大川原化工機えん罪事件控訴審勝訴

経済安保推進法を射程にした公安犯罪

 5月28日、東京高裁(太田晃詳裁判長)は、大川原化工機」(横浜市)が国と東京都に損害賠償を求めた国家賠償訴訟の控訴審で警視庁公安部と検察の捜査の違法性を認定し、国と東京都に1審よりも400万円増額し計1億6600万円あまりを支払うよう命じる判決を下した。
 結局、都と国は上告しない方針を固めた。警視庁は、社会的な批判が強まるやいやいやながら「当事者の皆様に多大なご心労、ご負担をおかけしたことについて深くおわびを申し上げたい」と謝罪せざるをえなかった(6月11日)。

事件の概要

【2020年3月】警視庁公安部は機械メーカー・大川原化工機の社長・幹部3人を外為法違反容疑(不正輸出)として不当逮捕。大川原化工機が生物兵器の製造に転用できる噴霧乾燥機を、ドイツ企業傘下の中国の子会社に無許可で輸出したとしてでっち上げた。
 大川原化工機幹部3人は11カ月も不当に勾留され、相嶋静夫さん(顧問)は勾留停止中の入院先で、ガンで死去している。
【2021年7月】東京地検は「兵器転用可能な技術か疑義が生じた」「起訴時点の証拠では軍事転用可能な技術と判断したが、結果的に疑義が生じ、反省すべき点があった」として起訴を取り下げた。東京地裁は8月2日に公訴棄却を決定している。
 公安部は、噴霧乾燥器の規制要件である「定置した状態で内部の滅菌又は殺菌をすることができるもの」(大川原化工機国賠訴訟弁護団)という殺菌理論を作り上げて実験を繰り返したが、結果的に「完全な殺菌はできない」ことが判明していた。地検はこれらの証拠が公判に提出されたら公判維持ができないと判断せざるをえなかった。
【2023年12月】東京地方裁判所は、大川原化工機えん罪事件国家賠償訴訟で国と都にあわせて1億6200万円余りの賠償を命じる判決を言い渡した。
 判決は、警視庁公安部に対して機械を輸出規制の対象と判断し、逮捕に踏み切ったことなどについて、「根拠に欠けていた」と指摘し、違法な取り調べがあったことも認定した。検察についても「必要な捜査を尽くすことなく起訴した」として、違法な起訴だったと判断した。
【2025年5月28日】大川原化工機えん罪事件 民事裁判 2審も都と国に賠償命じる
 東京高裁は、一審判決の「逮捕・勾留請求等に関する捜査機関の判断については、合理的な根拠が客観的に欠如していることが明らかである」と判断し、都と国の違法性を引き継いだ。
 さらに高裁は、「輸出規制に関する省令の解釈」について「輸出規制の要件についての警視庁公安部の解釈は国際的な合意と異なり、合理性を欠いていた。経済産業省の担当部署から問題点を指摘されたのに再考することなく、逮捕に踏み切った判断には基本的な問題があった」と指摘し、違法だったと認定した。
 経済産業省の省令では、噴霧乾燥機の内部を「滅菌」または「殺菌」できる能力があるものを輸出規制の対象としていた。
 だが警視庁公安部は、熱による殺菌も含まれ、省令で挙げた細菌のうち、1種類でも死滅させればよいと手前勝手に解釈した。
 2審で被告は、警視庁公安部と経済産業省との打ち合わせ内容が記された捜査メモなどを新たな証拠として提出し、「警視庁は経済産業省をだまして解釈をねじ曲げさせ、会社の捜索、差し押さえを容認する方針に転換させた」(被告)ことを立証し、認めさせた。
 さらに警視庁が強制捜査の前から温度が上がらない場所があることを認識していたことを示す当時の実験結果のメモを新たな証拠として提出し、「捜査に不利に動く実験結果を握りつぶした」ことも明らかにしていった。
 判決は、検察の捜査についても「通常要求される捜査をしていれば、輸出規制の対象に当たらない証拠を得ることができた。起訴の判断は、合理的な根拠を欠いていた」として違法だと指摘している。
 高裁は、元取締役の島田順司さんに対する逮捕前の任意の取り調べについて、公安部の警察官が犯罪の成立に関わる規制対象の解釈について誤解させたまま、取り調べを続け、「重要な弁解を封じて調書に記載せず、犯罪事実を認めるかのような供述内容に誘導した」と違法性も批判している。
 すでに一審では島田さんが供述調書の修正を求めたが、捜査員は修正したように装って弁解録取書を作成したのは、判決は「偽計を用いた取調べであるといえるから、国賠法違法である」と結論づけていた。

公安政治警察は解体しかない

 公安政治警察は、そもそも見込み捜査、えん罪でっち上げの常習犯だ。国と都は裁判で「違法な捜査はなかった」などと反論し、その延長で現職公安警察捜査員の「(事件は)ねつ造」だという証言に対して、「個人の臆測で信用性が低い」などと反論していた。高裁判決は、これらの弁明をことごとく粉砕した。
 この事件の背景には、安倍政権によるグローバル戦争国家作りのために外事警察を軸にした経済安全保障推進法(2022年5月)制定を射程にしていた。活躍する公安外事警察を押し出すために、その生贄として大川原化工機をリストアップし、不当な弾圧の一環としてでっち上げたのである。こんな悪質な犯罪を強行した公安政治警察は解体しなければならない。

「追跡 公安捜査」(毎日新聞出版)

 今後の公安政治警察による弾圧と工作をはね返すためにも大川原化工機えん罪事件の全体像を掌握することは重要だ。事件を追い続けた毎日新聞記者・遠藤浩二の「追跡 公安捜査」(毎日新聞出版)が出版されている。「第3章 なぜ事件はつくられたのか」「第4章 公安に狙い撃ちされた企業と人」「第5章 次々浮上する捜査の問題点」では詳細に事件を浮き彫りにしている。ぜひ学習することをすすめる。  (遠山裕樹)

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