脱成長論とエコロジー社会主義の対話のために ①
「より少なく、より豊かに」は労働者階級の要求だ
生産能力に対する民主的な支配権を取り戻し、豊かな生態系を持続可能にする
ジェイソン・エドワード・ヒッケル(敬称略、以下同様)はバルセロナ自治大学環境科学技術研究所の教授、人類学者(1982年生、英国在住)。2020年刊行の著書『Less is More: How Degrowth Will Save the World(より少なく、より豊かに:脱成長はどのようにして世界を救うのか)』で注目されてきた。同書の日本語版は野中香方子訳『資本主義の次に来る世界』(東洋経済新報社)。同じ時期に日本でも斎藤幸平が「脱成長コミュニズム」を提唱し、新しい世代を中心に広範な関心と共感を集めてきた。以下は『Break Down』(*詳細は別掲)に掲載されているヒッケルとアンドリュー・アハーン(文筆家、エコ社会主義の活動家)との対談。原題は「Degrowth Is A Gateway Into Socialist Thought For The 21st Century (脱成長は21世紀の社会主義思想への入口だ)」。「かけはし」紙では第四インターナショナルの各国支部とも連携しながら、エコロジー社会主義を左翼および階級的労働運動の再生の一つの方向性として提起している。ヒッケルとアハーンの対談はエコロジー社会主義をめぐるヨーロッパにおける現在の議論の状況を知る上で興味深い内容である(訳者)
資本主義の擁護者が脱成長論を嫌悪する本当の理由
アハーン:あなたの著書『Less is More』が刊行されてから五年が経ちました。その間に脱成長論が気候変動や生態系危機をめぐるメインストリームの議論で取り上げられるようになり、この本がそれに大きく寄与しました。この五年間を振り返って、脱成長の思想がどのように受け止められてきたかについて、良い面も悪い面も含めて、どのような印象をお持ちですか?『Less is More』がこれほど国際的な議論を巻き起こすと予想していましたか?
ヒッケル:荒波の中の航海のようでした。非常に興味深い展開でした。ここ数年で脱成長は環境科学の中で非常に体系的な議論になってきました。私が本書を執筆して以降、脱成長の枠組みを採用し、それによって補強された科学的研究が驚くほど増え、実証的根拠はかつてないほど強力となり、エビデンスの基盤は大きく拡大しました。脱成長は気候活動家や社会主義左派の間でも広く受け入れられています――この言葉が活動家たちの大衆向け宣伝では採用されていないとしても、この概念は彼ら・彼女らの分析枠組みの一部となっています。しかしそれは『Less is More』だけの貢献ではなく、多くの人が脱成長の思想をメインストリームの議論に発展させるのに貢献してきました。また、過去数年間にこのテーマに関するいくつかの書籍が出版されています。
とは言え、脱成長論は反資本主義の立場であり、エコ社会主義の分析に深く根ざしています。エコ社会主義の核心は生産の管理を民主化し、人間の福利と生態系の安定を確保することを中心に据えて再編すべきだという点にあります。だから脱成長論は意識的に資本主義の側に立つ人たちの怒りを買ってきました。そのような人たちは脱成長論がメインストリームの議論に割り込んできた社会主義思想だと認識しているので脱成長論を攻撃の標的にします。時には激しい論争になります。
脱成長は21世紀における社会主義思想への入り口
私はこの人たちの見立ては正しいと思います。広い意味で気候変動運動に関わっている人々にとって、脱成長の主張は非常に説得力があります。「どうすれば無駄で破壊的な生産を本気で減らし、代わりにすべての人の福利の確保を中心に経済を再編できるだろうか」と考え始めた時点で、あなたはすでに社会主義的思想と政策の領域に足を踏み入れているのです。脱成長は21世紀における社会主義思想への入り口です。
これは重要な点です。多くの人は「脱成長という言葉がネガティブに聞こえるから攻撃される」あるいは「もっと良い表現が必要だ」等の認識に囚われています。そうではなくて、脱成長論が攻撃されるのは、それが生産手段に対する資本主義的支配の克服を求めているからです。
アハーン そのこともふまえながら尋ねますが、脱成長論の利点と欠点について多くの文章が書かれ、無数のパネルディスカッションや論争が行われてきました。これまでの論争の中で最も実りある議論はどういうものでしたか? 現実に差し迫っている問題にフォーカスするために、克服したい点はありますか?
ヒッケル: 紛糾している問題の99%は、三つのありがちな誤解を修正することで解決できると感じています。
一つは、脱成長論が豊かな経済圏、特に生態系の危機の進行に圧倒的な責任を負うその支配階級を標的としていることについての誤解です。脱成長論は発展途上国を標的とするのではなく、発展そのものに反対する立場でもありません。二つめは、脱成長論があらゆる形態の生産を削減するのではなく、破壊的で不必要な形態の生産を削減することを目指していることについての誤解です。三つめに、脱成長論の目的が生産を社会的・生態学的に有益な活動へ転換することによって人間の福利を向上させ、社会的進歩を加速することであるという点についての誤解です。これらはすべて、文献をざっと読むだけで理解できることですが、脱成長論をあからさまに批判する人たちの多くは、実際にはそれらを読んでおらず、その場の空気に反応しているだけです。これは有益ではありません。
しかし、いくつかの議論は非常に創造的でした。社会主義的左派の人々は、脱成長論が初期の形成段階ではいくつかの欠点があったことを指摘しました。労働者階級の運動を重要な変革主体として位置づけていなかったこと。脱成長を達成しながら同時にすべての人の福利を向上させるための説得力ある政策を提示していなかったこと。世界経済の中での不平等な交換と帝国主義的力学をいかに克服するかについて、十分に理論化していなかったことなどです。しかしこのような問題は現在、徐々に取り上げられるようになり、大きな前進がありました。まだ一層の議論が必要ですが。
「北」の高水準の生産・消費は「南」からの収奪に依存している
アハーン:私の意見として、脱成長論に対するもっと適切な批判の一つは、権力を確立できる可能性の欠如に関すること。どのような政治的主体が脱成長の政策に責任を負い、実行できるかが明確でないことを含めてです。脱成長の思想が権力をめざす組織や制度に取り入れられている例がありますか?脱成長論が実際にそのビジョンを実現できる主体に影響を与えているという兆候はどこに見られますか?
ヒッケル:これについては多くのことが言えます。まず始めに、脱成長はしばしば「運動」と呼ばれますが、これは誤りだと私は思います。脱成長論は多くの人々を確信させた一つの分析的枠組みであり、特に学者、学生、活動家の間で大きな支持を得ていますが、それは運動そのものではなく、したがって権力を獲得し政策を実施する能力は持っていません。私たちは既存の権力者たちに私たちが求める政策(破壊的な産業を縮小する方向へ信用制度を誘導すること、基本的サービスへの公共投資、雇用保障によって生産を再編し、すべての人に良い生活を保障すること)を実施するよう説得しようとするかも知れません。しかし私たちの政府は資本主義の政府であり、彼らがそのような政策を実施するつもりがないことは明らかです。とすれば、ここではそれをふまえた変革理論が求められるでしょうか?
これらの政策を実現する唯一の道は、民主主義的社会主義を目指す運動です。それこそが求められる運動です。脱成長論は社会主義的変革の一つの要素として、また、現代の状況に適合しない生産力主義的傾向を持つ社会主義思想の修正として理解されるべきです。左翼の生産力主義の問題点は、帝国主義の構造を無視し、生態学を無視していることです。その考え方は、所得水準が高い国は総生産を無限に増大させることができるし、そうするべきだという前提に立っています。しかしこれは誤りです。第一に、所得水準が高い経済圏における高水準の生産・消費はグローバル・サウスからの大規模な純収奪に依存していることは明らかです。これは社会主義と根本的に相容れないことであり、なくすべきです。第二に、所得水準が高い経済圏が十分に迅速な脱炭素化を達成するには、総エネルギー使用量を縮小する必要があり、そのためには不要な生産の形態を減らさなければなりません。これは実証的に明らかです。
生産・消費を増やさなくても社会的福利の改善は可能
脱成長に関する研究が示すところでは、私たちはエネルギーの使用量、原材料の使用量、総生産量を大幅に削減しながら社会的出力を改善することは可能です。これは強力な知見であり、社会主義のパラダイムに組み込むべきです。しかし、これは民主主義的社会主義への転換の過程で自然に起こることでもあります。労働者と地域社会が生産を管理するようになれば、そこで真っ先に行われることは有害で不必要なものの生産を減らすことでしょう。なぜなら、私たちにはまともな理由もなく生態系を破壊し、グローバル・サウスの姉妹や兄弟を搾取し、自分たちの労働時間を浪費するようなことを自発的に行うはずがないからです。ほとんどの場合、人々はそのようなやり方を拒否するでしょう。これは民主的意思決定に関するいくつかの実証研究でも示されています。したがって、脱成長は社会主義的な移行の結果として実現するものだと私は考えます。私たちが実現のために力を集中するべき目標は社会主義的変革です。このアプローチの戦略的利点は、敵/味方の境界線を明確にすることです。社会主義を目標とすれば、私たちは階級闘争の領域に立っています。そこが私たちの立っているべき場所です。
(つづく)
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