脱成長論とエコロジー社会主義の対話のために ②
「より少なく、より豊かに」は労働者階級の要求だ
生産能力に対する民主的な支配権を取り戻し、
豊かな生態系を持続可能にする
労働組合・労働者組織との同盟と大衆ベースの政党が必要
アハーン:『より少なく、より豊かに』の出版後、政治・哲学・戦略の面で脱成長の運動とあなた自身の考え方はどのように変わったと考えますか?
ヒッケル:『より少なく、より豊かに』において、私は気候変動についての運動だけでは必要な変革を実現できないと論じました。この運動は労働組合やその他の労働者階級の組織との同盟を確立する必要があるでしょう。そのためには真の組織化、つまり雇用・賃金・住宅・医療など労働者階級の関心に直接働きかけることができる政策を推進し、人々に自分たちの利害が代表されていると実感させる必要があると私は論じてきました。このような同盟が必要とされるのは何故かと言うと、気候活動家は道路や橋を封鎖して注目を集めることができますが、労働組合はストライキを行う力を含めて、はるかに大きな政治的手段を持っているからです。
しかし、私はその後、実際に必要とされるのは、包括的な代替ビジョンを提唱し、国家権力を掌握し、変革的な政策を実施できる大衆をベースとする政党のような存在だと認識するようになりました。ここで言う政党は私たちが知っているブルジョア政党のようなものではありません。地域社会や労働者との活発で有機的な結びつきを持ち、政治的意識を醸成し、異なる運動や闘争を一つの政治的機構へと統合できる政党を意味しています。
街頭行動の情熱と怒りを効果的な政治的力へ転化するには
こう主張する理由はいくつかあります。第一に、私たちはみんなデモに参加したことがあります。気候変動に関するデモ、ブラック・ライブズ・マターの抗議運動、ジェノサイド反対の抗議運動などです。しかしデモが終わった時、次に何をするのかが明確ではありません。そのすべての情熱と怒りを効果的な政治的力として結集する方法がありません。エネルギーは散逸してしまいます。これが私たちの唯一の手段である限り、支配階級は大いに有利な立場を維持できます。賢い政府は単に抗議に参加する人たちを無視しつづけるだけです。人々が疲れ果て、飽きるまで、メディアの話題が通り過ぎるまで。あとは何事もなかったかのように日常の仕事を続けるだけです。私たちには人々を組織化された政治機構に組み込む何らかの方法が必要です。
第二に、現在私たちの活動は百個ものバラバラな運動に細分化されています。ジェノサイド反対運動、フェミニスト運動、気候変動に関する運動、労働運動などです。それぞれが別々の要求を掲げていて、協力することは稀です。これらの運動を結びつけ、私たちの力を増幅させる方法が必要です。これこそ大衆をベースとする政党が実現できることです。私の意見として、これこそが必要な変革を現実に勝ち取れる唯一のアプローチです。
科学的知見と政治のギャップ、無力感の蔓延
アハーン:この2年間だけでも、気候危機が将来の経済成長の見通しにどれほど深刻な影響を与えるかを示す研究が相次いで発表されています。そこに生物種の大量絶滅、水資源の枯渇、その他の複合的な生態系の問題を加えれば、その影響はさらに大きくなります。にもかかわらず、こうした研究をメインストリームの政治家、政党、経済機関はほとんど無視してきました。現状および将来の状況の深刻さを知らせている科学と、現在の政治機構や運動が依拠している考え方の間の緊張関係をどう考えますか? 生態系学の経験的・実証的根拠に基づく洞察と、惑星の限界内で良く生きるための政治的権力を確立する必要性とをどのように調和させられるでしょうか?
ヒッケル:たしかに問題はこれまでなかったほど深刻化しています。数年前に、気候科学が人々の意識に強く浸透した短い時期がありました。集団的な警戒感と懸念が広がり、政府が「気候非常事態」を宣言せざるを得ないほどでした。しかしその後何かが起こり、この議論は立ち消えになりました。おそらくソーシャルメディアのアルゴリズムの変更や、メディアの報道姿勢の転換によってか、あるいは人々が政府には実際に変革を進める意思がないことに気づき始め、ある種の無力感が蔓延したからでしょう。しかし、実際は政府が資本家の政府だから、必要な変革を進められないのです。それが障害物なのです。
資本主義は利益を極大化し、蓄積することなしに持続できないという事実
詳しく説明させてください。資本主義の下では生産は資本によって支配されています。大手金融企業、大企業、そして投資可能資産の大半を所有する一%の富裕層です。彼らにとっては、生産の目的は人間のニーズを満たすことでも生態学的目標を達成することでもなく、利益を極大化し、蓄積することです。それこそがすべての優先する目的です。だから化石燃料やSUV、工業的方法で製造される牛肉、ファーストファッション、兵器などが大量生産されます。これらは資本にとって高収益だからです。一方で再生可能エネルギーや公共交通機関、低家賃の住宅などは慢性的に不足しています。これらは資本にとって収益性が低い、あるいは全く利益を生まないからです。
これはエネルギー転換にとって非常に深刻な問題を引き起こします。再生可能エネルギーは化石燃料より安価ですが、化石燃料は三~四倍の利益を生みます。だから私たちの世界がいたるところで燃え上がっているにもかかわらず、資本は化石燃料への投資を続けるのです。この問題に対処する唯一の方法は、化石燃料への投資を実際に削減し、代わりに再生可能エネルギーに投資をシフトさせる方向へ信用制度を誘導することです。しかし、これは資本主義の利益と根本的に対立します。公共交通機関、建造物の断熱、生態系の回復、循環型農業のような必須の目標についても同様です。これらは利益を生まないので、資本は手を付けません。それらは公共的金融や公共的事業を必要としますが、そうすれば私たちの生産能力に対する資本の支配を弱めることになります。
また、所得水準が高い国はいくつかの生産形態を縮小する必要があるという事実もあります。そのようなセクターの多くは高収益です。資本が自発的にそのようなことを行うはずがありません! 要するに私たちの政府が生態学的危機に関わろうとしないのは、彼らが資本主義の信奉者だからです。だから克服すべきは資本主義そのものです。私たちがこの事実を認識し、それに立ち向かうのが早ければ早いほど良いと思います。
雇用保証制度が実現し、非自発的な失業の心配がなくなれば・・・
アハーン:私がますます大事だと考えている問題は、私たちが望む未来に向けて運動を組織化し、勝利するために、どのような組織・機関が左翼のさまざまな分派を結束させられるかという問題です。環境保護活動家たちは望む変化を実現する政治的な力を持っておらず、労働組合運動の大半は化石燃料からの移行に関心を向けておらず、メインストリームの政党は気候危機について立派なレトリックを使いながら、それと矛盾する方法で統治しています。左翼の政治的な力を結集する最も有望な方法は何だとお考えですか?
ヒッケル:いくつかのことが言えるでしょう。第一に、労働組合がエネルギー転換に焦点を当てないのは、解雇を恐れるからです。環境保護活動家たちが化石燃料だけでなく他の生産形態も縮小するべきだと主張するのを聞くと、彼ら・彼女らの恐怖を増幅するだけです。労働組合員たちの本能的な反応として、資本と一緒になって一層の成長を求め、雇用と生計を確保する方を選びます。しかしこれは全く的外れなアプローチです。それらの目標を達成するには、はるかに優れた方法があります。つまり公的な雇用保証です。雇用保証が実現すれば非自発的な失業の心配がなくなり、化石燃料や他のセクターの縮小について、誰もそれによって不利益を受けることを心配することなく、自由に議論することが可能になります。これこそが公正な転換のカギです。
また、雇用保証制度が実現すれば、民間の雇用主は人材の流出を防ぐために雇用保証プログラムの基準を守らなければならなくなり、その結果としてすべての経済セクターに適用される賃金と労働条件の設定(たとえば生活賃金や職場民主主義)が可能になります。また、このようなプログラムによって、誰でも今の時代の最も重要な集団的プロジェクトに参加できるように職業訓練を受けることができ、有意義で社会的に必要とされる仕事に従事できるようになるでしょう。私たちはこのようにして資本蓄積に奉仕するための労働から社会的・生態学的目標の実現のための労働へと転換することができるでしょう。最も重要なことは、この提案が大きな支持を得ているということです。これは勝利する政治的な綱領のベースとなる可能性があります。
(つづく)
The KAKEHASHI
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