10.20リニア新幹線はなぜトラブル続きなのか

リニア市民ネット大阪・学習会

 【大阪】10月20日、リニア市民ネット・大阪主催の「第22回リニア勉強会in大阪」が開催された。

開業は早くても2034年以降

 JR東海のリニア中央新幹線計画は当初「東京・名古屋間2027年開業」としていたが、今年3月に「開業は早くても2034年以降」と見通しを変更した。今回の勉強会ではその事情について、早くから地元の岐阜県をはじめ各地の沿線で起こっていることや住民の声を丹念に取材してきたフリー・ジャーナリストの井澤宏明さんと、各地の住民運動と連携しながらリニア新幹線計画が失敗することを単行本や雑誌で精力的に訴えてきた樫田秀樹さんの報告を受けて、これからの運動の方向について活発な議論が交わされた。
 冒頭に、主催者を代表して春日直樹さんが「リニア市民ネット・大阪の活動9年目に入っているが、裁判闘争等での交流を通じて沿線各地の運動がつながり、工事の問題点も次第に明らかになり、ようやく工事を止められるという希望を語れるようになった。残念なことに、当初から市民ネット大阪の活動を支えてきた千葉武さんが10月4日に癌のため逝去された。本日の学習会にはリニア訴訟の原告団長の川村さんや、東京で外環道の大深度地下工事に反対し陥没事故の被害住民を支援してきた籠谷さんなど各地の仲間もオンライン参加している」と報告し、報告者の井澤さんと樫田さんがこの間の運動の中で担ってきた役割について紹介した。

当初から指摘されていた水枯れ

 井澤さんはリニア沿線の岐阜県瑞浪(みずなみ)市大湫(おおくて)町でのリニア工事に伴う共同水源や井戸、ため池の水枯れ・水位低下の問題と、トンネル工事残土の処分地として予定されている同県御嵩(みたけ)町の用地に環境省によって重要湿地(生物多様性の観点から重要度の高い湿地)に指定されている「美佐野ハナノキ湿地群」が含まれることが判明したという問題について、自身の取材で得た証言と映像によって詳細に説明した。
 水枯れの問題や残土処理の問題は当初から指摘されており、JR東海も認識していたにもかかわらず、JR東海は県や地元自治体に何の説明もせず、県もJR東海に説明を求めることもなかった。今年2月ごろから実際に水枯れが確認され、地元住民が工事中止を求めたが、県はJR東海の工事続行を黙認した。どちらのケースでも地元紙や「サンデー毎日」などの大手メディアが取り上げるようになってから、ようやく県と地元自治体でも再検討が始まっているが、工事の続行を前提とした再検討にとどまっている。住民の生活環境について住民の声を反映させるためには、メディアと自治体の役割が大きい。

マスメディアは報道を回避

 樫田さんはまず、「リニア新幹線計画は問題だらけなのにまだ止まっていないのは、メディアが報道していないからだ。当初から現地を取材して伝えている記者やジャーナリストは井澤さんや私を含めて全国で数人しかいない」と指摘した。
 現実にはJR東海は当初の計画を変更し、「開業は早くても2034年以降」と言い出しているが、2034年以降のいつになるかは不明である。第二期工事(名古屋・大阪間)はいつ着工になるかも不明、断念する可能性が高い。
 JR東海は米国でもワシントンDC・ボストン間(65キロ)を15分でつなぐリニア鉄道計画に関与しているが、住民の反対が強く、環境影響調査の段階で中断されている。工事の遅れに伴う収支計画の見直し、工事費の高騰を考えれば、JR東海にとっても経営難に陥るリスクが高まっている。
 2027年開業というのは当初から無理な計画であり、ずさんな環境影響評価の結果、次々と問題が明らかになり工事は大幅に遅れている。JR東海と大手メディアはリニア建設が遅れているのは静岡県の川勝知事が抵抗しているからだと言ってきたが、実際には沿線のすべての県で工事は遅れており、駅舎や残土処分地など用地確保すら完了していない中での見切り発車である。
 収支計画については、JR東海の甘めの試算ですら投資に見合った収益は得られない。むしろJR東海の経営を圧迫し、最終的に巨額な赤字を国庫から補填せざるを得ないことも想定される。そのような事態を回避できるかどうかは、早い段階で計画を中断させることができるかどうかにかかっている。

リニア新幹線は止められる

 後半の自由討論では、最初にリニア中央新幹線と北陸新幹線の沿線となる枚方市で毎月行っている街頭宣伝と「リニアカフェ」についての報告と、隣接の交野(かたの)市での動きについての情報提供があった。交野市の山本市長(無所属、元大阪維新の市会議員)が北陸新幹線の新大阪延伸計画について、トンネル工事に伴う生活用水への影響に懸念を表明し、事業主体である鉄道運輸機構に対して情報開示を求めており、住民の間で連携した動きを作ろうという相談が始まっている。また、「リニアも北陸新幹線も多くの断層と交差するが、南海トラフ地震をはじめとする大小の地震が確実に予想される中で、そもそも巨大な地下トンネルを作ることがありえない」、「大深度地下の工事で道路や家屋の陥没など事故が全国で多発しているが、関西ではあまり関心が広がっていないのでは」、「沿線の長野県大熊町の友人によると、残土運搬用のダンプで静かな生活環境が脅かされているだけでなく、運転手の人員不足により過酷な労働になっており、事故の危険が増している」、「報告や議論を聞いて、リニア新幹線計画を止めることが可能だと感じられるようになった。そのことを多くの人に伝えるためにいろいろな工夫をしていくことが大事」など活発なやり取りがあった。参加人数は約35人、ほかにオンライン参加が約10人。
(文責・大阪支局A)
 

工事の問題点が次々と明らかになる

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