選択的夫婦別姓制度の実現を

「選択的夫婦別姓は、なぜ実現しないのか? 日本のジェンダー平等と政治」(ジェンダー法政政策研究所/花伝社)
/「選択的夫婦別姓 これからの結婚のために考える、名前の問題」(岩波ブックレット)を読む

 経団連は、6月に「選択的夫婦別姓制度の早期実現を求める提言」を公表。この提言を契機に、自民党内で選択的夫婦別姓を含む「氏制度のあり方に関するワーキングチーム」で議論に着手することを表明した。自民内の推進派の「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」(会長・浜田靖一衆院議員)は、「時代の要請として受け止めていく」(産経6・26)として論議を活性化させている。慎重派の「婚姻前の氏の通称使用拡大・周知を促進する議員連盟」(会長・中曽根弘文参議院議員)は、「拙速に議論を進めれば『岩盤保守層』のさらなる離反を招きかねない」と述べブレーキをかけていくことを強調した(同紙6・26)。このように推進派と慎重派の対立が先鋭化し、実質的に法案具体化はデッドロック状態が続いている。
 選択的夫婦別姓制度は、1996年の法制審議会で導入を認める答申以降、約30年止まったままだ。なぜならば最大の抵抗勢力である自民党慎重派、自民党を支える宗教右派の存在があるからだ。大枠は天皇制家父長制維持を基本柱とする日本会議、神道政治連盟があり、旧統一協会が「日本の婚姻・家族制度の根幹を揺るがす制度」と規定して反対している。自民党議員は支持基盤である宗教右派からの支援を得るために選択的夫婦別姓制度導入に反対する政策協定までしている。
 「選択的夫婦別姓は、なぜ実現しないのか?」(ジェンダー法政政策研究所/花伝社)、「選択的夫婦別姓 これからの結婚のために考える、名前の問題」(岩波ブックレット)を資料にしながらチェックしておこう。

選択的夫婦別姓反対派に対する批判

 法務省法制審議会民法部会は、1996年2月に「民法の一部を改正する法律案要綱」答申の中で選択的夫婦別氏制導入を提言し、1996年、2010年に改正法案を準備した。だが政府は、「国民各層に様々な意見があること等」を理由に国会に提出しなかった。
 2018年に選択的夫婦別姓の法改正を求める当事者団体が立ち上がり、地方議会では国会審議を求める意見書が337件可決した。選択的夫婦別姓導入運動の高まりに対してバックラッシュ(ジェンダー平等教育/性教育とジェンダー平等の法律・施策が進むことに対する組織的な批判・反撃)が激しくなっていった。
 本書では「バックラッシュの特徴」について ①国民の目に触れない/議事録に残らないよう、水面下で圧力 ②表に立つ役目は女性議員ばかり ③宗教団体との強いつながり ④ファクトチェックに耐えられない情報がまかれる ⑤SNSの匿名アカウントが拡散。当事者への誹謗中傷もほぼ匿名 ⑥法務省も圧力を受け世論調査の変更を強いられた可能性が高い」と整理している。
 2021年2月に選択的夫婦別姓反対の国会議員50人連名の申し入れを開始する。さらに宗教右派と一体となって選択的夫婦別姓反対の勉強会を繰り広げる。勉強会は、①地方議会の意見書を不採択とすることを依頼 ②選択的夫婦別姓は「危険」だと周知 ③旧姓の通称使用で十分であり、それらをまとめた高市案への賛成を呼びかけた。
 そのうえで反対派の主張は、①夫婦別姓は社会の土台である家族の一体感を損ねる ②「ファミリーネーム」の廃止、「〇〇家」という意識の希薄化、伝統消滅 ③別姓推進派は戸籍を「廃止」あるいは「個籍」にする目論みが潜む ④別姓は子に悪影響などを柱にしている。あげくのはてに「選択的夫婦別姓を認めると皇室にも戸籍を持たせるような影響があるのではないか」「女系天皇が生まれてしまうのではないか」などの暴論もまじめ顔で言うしまつだ。
 「選択的夫婦別姓 これからの結婚のために考える、名前の問題」(岩波ブックレット)では、以下のように選択的夫婦別姓反対派の主張に対して具体的に批判している。
 ①「戸籍制度が崩壊する?」─「氏を維持するために事実婚を選択する夫婦がいる。夫婦親子が一つの戸籍に編製されません。国や自治体からしてみれば、戸籍によって夫婦関係や親子関係の実態を把握することができない。日本国民の身分関係を登録・考証するという戸籍の機能は、夫婦同姓制度によってむしろ低下してしまっている」。
 ②「子どもの氏の取り扱い」─「法制審議会が1996年2月に選択的夫婦別姓制度を答申した際は、婚姻届を提出する際に、夫婦の間に生まれた子どもの氏を定めておき、必要に応じて家庭裁判所の許可を得て氏を変更するという方法が採用されています」。
 ③「子どもがかわいそう?」─「日本でも事実婚、再婚後の夫婦、国際結婚した夫婦等、氏の異なる夫婦の下で育てられている子どもは沢山います。この子どもたちは果たして、氏の異なる夫婦の下で育てられているから『かわいそう』な子どもなのでしょうか」。
 「渡邊恵理子最高裁判事は、夫婦同姓制度に関する裁判の中で『親と氏を異にする場合に子が受けるおそれがある不利益は、氏を異にすることに直接起因するというよりは、家族は同氏でなければならないという価値観やこれを前提とする社会慣行等に起因するもののようにも思われる』」。
 ④「選択的夫婦別姓制度が目指すもの」─「いざ選択的夫婦別姓制度が導入されても、実際に別姓にする人は多数ではないかもしれません。……選択的夫婦別姓制度の実現を目指すことは、同一の氏にすることに積極的な意義を見出す人たちの考えを否定することでは決してありません。……真摯に婚姻を望んでいるにもかかわらず、夫婦同姓制度の下で、婚姻か氏かの選択を迫られて自律的な自己決定ができないカップルが、何ら障害なく婚姻という選択をできるようにすること、婚姻(法律婚)のためにやむを得ず氏を変更して苦しむ人を作り出さないにすることです」。

最高裁判断に対する批判

 夫婦同氏制に対して最高裁大法廷は、2015年12月と2021年6月23日に事実婚カップルが同じ名字(姓)でないと婚姻届を受理しないという法律の規定(民法及び戸籍法)が憲法24条( 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。 2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない)などに違反しているという訴えに対して合憲判断を出している。
 原告・弁護団は、①氏名権が侵害されている ②婚姻の自由が侵害されている ③夫婦の片方だけが不利益を負う ④女性への差別である ⑤個人の尊厳と両性の本質的平等が侵害されている ⑥別姓を希望する人に対する差別である ⑦女性差別撤廃条約に違反する─について主張した。
 「選択的夫婦別姓」(岩波ブックレット)の執筆者である寺原真希子弁護士は、「今後の展望」について①「結婚」とは「姓」の二者択一を迫るという構造自体が、夫婦となろうとする人たちの自律的な意思決定を妨げていること ②二者択一を迫られた結果、実際に結婚をすることができず、あるいは、改姓を余儀なくされる人たちが生じていること ③夫婦の片方だけが改姓するという偏った構造が、夫婦が同等の権利を享受できない状況を作り出し、実際には女性に負担を集中させ、社会における差別意識を助長・再生産している、と主張し、「国内世論の賛成者の割合も高まっています。最高裁が夫婦同姓制度を憲法違反と判断するために必要な『事情の変化』は、すでに十分に生じています」と強くアピールしている。

選択的夫婦別姓法の制定を
 
 24年衆院選後、毎日新聞は選択的夫婦別姓制度に関するアンケートを自民党衆院選全候補者に対して行い、反対32%、賛成30%という結果となり賛否が拮抗状態がつづいていることが明らかになった。
 石破茂首相は、日本記者クラブ主催の討論会(10月12日)で、選択的夫婦別姓制度の導入について「反対を押し切って結論を得ることはしない」、「国民各層の意見や国会における議論の動向等を踏まえ、更なる検討をする必要がある」と述べ、従来の政府見解を再確認した。石破首相は、「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」に参加しているにもかかわらず、慎重派とのバランスを優先しブレーキをかける役割をになっている。自民党の選択的夫婦別姓制度導入に対する結論は流動的であるが、このテーマはひとつの党内分裂の要因であることは確かだ。24衆院選後、自民党一強支配が瓦解した局面において自民党反対派への圧力を強め、孤立化させながら選択的夫婦別姓制度導入が実現できる可能性が増している。
 衆院は11月8日、与野党の代表者による各派協議会を開き、野党が17常任委員会、7特別委員会、3審査会のうち12の委員長・会長職を配分した。選択的夫婦別姓制度導入に向けた法案審議は、衆議院法務委員会で行うことになる。委員長は立憲民主党の西村智奈美前代表代行が起用されることになった。法案審議が加速化するかもしれない。法案成立に向けて運動を拡大させていこう。
     (遠山裕樹)

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