11・23排外主義・軍事化といかに闘うかシンポジウム

日仏独の同時的右傾化の流れ

 反戦反貧困反差別共同行動in京都主催のシンポジウムが11月23日、京都キャンパスプラザで開かれた。シンポジウムでは3人の講演者は、鵜飼哲さん(一橋大学名誉教授・哲学、フランス現代思想)、駒込武さん(京都大学教授・日本の植民地教育、台湾現代史)、木戸衛一さん(大阪大学教授・現代ドイツ政治)がそれぞれの専門分野から講演した。以下要旨。

鵜飼報告
 イタリア・フランス・日本


 保守派の女性政治家が決定権を持っているのはヨーロッパだ。ヨーロッパ全体が今非常に右傾化している。日本に一番よく似ている国はイタリア。ムッソリーニを賛美するジョルジャ・メローニが首相で、ジョルジャ・メローニの高市政権誕生の時の喜び方は本当に大変なものだった。メローニと高市が共有する原則、言葉としては自由民主主義、世界の安定のための協力だが、その実態は何か?
 日仏合同軍事演習がもうここで三回目だ。軍事演習は1年おきにヌーベルカレドニーと日本で行われ、日仏軍事演習のコードネームはブリュネ・隆盛(両方とも著名な軍人)。ゲリラに奪われた基地の奪還を目的にした訓練、ヌーベルカレドニー(南東にあるフランスの海外領土)、宮城県と岩手県の軍事基地でもやった。この二つの国は、帝国主義・植民地主義の歴史意識に断絶がない。

 拡大する軍事訓練

 フランスは今年の10月も北朝鮮の瀬取りの監視活動にフランス海軍の哨戒機を派遣し、普天間飛行場を使用している。国連軍は沖縄ホワイトビーチと嘉手納飛行場を使用しているが、今年だけで 5月にカナダの、8月にイタリア、9月にカナダ、11月にオーストラリア軍がそれぞれ在日米軍基地を使用している。 3月には北部訓練所での戦闘想定訓練にオランダ軍が参加した。2022年にも海兵隊や自衛隊のほか、オランダ軍や英国軍、第三国を含む 1万4000人が北部訓練所での訓練に参加した。日米安保条約上は、第三国が訓練目的で在日米軍基地を使用することは許されていない。2008年、沖縄と北部の米軍北部訓練場をイスラエルとドイツ、オランダ各軍連絡将校が視察し、自衛隊と合同したジャングル戦闘訓練実施を検討している。
 欧州の右傾化

 今欧州委員会の委員長はウルスラフォン・デア・ライエンというドイツ人。ポピュリスト的で反EU的なグループが議会で順調に議席を増やしてきた。その1つがジョルジア・メローニの「イタリアの同胞」(極右政党名)だ。ウルスラ・フォン・デア・ライエンの党は欧州人民党(中道右派)である。この党は、中道右派から極右までがいわば一つの勢力になるように動いてきた。右と右翼と極右の間の境界がなくなってくる。このグループ内の最強硬派が経済問題で中道寄りになったことで、フォン・デア・ライエンとジョルジア・メローニの最近の接近に象徴されるような合流が容易になった。国際的に言えば、この輪の中に高市早苗は入ってくるということだ。フォン・デア・ライエンはヨーロッパの価値、民主主義、エコロジーの社会政策、死刑廃止、種族的宗教的ヨーロッパ、白人キリスト教の間で対立しない原則の中に自分の場を見いだす。これはやっぱり非常に重要なポイントだ。

 「革命的平和主義」

 それに対する反撃は起きてきていて、パレスチナ連帯運動とウクライナ反ファシズム闘争が合同して新たな闘争主体が生まれつつある。ヌーベルカレドニーのリツァー先住民も参加している。これは注目してほしい。フランスでは(図を見ながら)こういう極右相関図というものが毎年更新されている。日本でも作らないといけない。スペインの街頭では「鳩が爆弾を破壊する」イメージのポスターが貼られていた。イメージから変わるのは大切。パレスチナ出身(後、度仏)の欧州議会議員が一人、リマ・ハサンという人ががんばっている。極右を除いて右翼までがイスラエル支援の欧州議会の中でのアルバネーゼやリマ・ハサンの活躍を見ると、もう新しい平和運動は生まれて来ていると思う。言葉としていえば革命的平和主義。日本国憲法を守っていく上でも結構これから大事になってくるのではないか。

駒込報告
 左派リベラルの立場


 高市政権の軍事化・排外主義政策には断固反対する。私は高市発言を絶対認めない。しかし、批判する側の論理にも大きな問題を感じる。日本も欧米も国連も、世界中が過去に台湾を見捨てて中国の要求を認めた。左派リベラル勢力の主張にも軍事力中心のパワーポリティックスの論理、日本の国益論、そうした論理が無意識の前提になっている。台湾は国連に加盟できず国として認められていない。どのような問題があるのか、それを解決できないのかを考えなくてはいけない。日中共同声明が出されたのは、ベトナムの北爆と文化大革命の最中だった。中ソの軍事衝突、ベトナム戦争の泥沼化を契機に、中米が接近し国連代表権が中華民国から中華人民共和国(中国)へ移行し、ニクソン訪中、同年7月の日中共同声明の調印が実現した。声明第二項は、中国政府が中国唯一の合法政府、の承認。第二項は、台湾は中国の一部であるとの中国政府の主張を十分理解・尊重、である。十分理解し尊重するとは、中国政府の立場を十分理解・尊重すると同時に、台湾人民の自決権をも十分理解・尊重することも並び立つ表現だと思う。第五項は中国の対日戦争賠償請求権の放棄である。日本では、毛沢東と周恩来によって救われた感謝しようみたいな議論が一般的だった。中国政府が得たものは何?一つは中国の国連加盟だ。

日中共同声明と台湾の歴史

 台湾の人々の中には、対日賠償請求について台湾が身代わりとさせられたという意識がある。中国の主張を理解・尊重する箇所では、ポツダム宣言第八項の遵守も明記されている。つまりカイロ宣言を実行するということ。カイロ宣言には台湾を中華民国に返還するとある。この中華人民共和国が中華民国の後継国家である以上、台湾は中国に返還されるという意味だ。だが、より根本的な問題として、蒋介石のときの中華民国は一度も台湾を支配したことがない。台湾が植民地化されて以降に中華民国ができる。カイロ宣言そのものがある種、帝国主義的な再分配だ。少なくとも台湾の人々にとってはそう受け取られる余地がある。日清戦争の講和条約で、中国が日本に台湾を割譲し、台湾の人々の経験が大陸の人々の経験と決定的に異なるものとなった。ここに根本問題がある。
 大むかしから台湾は中国の一部だと思っている人もいるが、17世紀以降、初めて中国大陸からの移民が台湾に入る。日本軍が台湾に上陸する直前、清朝全権だった李鴻章は伊藤博文宛てに電文を発し、台湾住民はすでに独立を宣言したこと、清国政府は台湾に対してはもはや管轄権を有するだけだと伝えている。日本の支配を受けたくない人々が急ごしらえで台湾民主国を創り独立宣言したわけだ。清国はその独立を認めると宣言すると同時に、台湾のことはどうなろうと関知せずという態度をとった。清国からすれば台湾は全く新しい領土であり、だからこそ日本にあげることも可能な土地だった。逆に台湾住民にとっては、自分たちは捨てられたという意識が強く残った。

尊重されるべし台湾民衆の思い

 台湾は清朝の周縁地域であり、開拓地であり、政府の支配は実際にはほとんど及んでいなかった。民間人がみんな武装して戦う社会だった。それが日本帝国の周縁に変成された。日本の敗戦後、何が起きたか。台湾は1912年辛亥革命で成立した蒋介石の率いる中華民国の周縁支配下に置かれた。蒋介石政府は台湾住民を日本時代と同様に徹底して差別した。1947年台湾人が全島的な反政府反乱を起こし、蒋介石政府が台湾人エリートを中心に2万人近くを殺害する。台湾は返還されたというけど、元来台湾の人は中華民国を経験したことがなかったから、中国語だって喋れない。孫文も知らない。それが一般の台湾人だ。台湾は、45年から49年まで中国大陸と同じ政権下にあったが、国共内戦で蒋介石が敗れて中華民国は台湾だけを実効支配することになった。それは台湾の人たちが望んだということではない。交渉材料とされることにより、独自な経験を強いられたされたわけだ。
 改めて先ほどの日中共同宣言を見たときに、当時から様々な批判がある、一人は沖縄の川満純一さんの批判。彼は、日清戦争により中国大陸の民衆と台湾民衆の間で歴史体験に大きな隔たりができてしまったこと踏まえなければ、台湾の帰趨など論じられないという。

木戸報告
 「野蛮化する世界」


 1980年代ぐらいに新しい社会運動によく使われた言葉がオルターナティブ。今、これがイメージできない。嘘を大量に流し、何が本当かわからなくする。貧富の格差はどんどん広がる。支配者が用意するのは排外主義、あるいは昔はよかった風のレトロポピュリスト。民衆の側もフラストレーションが溜まる、オルターナティブが見えない。破壊によって自分が解放する心情が強まってくる。民衆的ファシズムだ。民衆の側も一元的な国家社会を望み、異論を排除する。それにより自分も強者の一員になったと感じる。もう戦争が起こったって構わない。
 メローニや高市が首相になった。ドイツのための選択肢の首相候補はアリス・ヴァイデンという女性。もしかしたらドイツも女性首相になり、日独伊三国の手綱はすべて女性が握るかもしれない。順当にいけば、ドイツの次の総選挙は 2029年だ。世論調査では、極右が第一党になる可能性はかなりある。しかし、政権としては恐らく極右を排除した形での連合政府ができると思うが、その次の選挙は 2033年で、ヒトラー政権からちょうど 100年。ドイツは極右の政権を持つのかどうかが問われている。
 自分の目も随分くもっていたと率直に認めざるを得ない。ドイツの社会はどんどんひどくなっている。 6 人に 1人が貧困で、子供は4、5人に1人は貧困家庭だ。民主的な制度・メディアの信頼度がどんどん失われている。なぜあのような極右政党を選ぶのかと正直思うが、政党一般が信用されてない。世界の軍事格差がどんどん開いている。日本は金額では武器輸入の世界 6番目。韓国は武器輸出の世界 10番目。中国は武器輸出の世界 2番目か3番目。東アジアも世界の火薬庫だということ改めて確認した。

ドイツの軍事化・徴兵制復活?

 ドイツもウクライナ侵攻を機にウクライナへの軍事支援強化し連邦軍を増強し、ヨーロッパでの軍事的リーダーシップを取っているが、NATO加盟国・EU 加盟国から望まれてそうなっている面もある。リトアニアに家族も含めて 5000人規模の常駐部隊が配備されている。イギリスとの友好条約は相互防衛援助条約と名前を変えた方がいい内容だ。戦車の通れるような橋にする、病院を野戦病院化する、そのような工事が盛んだ。若手の将校が学校でリクルートしている。軍が民間空港を使う。東ドイツは軍需産業と縁がなかったが、今は熱心だ。
 こういう文脈の中で、ドイツは2011年から中断していた徴兵制を復活する可能性が高い。そのことがドイツで今争点になっている。18歳の男女に健康状態・学歴・年齢・軍隊に入る意思の有無の質問票が送られる。男の場合回答は義務、女性は義務ではない(ドイツの基本法には男子の徴兵が明記)。男子の場合徴兵検査を受けるのは義務だ。こういう状況で、今問題は兵役の志願制だが、若者が十分集まらなければ、おそらく事実上の強制的な徴兵制に向かうだろう。世論の反応は若い人には嫌気感が強いが、3 人に 2 人は現状肯定だ。

 ドイツ社会の分断

 こうなった背景は直接的にはウクライナ戦争だ。ドイツ、特に旧東ドイツで伝統的だったものに「武器なしに平和を築く」というスローガンがある。1989年の独の平和統合、その震源地だったのはライプツィヒという都市だった。ニコライ教会があって、毎月曜日の平和の祈りに参加者はここからデモした。警官や公安に弾圧され逮捕される。でも、デモの参加者がだんだん増えていく。市民の側は、殴られたら殴り返すのではなくて、花を一輪差し出し、灯したロウソクを差し出して弾圧に耐えていった。結果的に1989年10月9日に7万人ものデモが行われ、ベルリンの壁が崩れた。武器なしに平和を作るというのは美しいスローガンだったわけではなく、東ドイツ、あるいは部分的には当時の東欧において現実だった。
 今ドイツにはウクライナからの難民が 125万人ほど、圧倒的に女性と子供だ。彼女らにしてみる、何をそんなきれいごとを言っているのだとなる。そういうわけで今、平和運動がいわば武器なしに平和を作ろう側と、もっと多くの武器で平和を作ろう側に完全に分断されている。平和運動団体はいろいろあるが、なかなか思うような活動が展開できていない。
 3月頃のドイツの民放の世論調査では、必ず武力をもって戦うという人が2割にも達しなかった。これは軍や政府にはショックだったのではないか。ミッペンという小さな街のサッカー場、ここは平和運動のシンボルだったが、そこに4100人が集まって極右政党の集会が開かれた。この政党は、ほぼ第1党に迫る勢いだ。彼らはナチの12年間をミニマムに評価せず、植民地支配も悪くなかったという。最高実力者旧ユング州の州首長の発言だが、(私がドイツで教えていた時の発言)ドイツは日本を見習うべきだと。外国人労働者はあまり受け入れない、難民なんて絶対受け入れない、戦争に負けでも反省しない、日本は素晴らしい国だと言うのだ。ヒトラーはなんで天皇のために命を捨てるような、そういう宗教をもたなかったのかとも。褒められる私たちは何なのか。これは一部の政治家が言っているのではない。彼らは中間層に入り込んでいる。

欧州極右とイスラエルの提携

 自分の見立てが間違っていたというのは、この強烈な反ユダヤ主義についてだ。ガザのこの災難にドイツは明らかに加担をしているが、ウクライナの話にもあるとおり、欧州の極右とイスラエは公然と提携していながら、自分たちは反ユダヤ主義者ではない、反ユダヤ主義はムスリムの特権だという形で、自分たちの人種差別思想をごまかしている。ガザの問題については、市民社会の方がはるかに良識がある。イスラエルの軍事行動を批判し、パレスチナの国家承認を求めて、9月にはベルリン、ジュッセルドルフそれぞれで、ガザのジェノサイド反対の1万数千人のデモが行われた。戦後80年を迎えて、もう一つ、ドイツの中では東西の分断も拡大している。
 最後に、昨日(11月22日)のニュースだが、左翼党の党本部が占拠された。左翼党内にも反ユダヤ主義を批判する勢力がある。パレスチナ出身の党員を除名したり、ドイツは比例代表制だから、候補を上位から引きずり降ろすとか、反パレスチナ的な嫌がらせは党内でもある。それに抗議して党本部の占拠が行わた。最後に一言だけ、本当にジェンダーバランスが大切だ。政治自体が男性原理、他者に勝とうとか他者を支配しようと、俺のものにしようと、これは運動の場においても考えなくてはいけないと思う。
 
 休憩を挟んで、パネルディスカッションが行われ、その場で質問に対する回答があっただ、紙面の都合で割愛する。    (T・T)
 


 
 

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