池田実さん(前伝送便編集長)へのインタビュー②

郵政不祥事はなぜ起きる

全特という組織をなくすことが第一だ

  2025年6月、配達員に対する酒気帯び確認など、法令で義務付けられている点呼が適切に実施されていなかった問題が発覚。全国3188の郵便局のうち、実に75%に当たる2391局で不適切な業務が常態化していた。今年3月には、ゆうちょ銀行の顧客情報を不適切に利用していたことも発覚。1トン以上のトラックや大型バンなど約2500台の車両が5年間使用できなくなった。さらに、9月に不適切点呼問題をめぐり、約100の郵便局に対し、軽自動車の一部使用停止処分を通知した。なぜ、こんなことになってしまったのか。

5年間トラックが使えない処分

――最近、点呼問題不祥事でトラックや軽トラを停止するという処分が下されました。2007年郵政民営化以後の主な事件は2019年、かんぽ生命保険で、不適切な保険販売が発覚、顧客情報の不正利用により、業務停止処分。民間人がやめさせられた理由。「民営化によって過剰なノルマが科されたことが不正販売につながった」。その後、総務大臣を務めた官僚出身の増田寛也が社長に。その後ふたたび総務省主導になった。どうなりましたか。

 かんぽ不正事件で解雇された人が25人。やっていない、労働者も多くえん罪です。とくかく処分するということが言われていて、見せしめ処分だった。確かにそうしたことはあったかもしれないが、現在解雇処分に対して8人程が全国で裁判を起こしている。

郵政民営化のねらいは何だったのか

――話を戻しますが、そもそも郵政民営化は小泉首相によって突然やられましたが何だったのか。その前に国鉄が民営化された。あの時は労働組合運動をつぶす、その後ろにいた総評・社会党をつぶすという中曽根首相の政治的意図が明確にあった。小泉の場合の郵政民営化は何が目的だったのですか。

 郵政の場合はすでに労働組合が無力化しており、国鉄とは表面的には違うが、大きな流れとしては公共事業を民営化するという新自由主義の流れが底流にある。大義がはっきりしていたわけではない。「自民党をぶっつぶす」などとも言っていたように、変えるきっかけに郵政をやり玉にあげた。

全国特定郵便局長会とは何か

――郵政民営化によって何が変わりましたか。社長が民間から入ってきたのは分かりますが。民間の企業が全部金儲けのために、郵政事業を乗っ取っていろいろやっている。そういうことではないわけでしょ。

 民営化して18年経ちますが、今不祥事がさまざま出ていますが、これが民営化のせいという側面もあります。しかし以前からの郵政の体質、ガバナンス。企業風土、昔からの上意下達の官僚機構は民営化になっても変わらない。
 というのは、全特という全国特定郵便局長会。今は全国郵便局長会と言いますが昔から郵政の権力、まあ二重権力という言い方はどうかとは思いますが。郵政の方針を、人事も含めて、決定権を持っている。民営化以降はトップの誰を社長にするかということも含めて、全国の支社の人事を含めて介入して、カネ・財政のことも差配する、そうした独自の権力構造がいまだ続いている。
 本来は民営化すれば、そういうものをなくすと言われていた。しかし全国に2万4000局ある全国の郵便局数は18年経ってもほとんど変わっていない。非効率だとは誰でも分かるんです。
 それはなんとかしなくちゃと歴代社長が就任の会見で必ず言っているが、その半年ぐらい経つとそのことは一切口をつぐんでいる。郵便局長を減らすなという全特の力が非常に大きい。今回の参院選挙でも候補は48万票位取っている。自民党の比例で最高の票数を参院選のたびに取っている。

選挙に力を発揮する全特

――全特というのは町の中にある特定郵便局ですか。全体の郵便局の中で、それがそんなに力を持つイメージが湧かないですが。

 地域にいけば地域の票を集める力がある。それで40何万票取っている。毎日来るお客さんへの声かけ、名簿とか住民のいろんな郵便関係、ゆうパックを誰に出したか、貯金とか保険とかそういう情報を選挙の時には活用することで権力を持っていて、それに対して歴代の社長は逆らえない。そのことが背景に、あり現在に至る歪んだ郵政の体質が底流にはある。

――全特というのは明治に郵政を作っていく時に、政府に力がないから地域のボスに一部を委託してやった。

 そうです。局舎料を払って名誉職の局長の地位を与える、そういうのが発端です。それが続いている。

――世界的にはないですよね。働いている労働者の雇用契約は。

 世界にはない。日本だけです。今でも局長の自宅を・自営局舎として郵政に貸して賃貸収入を得る、そして不転勤。そういうのが全特の綱領になっている。
 この前行った北海道のある所で、局長ひとりともうひとりの局員しかいない。一日ATM誰も使わないし、窓口にお客さんがこないような日がある。局長が「ここは早くつぶしてもらわなくちゃ」みたいなことを言っているのだけど、それは全国のネットワーク維持だとかで、なくさない。そこをつぶしたら他もなくさなければいけないと。郵便局ネットワーク維持ときれいごとを言うけど、本当は局長の地位を維持するということ。

金もうけに走る郵政
 
――いわゆる郵便部門がどんどん赤字になってきて、銀行とかんぽ、海外投資とかそういう部門で儲けて、プラス黒字で維持している。ユニパーサルサービスの部門だけは公共事業として守る。それ以外の所で、カネもうけするためにいろいろやっている。郵便局の労働者の目的性とかそういう所が、郵便局全体の中で位置が低い。労働者がやる気なくしたり、目的性が崩れたり、それが今回の飲酒や点呼の問題が出ているのではないですか。

 昔は三事業一体、郵便・かんぽ・貯金ですが、民営化以降は一応独立して、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式はだいぶ売ったが国がまだ半分近く持っている。当初は2017年までに郵貯・かんぽは独立会社にすると民営化法では言っていた。それがどんどん延ばされて、努力義務のようになった。
 特定局長の力だとかがあり民営化前の昔に戻す。その方が自分たちの利益、局長の地位を守れるということで、先の国会で上程された新しい郵政民営化法改正案では郵便局のネットワークを維持するために、国から650億円支給する。後は貯金・保険の株式の売り出しは「できるだけ早期に」という前法案の箇所を削除して期限を設けない、もっと先延ばしする。実質民営化以前に戻すという新しい法案が継続審議になっている。その法案を一番推進しているのが全特で組織内議員が大票田をバックに自民党を動かしている。

郵便料金値上げとサービスの切り下げ

――ネットで経済学者が言っているのを読むと、ちゃんとした民間企業になっていないから、甘えがあってこうした不祥事が起きるのだ。民営化の問題ではなく、逆にもっと徹底的に民営化すべきだ。民営化したことにより現場がひどくなっていますか。

 ひどくなっているのは事実ですね。利潤を上げるのが最大の目的ですので。そのために、コスト最優先で、お客様サービスと人件費を削るのが目標になっている。昔は公共事業、貯金も全部含めてそういう国の福祉、あまねく公平にというのがあった。それを取っ払ったら、そういうことに走る。お客様サービスという面でも、土曜日配達もなくなったし、郵便料金も上がったし、貯金も保険も儲からないサービスは切り下げるということでコストにどんどん走る。

労働組合が役割を果たしているのか

――JR東日本の場合は、労働組合が破壊されて、多数組合がなくなってしまった。互助会のようなものが当局と交渉するという構造になっている。当局に対して、ものを言う人たちがいない。そういうことも遠因で、新幹線で滅茶苦茶事故が起きている。同じようなことが郵政JP労組があったとしても、ぜんぜん役に立たない。

 本来は今回の点呼問題にしても労働組合が日常的に点検すべきだ。全逓と全郵政が対立して、全郵政は当局べったりだった以前では全逓は職場点検、交渉を日常的にやって改善させていた。JP労組は完全に御用組合化している。例えば、飲酒問題だとか点呼しなかったとか、いろんな日常的な問題、職場のことを監視。職場の安全衛生委員会だとか交渉の場で、郵便局側にものを言う、それが機能しなくなっている。
 不祥事については組合員ではなく個人が声を上げている。実際は個人が郵政の内部通報窓口に、こういう問題があると訴えていた。
 それも上の方で無視された。そういうのがあって、伝送便は、そういうのを労働組合がどうという以前に、個人として、周りのことに目を光らせて、情報として上げて、交流する。情報交換して、それで郵便局の職場を良くする、改善するように向かえばと思って続けている。
 創刊して47年経ちますが、運動を継承する、郵政のやり方を検証することで継続してきた。書き手の問題もあるが日々起こっていることを労働ジャーナリズムとして、仕事をしながら見る。「虫の目」「鳥の目」、みたいな感じですけど。郵政の全体を見ながらも現場の目と繋げて、拡げるのをやりたいと思っている。
 今回の号の記事で、管理職の問題でいじめ、残業不払いとパワハラがあって、最終的にいじめがあり、辞めざるえなかったことで裁判を起こした大阪の管理職の人がいます。損害賠償を求めて裁判を起こし和解になったけれども、その問題について、和解条項の一つに、一般的に和解だと口外禁止条項がつくのですが。それについて、「郵政関係雑誌『伝送便』に掲載することは認める」という異例のことがあった。被告である日本郵便が解決金とともに伝送便掲載を認めた。伝送便の存在がある程度認知されたと思う。50年近く続けてきたひとつの位置、それは郵政もある程度認知したという感想を持っています。

現場の労働者の声を聞け
 
――今後の郵政に望むことは何ですか。

 幹部たちは口では風通しの良い職場と言うのだけれども、今の自民党ではないが解党的出直しというか、やっぱり現場の働く労働者の声、特に非正規の人、女性の声なんかほんとに、とり挙げられない状況は変わりません。
 管理職もコストということで、待遇はずっと低く抑えられている。身分差別と言うか格差はずっと続いている。
 そういう分断と閉塞の中でイジメやパワハラ、セクハラはひどくなっている。職場内での差別・格差をほっといていくら郵政ガバナンスを変える、風土を変えると言ってもやっぱりだめだ。今一度、上意下達の会社・組織を見直すということ。それにはまず全特という歪んだ組織、任意団体ですがそういうのをなくすことが第一だと思うんです。(つづく)

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