璽等承継の儀、即位礼正殿の儀、大嘗祭などがあるとされるが、毎年行われる新嘗祭では、天皇が新穀を神々に供え、自らもそれを食し、五穀豊穣と国家・国民の安寧を祈願すると言われている。天皇が即位して最初の新嘗祭を大嘗祭といい、神々に供える新穀は、悠紀国と主基国から献上される。
 令和の大嘗祭は19年11月14、15日に行われ、大嘗祭のために大嘗宮が仮設され、祭後は決まりに基づき取り壊された。大嘗宮の主な建物には、悠紀殿(ゆきでん:東に位置する建物)と主基殿(すきでん:西に位置する建物)、廻立殿(かいりゅうでん:北に位置する建物)があり、大嘗宮の儀では、天皇が廻立殿で潔斎(けっさい)を行い、純白の生絹の祭服に着替えて悠紀殿と主基殿で供饌(きょうせん)の儀を行うとされる。いわゆる皇室神道に基づく儀式だ。
 日本国憲法では、20条【国の宗教活動の禁止】、89条で【公金、国の財産は宗教上の組織に支出しない】、いわゆる政教分離原則が規定されている。

大嘗祭に関与した京都府


 この儀式のために使用される新穀は献上されるとされるが、新穀に限らず細かい一つ一つのことが、事前に宮内庁により指示される。令和の大嘗祭に動員されたのは、栃木県と京都府だった。京都府は5月に、宮内庁の指示に従って主基田となる農家の田を選定し、その田で育てられた稲の穂を刈り、そこで収穫した米を主基田に運び、儀式に参列した。主基田抜穂の儀は、19年9月27日南丹市で行われ、府知事、府農林水産部長が参列した。主基田で収穫した新穀献納の儀には京都府の東京事務所長が、また大嘗宮の儀には府知事が参列した。これらの儀式への参列には給与と旅費が支給された。

監査請求を経て訴訟へ
 
 12人の京都府民は大嘗祭に関わる諸儀式に京都府知事らが出張したのは、憲法の政教分離規定に違反するとし、それに要した支出の是正を求める請求を、2020年8月21日に京都府監査委員会に提出し、この儀式への公金の支出とその違法性を問うた。しかし、10月5日付けで出された監査結果では、「請求人の主張には理由がないものと認め」請求は棄却された。京都府は、「伝統行事」や「社会儀礼」と言い逃れをした。そこで、府民は、11月4日、京都地裁に「京都・主基田抜穂の儀違憲訴訟」を、原告12人で提訴したわけである。
 京都地裁判決は24年2月7日に出された。判決は、大嘗祭の形式が戦前と共通していても、儀式の意味合いは社会的状況によって異なり、服属儀礼や神聖性獲得という意味合いは引き継がれていず、象徴天皇制に反するとは認められないとし、天皇の即位に祝意を表すための社会的儀礼との受け止め方が自然であり、「君主の宗教」への対応としての政教分離は憲法上の規定とは認められないとした。そして、京都府の関与は、宮内庁からの強制ではなく、京都府からの自律的な行為であり、地方自治法に反していないとした。

そして控訴審へ


 控訴は24年2月20日に行われた。その第1回口答弁論が今年1月29日に開かれ、原告の蒔田直子さんが陳述書を読み上げた。
 蒔田さんは、「11月14日から15日未明にかけて行われた真夜中の秘儀に、京都府知事は暗闇の吹きさらしの野外で、天皇に仕える京都府民の代表として、前夜から午前4時まで座らされていました。内部では、新天皇がアマテラスと共食し、神になる皇室神道儀式が行われていました。その一連の大嘗祭儀式には強い宗教的意義があることは、宮内庁の見解にも表明されています。この儀式への参列は、5月の主基田の選定に京都府が関わったことから始まっています」とのべ、「天皇は二度と現人神になってはいけないということを、私自身の両親も含む戦争体験者のナマの言葉を日常に聞くことができた世代の一人として、この場を借りて訴えたいと思います」と述べ、戦後教会で出会ったハルモニのこと、「慰安婦」と呼ばれた女性たちの証言を聞きにアジア各地を訪ねたこと、予科練で特攻訓練を受けながら敗戦を迎えたお父さんのこと、学徒動員で軍需工場で働いていて機銃掃射を受け空襲で逃げ惑ったお母さんのこと、そのお母さんが天皇の戦争責任に最後までこだわっていたことなどを陳述しました。

控訴理由の核心


 諸富弁護士と鹿島弁護士が控訴理由書の内容を簡潔に陳述した。
 ◆本件は、地鎮祭に関わる津判決や愛媛判決と事案が異なり、政教分離原則については最高裁判決が積み重ねてきているから、本件との異同についての綿密な分析なくして、本件の違憲性を判断することは不可能である。
 ◆京都府の行為は自主的な行為ではなく、宮内庁による強い要請つまり強制によるものであり、地方自治法2条にいう「事務」には該当しない。
 宮内庁が京都府と栃木県に対して作成した「大嘗祭にかかる各種調整事項について」という文書は、当該府県がすべきことが具体的な指示・命令として記載されている。その多くが、「・・・こと」という終助詞で終わっている。
 ◆原判決は、大嘗祭に対する国の支援行為、つまり約20億円の公金支出、宮内庁職員の関与について、その合憲性を判断する必要がないとした。しかし、国の支援と京都府の関与は一体のものである。国は、大嘗祭を「皇位継承における重要な儀式」であるとして公的性格を主張し、莫大な国費を支出してその挙行を支援し、宮内庁は京都府を巻き込んで儀式を挙行し、京都府は国の主導する大嘗祭挙行組織の一部となってしまい、加担させられた。
 ◆結論として、国そのものが大嘗祭を挙行したことに外ならないから政教分離原則に違反して違憲である。仮に、天皇と皇室が国家の一部ではなく、国家外の社会の一部だとしても、国が莫大な国費を支出して大嘗宮を建設し、斉田抜穂の儀に始まり大餐の儀に終わる諸儀式を可能にしたことは、その目的が宗教的意義を持ち、かつ、効果が皇室神道に対する援助・助長・促進になったことは明らかである。すなわち政教分離原則違反以外のなにものでもない。
 一方、被控訴人側は何も発言せず、かといって認めるわけではなく、判断の異なる部分については争うとのみ主張している。
 結局、控訴審の口答弁論は一回で終わり、4月25日14時から同じ法廷で判決言い渡しとなった。最高裁判事も全員大嘗祭に参列しているそうで、そのような司法が控訴人の主張を認めることは極めて難しいと予想されるが、これほど明確な違反行為をどのような論理で合理化し、控訴を却下するかが注目される。
      (T・T)

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