2.16アイヌ文化から北方諸島の問題を考える
萱野志朗さん(アイヌ民族党代表)を迎えて
【東京】2月16日午後2時から、神保町区民館で「アイヌ文化から北方諸島の問題を考える」が同実行委の主催で開かれた。
お話は、萱野志朗さん(アイヌ民族党代表)。毎年同実行委は、この時期にアイヌ民族の方を講師にして、講演会を開催している。
萱野志朗さんは萱野茂さん(参議院議員)の息子さんでアイヌ語の復興やアイヌ民族の権利回復に尽力されている。萱野茂二風谷アイヌ資料館長、エフエム二風谷放送編集局長、平取町前議会議員、公益財団法人アイヌ民族文化財団評議員。
アイヌ政策の見直し法案が作成に入っていく
司会の本多正也さん(現代思想研究会)が最初に発言した。
「アイヌ施策推進法があるのだが、それがどういうふうに自治体で取り組まれているのか、アイヌ民族が具体的に参加できているのか、最初からいろいろ疑問を持っていた。国会ではこれからアイヌ政策の見直し法案が作成に入っていく。もう論議は開始している。それにも注目しながら、アプローチしてもらいたい」。
「今日、お呼びした萱野志朗さんはここ15年で3回目になる。先住民族サミットとか洞爺湖サミット、世界先住民族宣言を国連で決議された。その後、愛知のCOP10、2年くらい後にやられた。特にブラジルの先住民族は地下資源の配分を要求した。単に森林を守るというだけでなくて、先住民族の権利を具体化していくような取り組みに着手していった」。
「そうした中でアイヌ民族がどういうふうに変わっていったのか、どういうふうに前進したのか、ヘイトスピーチとか妨害工作も出ているし、まだ鮭の捕獲も自由にできない。世界的にも若い世代が登場してきている。どのようにこの問題に取り組んでいっているのか、そんなことが話し合われたらよい」。
萱野志朗さんの講演から
国はカネを用意するだけ
国連が信託統治にして、それをアイヌに返してもらう。私の理想的な見解だ。2019年にアイヌ施策推進法という法律が施行された。5年で見直されることになっているが、国では具体的な見直しがまったくされていない。アイヌは先住民族と書かれているのにもかかわらず、その実態的な権利については何も触れられていない。
北海道のアイヌに対して市町村では内閣官房が用意している20億円がある。20億円のうち、釧路市と平取町で3億5千万円ずつ、あと13億円を他の市町村で分けている。したがって、実態が明確に現われている。計画を立てて、内閣官房に申し出れば。一応八割給付されて2割が自治体負担。実際は9割国が出してくれる。1億円の事業も一千万円でできる。平取町にはいろんな建物が立っている。アイヌ文化交流センターなど。その他にも幕別町で蝦夷文化考古館がある。それを幕別町が生活館と考古館を合体させた形で計画を進めている。その他に旭川市の川村カ子とアイヌ記念館 、新築の博物館を立てた。しかし、建物は立てたはいいがランニングコストがかかる。
内閣官房の出しているおカネは百兆円を超える予算の中で、たった20億円。国は直接アイヌ民族に対して、何ら自分で政策を立てることなく、ただカネだけを用意して、自治体にこれを奪えあえという。
平取町で毎年3億5千万円から4億円もらっている。それで計画もきちんと立てている。役場にはアイヌ施策推進課がある。その課が計画を立てて、5カ年計画があり、それを毎年実施していく。
建物を立ててもランニングコストや管理費がかかる。交付金が出なければ平取町単独では維持できない。国自体がアイヌに対する様々な施策について、放棄している。このおカネだっていつまで続くか分からない。
苦しい農業経営の実情
農林業、漁業への補助金、墓碑を改修するための貸付、奨学資金、高校の場合はバス通学の補助、住宅建設補助などがある。
一例をあげる。トマト栽培が盛んだ。トマト農家10人で組合をつくり、3人がアイヌとする。農林漁業対策でおカネを出す。7割ぐらいの補助金が出る。ところが誰でも彼でも借りられるわけではない。農協が黒字で経営できるかどうか、きちと出来そうだという人にしか融資しない。ビニールハウスは一棟一千万円くらいかかる。百件の農家のうち、黒字を出しているのは20%。赤字を出しているのが20%、あと60%がどうにかプラマイゼロか。20%ぐらいしかトマトで儲かっている人はいない。
農家は家族経営だから、家族が労働者として働ている。ビニールハウスはすごく高温だ。冬だって灯油たいて温める。受粉作業は昔は手でやっていたが今は西洋まる花蜂を商社から買って、それを受粉の時に放す。ただし、これが二次被害がある。ビニールハウスの中の、西洋まる花蜂はヨーロッパから来ている。このまる花蜂が環境破壊になる。生命力も強い。
また、もう一つの特産品である平取和牛がある。畜産公社がやっている。年間出荷頭数が決まっている。平取町は赤字でやっている。
推進法はあるが
97年3月27日に、二風谷ダム裁判で札幌地裁での一審の判決が確定した。北海道に居住するアイヌ民族は有史以前から居住し、風俗文化言語等、色濃く残っているから、北海道における先住民族であるとはっきり言っている。その時原告である萱野茂は現職の国会議員だった。アイヌ初の国会議員だ。
アイヌ文化振興法という法律ができた。北海道旧土人法は廃止された。2019年にアイヌ施策推進法が出来た時に、アイヌ文化振興法も廃止された。しかし、廃止されてもアイヌ民族文化財団は国のカネの100%でやっている。アイヌの研究者となってやっている。
千島は国連統治で
国連が信託統治というような舵をとり、アイヌとロシア、何とかできないか。あの北方領土という言い方は、もともとは千島列島という名前だ。北方領土の日と国が定めたが、われわれアイヌにとって、千島列島だ。もともと地名なんか全部アイヌ語だった。
地名をつけていることはアイヌ民族の法的な権限がある。方言として使える可能性がある。千島・カラフト交換条約の時に、千島に住んでいるアイヌは日本国籍を取るか、ロシアに帰属するかそういうふうにされた。
北千島アイヌの97人の人たちが色丹島に強制移住させられた。病気などでほとんどが亡くなった。そのうち数人が生き延びて、北海道に行った。千島アイヌはロシアやポーランドに行ったケースもある。
質疑応答から
①アイヌ民族に関して教育における問題点は何か。
――総合学習が二風谷小学校で70時間、そのうち50時間はアイヌに特科した。50時間のうち10時間はアイヌ語に。残りの40時間はアイヌ文化一般。残りの20時間は平和教育。モデル校になっている。アイヌ語を普及するためにアイヌ語ができる職員を配置している。その他の小学校はそれほど多くはない。北海道の教育大学で、アイヌ語の勉強をしている人はいないのではないか。学習指導要領に載っていないと直接的な指導ができないので、平和教育などにかこつけてやっている。
②先住民族と鮭の採取・漁業権の問題点。
――法律がないとダメ。定置網の権利にしても、漁業組合に入っている人たちの中で、みんなで割り振りする。漁業で生活をしている人だが川でもとらせてくれと要求した。川自体では漁業権は設定されていない。唯一許されているのは人工ふ化だけ。先住権として日本の法律の中に具体化されていない。伝統的な漁法でとった魚を売ることはできない。商業的に捕獲させよとアイヌの人が訴えている。特別採捕でやれと裁判官は言うが問題提起に答えていない。鮭を取る権利の存在の有無を裁判で解決してくれと訴えている。
③アイヌ民族党の活動は?
――去年の11月30日に党大会を開いた。HPに出ている。党員、サポーター募集。18歳以上なら誰でも入れる。党費は年間千円。
④アイヌへのヘイトスピーチの背景は何か。
――ネット上では匿名報道がある。匿名性があるから好き勝手書いている。無責任で、人の意見をうのみにして、まったく理解できない。それをネット右翼という。アイヌが先住民族だと権利が発生したとき、その権利を認めたくない。みんな混血しているだろうとか。例えばアイヌとヤマト民族を比べて、アイヌだって縄文の血が八割くらい入っている。ヤマト民族だって二割から三割縄文だ。だからアイヌとヤマト民族がまったく関係ないとも言えない。北海道で昔から住んでいたのはアイヌだということは間違いない。アイヌとしてのアイデンティティは自分の出自によって、保証されている。いわゆる北海道に来た開拓民はヤマト民族としてのアイデンティティが持てない。だから義経伝説があり、義経を祀っている神社がいっぱいあり、義経サミットが開催されたりもしている。 (M)

講演する萱野志朗さん(右)(2.16)
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