9.26袴田巌さんに無罪判決! 検察と警察による連携した証拠捏造を断罪

検察の控訴を許すな!

 袴田事件とは

 【静岡】1966年6月30日、静岡県清水市横砂(現静岡市清水区)のみそ製造会社の専務方から出火し、焼け跡から専務一家4人の遺体が見つかった。静岡県警清水署は同年8月18日、強盗殺人・放火容疑などで従業員の袴田巌さんを逮捕。
 袴田さんは連日12時間を超える厳しい取り調べの中で拘留期限間際に「自白」したが、同年11月の初公判で否認、以降一貫して「無実」を訴えた。
 80年12月12日に最高裁で死刑判決が確定。2008年4月に姉のひで子さんが第二次再審請求を申し立てた。静岡地裁(村山浩昭裁判長)は14年3月27日、再審開始を決定、そればかりか死刑及び拘置の即日執行停止を決定。袴田さんは47年7カ月ぶりに釈放された。一方、検察は地裁決定を不服として即時抗告。東京高裁は18年6月、死刑と拘置の執行停止は維持したものの、再審開始決定を棄却。弁護団は最高裁に特別抗告した。
 最高裁は20年12月、「著しく正義に反する」として審理不尽(審理が尽くされていない)の違法があるとし、高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻した。高裁は23年3月13日、検察の即時抗告を棄却し、捜査機関によって証拠が捏造された可能性が極めて高いとの判断を示した。検察が特別抗告を断念したため3月20日、再審が確定した。再審公判は同年10月27日に静岡地裁で始まり、本年5月22日、第15回公判で検察は死刑を求刑、弁護団は無罪を求め結審し、9月26日の判決公判をむかえた。

判決公判で「無罪判決」  

 9月26日、朝8時過ぎには静岡地裁構内は報道各社の中継車、正門前にはカメラスタッフが放列を敷く。
 全国各地からの支援者が三々五々到着しはじめ、地裁前の駿府公園入口の西門橋上では地元の支援団体が橋上での支援集会の準備に余念がない。
 午前9時には一般傍聴席40席を求めて傍聴希望者が502人並び、24分から整理券配布が始まった。9時45分、西門橋を渡った駿府公園内で抽選結果が発表される。10時、西門橋上では「袴田巌さんの再審無罪を求める実行委員会」の集会が始まった。
 実行委員会を構成する日本プロボクシング協会袴田巌支援委員会のみなさん、国民救援会の各県組織をはじめ各団体が袴田さんの無罪を強く訴える。再審無罪を勝ちとった足利事件の菅谷利和さん、大阪東住吉事件の青木恵子さん、滋賀県湖東記念病院患者殺害事件で服役後、再審無罪となった西山美香さん、茨城県布川事件で再審無罪となった桜井昌司さん(故人)の妻の恵子さん、今も再審請求を闘う狭山事件の石川一雄さんと妻の早智子さんなどが駆けつけ袴田巌さんの無罪を訴えた。地裁前歩道には日本弁護士会の再審法改正プロジェクトの皆さんものぼり旗を林立させて参集。10年前に袴田さんの再審開始決定をした村山浩昭元裁判長(現弁護士)の姿も見える。岐阜県弁護士会は再審無罪と書かれた垂れ幕を模したタオルを集会参加者に配った。
 昼食休憩後、西門橋の上では午後2時からの判決公判へ向けてトラックの荷台を利用したステージの設営が始まった。
 午後1時過ぎ、袴田ひで子さん、弁護団の入廷に向けて支援団体による送り出し・激励行動が地裁前歩道を埋め尽くして行われる。公判時間が近づくにつれ緊張がいやがうえにも高まる。地裁上空には数機の取材ヘリが飛ぶ。周辺は病院・学校・幼稚園などがあり、判決に合わせて大きな音を出すことは差し控えて、「無罪判決」が出されたら万歳三唱し、直ちに静岡地検へ「控訴をするな」の要請行動を申し合わせた。
 午後2時の公判開始と判決を固唾を呑んで待った午後2時3分、傍聴していたメディアを通じて「無罪判決」が伝えられる。地裁前にどよめきと「万歳三唱」の喜びの声が上がった。支援団体は「控訴をするな」のボードをもって直ちに検察庁へ向かう。一部は、午後半ばからの映画上映と記者会見場設営に向かう。
 2時から始まった判決公判は4時に閉廷、傍聴者が次々と出てくる。地裁前の報道陣がにわかに動き出した。地裁前に「無罪判決」と「証拠の捏造を認める」の垂れ幕を掲げて弁護団とひで子さんが満面の笑みをたたえてあらわれた。橋上での集会のステージにひで子さんが登る。「無罪判決」を祝して花束が贈られる。

5点の衣類を含む三つの証拠捏造を断罪

 判決公判で国井裁判長は、袴田さんを有罪とした三つの証拠の捏造を認めた。①確定判決が唯一任意性を認めた検察官作成の「自白調書」②事件から1年2カ月後に現場近くの工場みそタンクから見つかった血染めの「5点の衣類」③袴田さんの実家から発見されたズボンの共布。
 国井裁判長は①について、検察官が清水署で警察官と代わる代わる虚偽を交えて追及的な取り調べを繰り返していたと指摘。連携によって非人道的に獲得されたとして「実質的な捏造」とした。
 袴田さんの自白調書45通のうち44通が任意性がないとして証拠から排除されていたが起訴当日付の検察官調書1通のみ採用した経緯がある。再審判決では1日平均12時間にのぼる警察官の取り調べについて、取調室での排尿、弁護士接見の盗聴も含め「黙秘権を実質的に侵害し、肉体的、精神的苦痛を与えた」と厳しく断罪。
 その上で検察官の取り調べも地続きだとして、起訴当日調書も「強制や拷問、脅迫による自白」で任意性はなく、実質的には「自白の捏造」と捉えた。
 弁護団の一員の田中薫弁護士は以前から捏造された自白で捏造証拠が作られた点に触れ、「捏造された自白が無実を証明する」と述べていた。
 最大の争点であった②犯行着衣とされた「5点の衣類」は、弁護団をはじめとする各種みそ漬け実験や、長期間みそに漬けた血痕の赤みが黒褐色化することを示した化学鑑定や法医学者らの証言を踏まえて「発見の近い時期に捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がなされ、タンク内に隠された」と再審決定をした静岡地裁判決、東京高裁差戻審判決に比してさらに踏み込んで「証拠の捏造」を明確にした。
 検察は静岡地裁での再審開始を決定づけた東京高裁差戻審に併行して静岡地検内で1年2カ月にわたるみそ漬け実験を行った。結果は、血痕の赤色が残らず黒褐色化したことは記憶に新しい。
 ③については、押収経緯にも検察官の立証活動にも「看過できない不合理」があると指摘。捜索前に捜査機関が持ち込んだと考えるしか説明できず「捏造と認めるのが相当」とした。検察官は共布が見つかる前の段階で、5点の衣類を「犯行着衣」と証拠請求していたと指摘。実際に実家から共布が出てきたのはその翌日であり、母親に事情聴取する前にもかかわらず犯行着衣をパジャマから5点の衣類に冒頭陳述を変更していたことにも着目した。こうした3つの捏造された証拠を否定し、その他の証拠では「袴田さんを犯人と認めることはできない」と結論した。
 判決後、午後5時半から近くの会場で記者会見が行われた。袴田ひで子さんは会見の中で無罪判決を聞いた時、自然に涙がわいてきて1時間も止まらなかったと述べ「やっと冤罪を晴らせた。58年間の苦労なんてふっとんじゃった」とも述べた。 会見の中で間弁護士は捜査機関が血痕を付けるなど加工し、タンクに隠匿したとする踏み込んだ判決について「弁護側の主張がほぼそのまま受け入れられ、ほぼ完勝」とも述べた。 小川秀世主任弁護人は「捜査機関の犯罪も含めて問題を明らかにできる部分がまだ残っている」として国家賠償請求訴訟を検討する考えを示した。記者会見はおよそ1時間に及んだ。
 弁護団記者会見に続き日弁連の記者会見が行われた。日弁連会長の渕上玲子会長は、「『袴田事件』の再審無罪を受けて、検察官に対して速やかな上訴権放棄を求めるとともに、政府及び国会に対して改めて死刑制度の廃止と再審法の速やかな改正を求める会長声明」を発した。支援団体並びに弁護団は10月10日まで連日にわたって検察による上訴権放棄を訴える要請行動や判決報告集会を計画している。「無罪判決」によって自由への扉が開いたが検察の控訴によって無罪が確定しないことを絶対に許してはならない。      (S)

袴田巌さん再審無罪判決後、弁護団記者会見(9.26)

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