アジアにおけるイランの衝撃波
重大な国際的転換点
民衆間連帯のコンパスの堅持を
ピエール・ルッセ
数多くの激変が始まっている
アメリカによる対イラン戦争は、だらだらと長引いた結果、地域によって影響の度合いが異なるものの、真の国際的な転換点となりつつあるようだ。その影響はアジアにおいて重大なものになると予想される。もちろん、5月14日~15日に北京で行われた習近平・トランプ首脳会談が示すように、地政学的な側面においてそれは顕著である。しかし、イラン戦争は多くの国々において社会危機を悪化させ、地球規模の気候変動とエコロジー危機を加速させるだろう。これは数多くの激変の始まりであり、その激変の全面的な評価は後にならないと定まらないだろう。
ドナルド・トランプは、イランとの決着をつけ、有利な立場で北京に到着する時間稼ぎのため、(習近平の強い不満をよそに)北京訪問を延期した。しかし、正反対のことが起こった。トランプは、自分だけに責任があるこの窮地から抜け出そうとして、イランの同盟国である中国に助けを乞うために北京を訪れたのだった。
現状において、北京とワシントンは、世界の石油・天然ガスの5分の1が通過するホルムズ海峡の再開をはじめとして、共通の目標を共有している。中国は現在、石油の約40%を中東から輸入しており、製油所の多くはイラン産原油を処理するように作られている。さらに、中国政府はイランを支援しているとはいえ、きわめて排他的な核保有国クラブに新たな国が加わることを望んでいない。テヘランはこのことを理解していないように思える。核兵器を保有すること(あるいは保有するという脅しをかけること)は、確かに安全保障と影響力の保証となるように見えるが、大国は自国の利益が危うくなる場合にのみ、新たな核保有国の出現を容認してきた(たとえば、北京の視点から見れば、北朝鮮は韓国および米軍基地と自国の国境との間の緩衝国である)。
しかし習近平は、トランプが国内政治上の理由(11月に中間選挙が控えている)で圧力を受けていることを認識しており、この交渉の行方は習近平の手に委ねられている。つまり、トランプは台湾支援に関して大きな譲歩を迫られているのだ。今のところ、習近平はイランへの介入について何ら確約をしていないようだ(そもそもテヘランの政策を変えられるかどうかは定かではないが)。
台湾にとって危険な不確実性
習近平は、トランプの到着翌日である5月14日に、台湾問題は「米中関係において最も重要な問題」であると語り、彼の警告を詳細に述べた。つまり、「両国関係は」適切に扱われれば、「全体として安定を保つことができる」が、そうならなければ、両国は「衝突したり、紛争にさえ発展したりするだろう」というのである。この問題は通常公の場で取り上げられることがないため、トランプはびっくりしたようで、記者からの質問をかわした。
習近平は非常に具体的な要求として、アメリカが「アメリカは台湾の独立を支持しない」という公式見解を「台湾の独立に反対する」に改め、台湾への武器供与を停止するよう求めている。
2025年末までに110億ドル相当のアメリカ製兵器を供与するという合意を発表した後、アメリカ政権はおよそ140億ドル規模の新たな武器供与計画を検討している。これは、アメリカが1979年の台湾関係法で台湾の自衛に必要な軍事装備の供与を約束して以来、過去最高額のものである。この法律は、同年、ワシントンと北京が国交を樹立し、同時にアメリカが台北との外交関係を断絶したことを受けて、アメリカ議会によって可決された。それ以来、アメリカは台湾に軍事援助を提供するほぼ唯一の国であり続けている。したがって、中国の要求に応えるためには、アメリカ議会はこの条約を破棄する必要があるだろう。
中国共産党は、無差別な軍事侵攻を試みるよりも、台湾に対する厳しい経済封鎖を課すことを望んでいる。台湾侵攻は容易なことではないだろうからである。習近平は、北京による支配を確固たるものにするため、実業家、マフィア、政治家といった「第五列」[注:内部にあって,外部の敵勢力に呼応して,その方針のもとに活動しているグループのこと]となる者たちに大きな約束をしている。しかし、彼がこれまで平然と味方を粛清してきたことを考えると、そういった人物は用心しておくべきだろう。中国共産党はまた、台湾海峡の両岸で多くの愉快なショーを演じながら、ソフトパワーをもてあそんでいる。
台湾(中華民国)は非常に特殊な歴史を持つ。北京は台湾の内部矛盾を利用している。反革命政党である国民党は、1949年に中国本土で敗北した後、台湾に侵攻し、独裁政権を敷いた。[1987年の戒厳令解除、1996年の総統選挙実施、2000年の民進党政権の成立などを経て]2014年にはひまわり運動が起き、さらなる民主主義体制の確立へと導いていった。それにもかかわらず、国民党は依然として縁故主義と腐敗によって社会基盤と政治的影響力を維持している。そして現在、国民党の指導者たちは中国との関係をめぐって分裂している。
しかし、(ブルジョア的で不完全な)民主主義を享受している台湾の人々が、不透明で超権威主義的な体制に賛成して、自ら進んで民主主義を放棄するという理由は理解し難い。台湾には、外部からの脅威を受けることなく自己決定権を行使する権利がある。
台湾は事実上の独立国だが、公式には独立を宣言していない。地域全体がバランスを保っているのは、この戦略的なあいまいさのおかげである。習近平は再びそのことを疑問視しており、ドナルド・トランプも彼の圧力を考慮しているようである。北京を離れる直前、トランプはFOXニュースを通じ、台湾に対して、遠く離れたところでの戦争という犠牲を払ってまで独立宣言に賛成することはしないとの警告を発した。「私は(台湾に)緊張を緩和してほしい。中国にも緊張を緩和してほしい」。この発言が懸念されるとすれば、それは独立宣言が議題には全く含まれていなかったからである。
トランプはこのようにして、台湾当局に反応を迫った。[台湾]外相はその発言に留意すると述べる一方、今回の武器売却は、台湾関係法によって保証された台湾の安全保障に対するアメリカの関与であり、この地域では一般的な抑止形態であると指摘した。民主進歩党(民進党)と頼清徳総統が率いる台湾政府は5月16日、「台湾は民主的で主権を有する独立した国家であり、中華人民共和国に従属するものではない」と述べて、宣言はしていないものの事実上の独立という伝統的な立場を再確認した。
東アジアの戦略的バランス
したがって、ドナルド・トランプは、台湾問題というまさにパンドラの箱を再び開ける手助けをしている。つまり、東アジアにおける地政学的な力の均衡と海洋支配が危機にさらされているのだ。台湾は太平洋の第一列島線の中央に位置している。中国が台湾を支配下に置くことになれば、台湾は商業的にきわめて重要な国際航路(最も交通量の多い航路の一つ)を支配するための重要な拠点となるだろう。台湾は(海底を含めて)豊富な資源に恵まれており、中国は国際法に反して(少なくとも南シナ海については)その主権を主張している(中国は南シナ海を過度に軍事化し、他の沿岸諸国の海洋上の国境を認めていない)。
したがって、日本、韓国からベトナム、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、フィリピンに至るまで、この地域全体がこの問題に関心を寄せている。台湾が征服されれば、ユーラシア大陸の地政学的な重要性を考えると、その「余震」は中央アジア、北極圏、ロシア、ヨーロッパにまで影響を及ぼす、まさに大地震となるだろう。
ドナルド・トランプの気まぐれな行動と同盟国の利益を軽視する姿勢は、既にその影響を及ぼしつつある。たとえば、日本の高市早苗首相は、日本が軍事大国としての地位を確立するために、真の戦略的転換を開始した。アメリカは1947年に日本に(第9条を含む)平和憲法を押し付け、国民は概ねこれを受け入れた。この戦争放棄の見返りが、脅威が生じた場合のアメリカによる保護の保証であったことは言うまでもない。しかし、この代償はもはや自明のことではないように思えるため、東京は軍国主義的計画の加速を正当化することができている。その一方で、いわゆる自衛隊は既に(核兵器を持たない)通常戦力の頂点に君臨しており、事実上、憲法の実質を空洞化させている。
1976年、三木武夫首相の下で、武器売却は禁止された。2014年になって、安倍晋三首相はこの禁輸政策に初めて「綻び」を生じさせた[注:それまでの「武器輸出三原則」に代わって「防衛装備移転三原則」を決定し、一定の条件を設けたうえで日本の安保に資する輸出を認めるようにした]。4月21日、それまで表明されていた日本の外交政策の原則はすべて破棄された[注:従来の「5類型」の撤廃]。日本は現在、防衛協定を結んでいる17カ国に対し、「殺傷兵器」を含む武器を輸出できるようになった。1945年以降で最大規模の軍事輸出契約の一つがオーストラリアとの間で締結された。三菱重工業製のもがみ型フリゲート艦(多機能で、少人数で運用可能な高性能フリゲート艦)である。同様に、1400人の自衛隊員がアメリカなどの6カ国[注:フィリピン、アメリカ、オーストラリア、カナダ、フランス、ニュージーランド]とともに、フィリピンで実施されたバリカタン(タガログ語で「肩を並べて」の意)演習に本格的に参加している(中国は自らこの海域に入り込み、自前の対抗演習もおこなっている)。
ドナルド・トランプは一体何を望んでいるのだろうか? もしトランプが何らかの形で北京による台湾征服を認めれば、アジアにおけるアメリカの信頼は崩壊し、その空白を中国が埋めてしまうだろう。トランプは「9500マイルも離れた場所で」戦争をしたくないと宣言した。問題は、アメリカ最大の海外軍事基地がまさにこの地域、つまり韓国と日本(とりわけ沖縄)に位置していることである。つまり最前線ということだ。彼は勢力圏についての交渉、つまり東アジアの南部は中国に、北部はアメリカの勢力下に置くという交渉をしたいのだろうか? 信じがたいことである。イランで自ら招いた混乱を考えると、単に時間を稼ごうとしているだけかもしれない。彼は自らの軍事的手段を乱用し、艦隊の一部が任務から外れてしまうというリスクを冒している。たとえば、空母の改装には長い時間がかかる。習近平はこのことをよく知っている。しかし、中国軍は現在、作戦行動ができない状態にある。あらゆる部門で、幹部が相次ぐ粛清の犠牲になっている。習近平の疑心暗鬼が大混乱を引き起こしている。彼にも時間が必要なのだ。
人間の理解や情報には限界がある以上、勝手に憶測してもほとんど何も生まれない。しかし、私たちは今、危険な不確実性の時代を生きている。軍国主義と大国間対立に直面する中で、地域的にも国際的にも、人民と人民とを結ぶ連帯こそが私たちの政治的コンパスであり続ける。自己決定権(台湾を含む)のために、非武装化(特に海洋空間)のために、そして海と大洋が国境から解放され、再び人類共通の財産となるために。
米中二国による独占へ?
しかしながら、確かなことは、私たちが(一時的に?)米中二国間による世界的な寡占体制(必然的に非常に対立的なものとなる)へと向かっており、短期的には大国間の軍事衝突には向かっていないということだ。これは、私が長らく支持されてきた仮説だと考えていたものだ。今日、中国はこのアジアにおける二国間寡占体制において影響力を強めているが、過去も現在も中国が支援してきたベネズエラやキューバに対して、トランプがベネズエラ政権の一派を「取り込み」、キューバを脅迫したときに、中国が何もできなかったことを忘れてはならない。
北京は、経済と軍事という二重の機能を持っている港湾を購入する政策のおかげで、世界的な軍事プレゼンスを確実に強化している。この目的のために多額の資金が投入されている。2000年から2025年の間に、中国は全大陸90カ国で168の港湾を取得した。さらに、海外に設立された中国企業においては、(表向きには示さないものの)軍が「安全保障」を担っている。中国は海軍基地の整備を進めている。2025年11月に就役した3隻目の空母「福建」は、電磁カタパルトシステムを搭載しており、近代化における大きな一歩を記している。しかしながら、中国軍は現代戦の実戦において、(兵器の信頼性、指揮系統の能力、諸兵科連合の連携など)その実力を試されたことは一度もない。その配備は主にアジア太平洋地域に集中している。
インド太平洋地域は大きな戦略的重要性を有する地域となっている。そこにおいて(もまた)世界的な力の均衡が危機にさらされている。ジョー・バイデンはこのことを理解していた。彼が成功したことの一つは、[一期目の]ドナルド・トランプからアフガニスタンでの大失敗を引き継いだ時期に、この地域における政治・軍事的、経済的、外交的手段の展開を準備していたことだった。トランプは、政権に復帰すると、このアジア「重視」を急いで撤回した。これは彼にとって悪い結果となった。中国に、この地域における(インドとの対立の中での)自国の協力関係をさらに強化する機会を与えたからである。これにより、中国はワシントンに対する立場を強化した。地政学的な観点から見ると、東アジアの海域という範囲を超えて、この地域こそが米中対立が最も激化する場所となるだろう。
より一般的に言えば、米中二国寡占体制の機能は今後数ヶ月で試されることになるだろう。トランプと習近平は、直接会談(米中間選挙前の9月末での習近平のワシントン訪問)や、11月の中国・深圳で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、12月のアメリカ・マイアミで開催されるG20サミットといった諸会合での会談など、複数回にわたって会談する予定だからである。もし北京とワシントンが共通の利害を持つなら、彼らが主導権を握るだろう。過去もそうだったように。もう一方では、対立する領域は顕在化するはずだ。
ドナルド・トランプが勝利したと叫んだにもかかわらず、人工知能や超伝導体などの超先端技術の展開基準、レアアース、貿易赤字などに関しては、最近の首脳会談では目立った進展は見られなかったようである。関税戦争は10月までの(中国に有利な形での)休戦で合意されたが、その延長は(今のところ)発表されていない。しかし、この首脳会談の主な、もしかすると唯一の、目に見える経済的成果は、その「かろうじて続いている停戦的な貿易休戦」の継続であるかもしれない。それは、以前に、韓国・釜山でトランプが中国製品に対する3桁台の関税を一時停止し、習近平がアメリカへの重要なレアアース供給を締め付ける措置を放棄した際に合意されたものである。
米中二国による寡占支配は果たして続くのだろうか? その結果はいずれわかるだろう。アメリカは深刻な政権危機に直面している。そして、粛清、生活水準の向上を期待できなくなった国民の不満、高齢化、汚職、環境危機、増大する輸出依存などの規模の大きさを信じるならば、中国も同様の状況にあると言えるだろう。それに加えて、気候・エコロジー危機のブーメラン効果もますます顕著になっている。こうした状況は、不確実性をさらに増大させている。
重要性の低い首脳会談?
多くのアナリストは、今回の首脳会談をさほど重要視していないようだ。確かに、1972年の北京会談におけるリチャード・ニクソンと毛沢東の会談、あるいは1979年の鄧小平の訪米ほどの歴史的意義はないだろう。しかし、これは2017年以来初めての、つまり約10年ぶりの米大統領による中国訪問であり、しかも前回の訪問は第一期トランプ政権の時代だったのである。
習近平は、トランプ政権後の時代を見すえ、中国に有利な勢力均衡を構築するために、「トランプ・イラン」問題を好機ととらえているのはほぼ間違いないだろう。これは、中国帝国主義が台頭していく一歩だが、ただし金融という決して軽視できない分野だけは例外で、習近平は人民元を本当の意味で「国際通貨」にすることをあえてしていない。また同時に、中国が「西側」の覇権に対抗する、もう一つの覇権を打ち立てようとする欲求の表れでもある。
民衆階級、インフレ、環境破壊
イラン戦争によって引き起こされたインフレは、世界各地と同じようにアジアの民衆階級にも影響を与えているが、アジアにおける特徴が一つある。多くのアジア諸国では、移民からの送金が家族の生活を支えているということだ。イスラム諸国にとって、中東はこうした移民の主要な送り先となっている。国際労働機関(ILO)によると、中東地域には2400万人の移民労働者が暮らしており、世界最大の外国人労働者の送り先となっている。その多くはアジア諸国、特にバングラデシュ、インド、インドネシア、パキスタン、フィリピン(ミンダナオ島)、スリランカ出身である。これらの労働者の多くは低賃金または不安定な雇用形態で働いており、医療などのサービスへのアクセスもほとんどない状況にある。
移民の帰国は大規模に行われている。過去2ヶ月間で、フィリピン政府は中東で働いていた9500人以上の自国民の帰国を実現させた。しかし、多くの人々が依然として耐え難い状況下で足止めされている。
最後に、中東の戦争は気候危機とエコロジー危機、つまり地球規模での危機を悪化させている。まさに大惨事である。この「複合的危機」こそが、私たちが直面する最大の課題であり、過去のどの時代とも決定的に異なる点なのだ。特にアジアでは、「気候変動の犠牲者」の数が爆発的に増加している。
アジアでは、貧困と不安定な生活が拡大している。しかし、一度極度の貧困に陥ると、長期的な援助なしにはそこから抜け出せなすことができない。そして、そうした援助を国家は提供しないため、さまざまな運動が(ときには私たちの支援も得ながら)援助を確保しようと努力している。
気候・エコロジー危機の黙殺
明らかに大きな問題が存在しているのに、誰も(あるいはほとんど誰もが)そのことを口にしない。ホルムズ海峡封鎖による経済的影響についての議論は次から次へと繰り広げられているが、気候危機や生物多様性への深刻な脅威については一言も触れられていない。残念ながら、国際的な活動家メディアもこの傾向から逃れられているわけではない。この問題を完全に無視した記事もあれば、言及はするものの、この分野で実施すべきキャンペーンについて結論を出さない記事もある。奇妙な自己検閲と言えるだろう。
ヨーロッパは世界平均の2倍の速さで温暖化が進んでいるが、健康面や社会面への影響は、社会が非常に脆弱であるアジアではとりわけ深刻である。バングラデシュの多くは水没し、インドネシアの人口密集地域も同様となるだろう。空気中の湿度が極端に高くなると、たとえ「通常の」気温でも、発汗による体温調節ができなくなるため、命に関わる事態になりかねない。台風の猛威も増大している。異常な干ばつの後には大規模な洪水が発生するのだ…。
(『インターナショナル・ビューポイント』26年5月27日掲載)
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