投稿 生産・労働・消費の再組織化、労働と科学技術(下)
西島 志朗
13.国連食糧農業機関によれば、「食料が均等に分配される限り、全人類を養うに十分である」。飢餓は人為的に作られている。西尾道徳によれば「・・・食用作物41品目中の熱量の59%だけが,作物と畜産物として人間の食料として利用され,41%が非食用に利用されたりロスされたりした」(環境保全型農業レポート2014年)。
畜産(特に牛肉)とバイオエタノールだけが問題なのではない。気候危機が飢餓を作り出しているというキャンペーンが、農業の生産と販売を独占するアグリビジネスの犯罪を隠蔽している。
14.アグリビジネス数社が農業者を囲い込み,また流通経路(倉庫や輸送手段)を支配して、独占化が進んだ。独占化によって、価格を操作できることになる。「緑の革命」の無残な失敗以降も、農業経営の大規模化が進み、零細農業者が淘汰され、農村地域社会の崩壊につながった。農業が工業化され、エネルギーと農薬・化学肥料を大量投入して土地を殺し、水資源を枯渇させ、農作物や家畜が遺伝的に画一化した。ハイブリッド(FI)種子が化学肥料や農薬とセットで普及し、農家は毎年種子を買わなければならなくなった。2011年には世界の種子販売の66%を6社が独占し、世界の75%の農産物(穀物と大豆)取引を4社が支配していた。
アグリビジネスの解体が、農業再生の前提条件である。深刻な飢餓とアグリビジネスの倉庫に山と積まれた剰余穀物。食糧の生産は、利潤の追求とは相いれない。
15.食糧生産を中心にした「第一次産業」は、無農薬有機農法と畜産、資源保存型漁業、100年先を見据えた林業と森林の再生事業を組み合わせて、「地産地消」を基軸にローカルに再組織され、地域の気候風土に適合した「伝統農法」が見直される。土が生き返れば単位面積当たりの収量が増える。「遺伝子組み換え作物」は排除され、「野菜工場」は閉鎖される。生きた土に育まれた作物だけが食用となる。
殺された土地と乱獲された海を再生し、汚染をできる限り取り除いて、大地と森、海と川を再生する「100年事業」と一体となった食糧生産に、工場やオフィスで短時間働く人々の大多数が喜んで参加するだろう。農林水産物とその加工品は、再組織されるグローバル・サプライチェーンの中で流通し、世界の食卓を飾るだろう。
16.熟練の解体、労働のマニュアル化によって、生産とサービスの現場で、人間が機械とアルゴリズムに従属させられるようになった。グローバルに展開する水平分業と生産工程の極限的な細分化は、多くの労働者から「働き甲斐」を奪っている。最低限必要なことは、「計画と実行の分離」、アルゴリズムへの従属、長時間の単純作業の繰り返しなどを廃して、生産現場での労働者の「裁量」を取り戻すことだろう。
すべての技術革新は、時短と省エネにつながることが前提であり、環境と労働への負荷の増大は許されない。生産とサービスの現場に実装されるすべてのテクノロジーは、労働者の裁量権を優先し、労働密度を低下させるものであるべきで、労働者の肉体と精神への過重な負荷を軽減する技術であっても、労働をロボットに従属させるものや、アルゴリズムに従属させるものであってはならない(しかし、頭脳労働と精神労働の対立を根本的に克服することは、相当の長期間にわたる意識的な努力を要するだろう。現代資本主義の生産組織は、高度に輻輳し細分化された分業と階層的労働組織であり、資本の没収だけでこれに大きな影響を与えることは困難だろうから)。
17.「生産的労働」に携わる時間の短縮と自由な時間の創出は、「われわれの闘いとるべき世界」の中心に据えるべき目標である。時間こそ「もっとも尊い文化の原料」(トロツキー)である。自由時間の拡大こそが消費の抜本的な削減の前提条件である。しかし、いくら「時短」になるとはいえ、人が行うからこそ意味をもつ労働を、AIとロボットを導入して代替えすることがあってはならない。「自動運転」は不要である。地域物流や移動サービスは、医療や介護、育児や教育とともに、地域共同体を再建し、人と人の絆を再組織する新たな社会の展望に不可欠である。
生産工程そのものからは「働き甲斐」を感じられない労働が、不可避的に部分的に残されるが、それはごく短時間ずつ交代で担われることになるだろう。しかしそれは、近隣の、あるいは世界中の人々と、労働を通じて繋がっていると実感できるように配慮される必要がある。
18.「気候危機」は、原発推進派や自動車産業や家電メーカーにとっての「福音」となった。IPCC報告の「政策立案者向け要約」の作成には政治家や企業の代表が関与し、COPの会議には企業が群がっている。様々なメディアで、山火事や干ばつ、台風や洪水が発生するたびに、温暖化が唯一の原因であるかのように毎日のように報道され、「気候危機」はほぼ完全に「時代のイデオロギー」になってしまった。「エコロジー」や「脱炭素」や「持続可能性」は、投資の優良銘柄になった。メガソーラーや巨大な洋上風力発電、小型原子炉、核融合、電気自動車、自動運転車や空飛ぶ自動車、リニア、スマートシティ、ロボットとAI・・・。「グリーンニューディール」という新たな「成長政策」が打ち出されてきた。
しかし近年、資本とその政府は、莫大な電力を使用するAI向けデータセンターの建設をすすめ、利潤を確保できない巨大洋上風力発電からは撤退している。電気自動車を売りたいときは脱炭素に「熱心」だったが、過当競争で利益率は低下している。AIのためには「持続可能性」などと言っていられない。資本が目指すのはいつも変わらず利潤であり、脱炭素ではない。
19.気候正義を求める社会的な運動は、「地球温暖化によって自然災害が激甚化し、グローバル・サウスの貧困層が深刻な被害を被っている」と主張する。この主張は正しい。しかし、気候危機は本質的問題の隠蔽に利用されている。「自然災害」の多くは「人災」であることをまず押さえておく必要がある。世界の「自然災害」は右肩上がりで増えているが、その中で一番増えているのは「内水型」の洪水である。河口にある三角州を埋め立てて工業団地や労働者用の住宅地を造成した。そのような地域は地盤が沈下していく。排水が困難になり、洪水が起きてしまう。CO2の排出を削減しても、洪水対策にはならない。
気候危機を口実にした資本の攻撃(原発と電気自動車のためのキャンペーン)と、本当に必要な政策とを明確に区別しなければならない。
20.被害を受けないようにする都市計画(メガロポリスの分散化を中心にして)こそ必要なのである。それは、自動車に依存する交通・移動の体系を再編し、コンクリートとアスファルトに覆われた都市を「水と緑の街」に変える。東京都のホームページによると、東京都の平均気温は100年間で3℃上がった(八丈島や稚内は1℃程度)。東京の平均気温上昇は、世界平均の1℃程度を2℃上回っている。「猛暑」の主たる原因は「ヒートアイランド現象」である。
都市計画は、周期的に、しかし前触れなく突然発生する大地震と津波への対策でもある。沿岸部低地からの大移住、住宅の建築基準(耐震基準)の厳格化(地震は住宅を凶器に変え、避難路の障害物にする)、緑地の大幅拡大、高層化制限、上下水道と電力供給の耐震化等々、都市構造を抜本的に変革する長期計画が、住民の協議に基づいて策定されねばならない。最悪の取り返しのつかない災害リスクである原発は、ただちに廃止しなければならない。老朽化したインフラ(道路、橋梁、鉄道、上下水道、送電網等々)の再構築は喫緊の課題である。
残念ながら、核廃棄物の処理のために、返済に数万年必要な負債が未来の世代に残されてしまった。未来の世代は、核廃棄物の管理を含めて、地球環境の修復と再生のために貴重な労働力を投入し続けねばならない。
21.科学と技術開発の方向性、その生産への応用は、資本主義社会の中で「中立的」なものではあり得ない。人間は、自然に手を加え制御し利用しなければ生きていけない。しかし、地球と生命の45億年の進化の結果として、現在の地球の物理的・化学的環境と多様な生物が構成する生態系がある。物質と生命の核心部分である原子核と遺伝子に手を加えることは、「自然」を「支配」し、「意のままに操ろう」とすることであり、「生物多様性」を破壊することと同様に、「許容限度」を超えている。
生き延びすぎた資本主義は、超えてはならない一線をすでに超えてしまった。技術開発の「倫理的な基準」として、物質の原子核と生物の遺伝子に人間の手を加えるあらゆる技術(原子力工学と遺伝子工学)とその開発に反対することを明確にすべきである。
22.すでに農業・畜産・養殖と加工食品の分野では「遺伝子組み換え作物」が普及している。安全性を顧みることなく、壮大な「実験」が行われている。数世代先に表面化するかもしれない影響について、誰が予測できるのか。ゲノム編集技術を使って人の受精卵や精子、卵子などの遺伝子を狙い通りに改変する研究開発も進められている。ゲノム編集は「クリスパー・キャス9」という簡単で効率的な手法が登場して利用が急速に広がった。ゲノム編集で受精卵を改変し、望み通りの特徴を持つ子ども「デザイナーベビー」を誕生させようという危険な研究も「実用化」の一歩手前まで来ている。癌をはじめとする「難病」の治療にもゲノム編集が利用されている。安全性が確保されているとは言い難い。
23.「脱成長」という言葉の提唱者でもあるセルジュ・ラトゥーシュは、「癌は、我々の社会が作り出した病気であり、それは大部分において我々の環境汚染によって誘引されてきたことがわかった。・・・癌の原因の80~90%は環境破壊によるものである」(「脱成長」白水社2020)と記している。多くの「現代病」や「難病」の原因は、過酷な労働と生活習慣や、農薬と添加物による食品汚染、放射性物質や化学物質による環境汚染なのである。資本は、人体を破壊するものを作り出し消費させ、その治療のためと称して「最先端医療」を消費させている。それは資本に莫大な利潤をもたらしている。
最優先されるべきは、労働環境、安全な食の確保、上下水道、清潔なトイレ、快適な住居など、万人の健康のための環境と保健衛生の普及、つまり「一次医療」であり、「最先端医療」ではない。
24.難病の治療のために、核分裂や遺伝子工学を利用することを許容すべきだろうか。人々は、テクノロジーの力が、いつの日か難病を克服すると期待している。しかし、別の方法で治療することを追求すべきだったのではないか。「最先端医療」は、目の前の人命を救うために現に一定の貢献をしているのかもしれない(それを享受しうる富裕層にとって)。けれども、資本の利潤を目的とした「最先端医療技術」の開発ではない「別の道」があったのではないか。
物質の「原子核」と生命の「遺伝子」に、人間が「手を加える」ことの是非について、オープンで民主的な議論が行われる必要がある。その議論の中で、「原子力工学」や「遺伝子工学」は、「人間は自然を征服し支配し改変する」と考える近代思想とともに完全に葬り去られるだろう。「テクノロジー信仰」、それは資本のイデオロギーである。「かつて彼らは奇跡(呪文や祈祷)を信じていた。今日彼らは科学を信じている」(ラトーシュ 同上)。
25.朝日新聞(10月2日)によると、AI(人工知能)を使って設計したウイルスによって、世界で初めて細菌を殺すことができたと、米スタンフォード大などのチームが発表した。背筋が寒くなる話である。AIは遺伝子操作や新薬開発などにも利用されているが、この報道によれば、AIを使って新たなウイルス ― かつて地球上に存在したことのない ― を作り出したのである。意のままにウイルスを作り出せるのなら、生物兵器を持ちたいと思う連中が、その技術に注目するのは目に見えている。
仮に何らかの幸運で兵器に利用されなかったとしても、難病の治療に役立つとして開発をすすめ、実際に使われるようになった社会は、どんな社会体制であれ(社会主義社会であっても)例外なく、極めて厳格な管理を求められるであろうし、ウイルスが管理区域の外部に漏出したとしたら・・・その影響を想像することは不可能である。
26. AIは必要だろうか。断言できることは、それがなくても脱成長とエコロジーは可能だということである。しかし、世界的な生産の計画化とグローバル・サプライチェーンの組織化にとって、それは革命的に有用なものではないだろうか。もう一度しかし、最終的な意思決定・判断は、絶対的に人民大衆の民主的議論と総意に依存しなければならない。それは人間労働の裁量権を握ってはならないし、人間の知的能力を退化させるものであってはならない。新しい社会は、コンピューターとインターネットを駆使するだろうが、AIを必要とはしないだろうし、むしろ害悪と考えるだろう。
27.先進諸国の消費を抜本的に減少させ、グローバル・サウスの工業化と産業の再構成を進めながら、世界的な規模で、CO2排出を減らし、生態系を回復することは可能である。少なくとも「まだ間に合う」と言いうるのではないか。その「出発点」は資本の経済権力の奪取である。
「生産手段と生産条件、つまり従来は資本に集中されていた、過去の対象化された労働を直ちに社会化すること。資本家の財産没収はこの富全体から直ちに価値形態を剥奪し、これを使用価値に還元する。したがって資本家の財産没収は商品生産および貨幣 ― これは生産者が自分で生産したものから疎外されていることを集中的に表現している ― を廃棄することと同義である」(ルドルフ・バーロ 「社会主義の新たな展望」岩波1980)。
貨幣によって覆い隠された「価値」の実体が、しだいに社会の表面に浮かび上がる。それは、人間の社会的関係であり、有用な使用価値(富)を生産する人間労働の世界的なネットワークなのである。人間はこのネットワークを地球の生態系に溶け込むものとして再組織しなければならない。
脱成長とエコロジーは、資本主義・帝国主義の支配からの解放を前提にする。脱成長とエコロジーは、われわれが目指す「新しい社会」の中心的理念となるものであり、現代資本主義社会を革命的に批判し乗り越えようとする思想的・運動的努力の不可欠の一部である。
28.資本の収奪だけが、脱成長の可能性を切り開く。「何を、どうやって、どれだけ」生産するのか。残念ながら、その決定権を奪い取ることができる唯一の「歴史的主体」は、ジェンダー、民族、人種、宗教などによる差別で分断され、労働力の再編成の中でアトム化され、お互いに反目し合い、自己責任の呪縛に捕らえられている。
しかし、この階級の集団的力によってしかエコロジーの目標に到達することはできない。地域的なエコロジーや協同組合、連帯経済、差別と闘う様々な社会的運動は、「歴史的主体」の闘いと結合する道を探らねばならない。「生活苦」に喘ぐ下層労働者の組織化への道を捜さねばならない。
労働者階級は、労働の現場だけで搾取されているのではない。労働者階級は、インフレ政策によって、増税によって、ローン金利の引き上げによって、家賃の引き上げによって、社会的サービス(年金・医療・介護)の劣化と高負担によって、耐久性のない「耐久消費財」の購入によって、農薬と添加物にまみれた食品の購入によって、家事・ケア労働を女性の私的労働とすることによって、エッセンシャルワーカーに低賃金を強制することによって、人間を破壊する学校教育によって、画一化された商業ベースの「文化」を消費させられることで、人生と生活のあらゆる場面で疎外され搾取されている。
資本の搾取と全面的に対決する社会的な労働運動と多様な社会的運動との結合・融合こそが、「歴史的主体」を階級として再組織し、被抑圧諸階層の前面に、生産を統制しうる集団的力として登場させるだろう。(おわり)
(10月11日)
THE YOUTH FRONT(青年戦線)
・購読料 1部400円+郵送料
・申込先 新時代社 東京都渋谷区初台1-50-4-103
TEL 03-3372-9401/FAX 03-3372-9402
振替口座 00290─6─64430 青年戦線代と明記してください。


