9・13大垣警察市民監視違憲訴訟勝利判決
公安政治警察の違法捜査を許さない陣形の強化を
公安警察の違法性を認定
9月13日、名古屋高裁(長谷川恭弘裁判長)は、大垣警察市民監視違憲訴訟(公安政治警察によるプライバシー侵害事件)の控訴審判決があり、一審・岐阜地裁判決を変更し、公安警察の個人情報収集を「違法」と認定し住民4人の原告が要求していた満額の計440万円の賠償とともに、住民の情報の抹消も命じた。
岐阜県は、「上告審で当方の主張を十分に立証することは困難であると判断した」として上告しなかった。
大垣警察市民監視違憲訴訟の原告・弁護団・大垣警察市民監視違憲訴訟の勝利をめざす 「もの言う」自由を守る会原告は、判決の意義を以下のように確認している。
①判決は、「市民運動はむしろ推奨されるべきもの」とまで言及し、おかしいことはおかしいと声を上げる市民を励まし、力を与えてくれる画期的な判決である。
②本件の法律上の責任は岐阜県にあるが、公安警察の制度から考えれば、国(警察庁)自身も、市民の情報収集活動に関して、違法な収集・保有と違法な利用を行っていたことが裁判所から断罪され、賠償責任まで認められたことを重く受け止めるべきである。
③情報の抹消について、「抹消しました」という一片の通知で終わらせる訳にはいかない。抹消した事実の確認方法などを含めて、我々との間で真摯な協議がなされるべきである。原告団・弁護団は、この点について、警察庁及び岐阜県警に協議を申し入れる予定である。
④公安警察による原告ら一般市民の情報収集活動のみならず、その利用によって市民間への分断を図る活動を行っていたことも裁判所は憲法の立場から厳しく断罪していることに鑑みれば、賠償責任を果たすことは勿論、原告ら被害者に対し責任者による真剣な謝罪が行われるべきである。
⑤名古屋高裁判決は、警察法を根拠にした情報収集活動を行うのであれば、その目的、必要性を警察側が具体的に主張・立証しなければならないとした。これは、今後、同種の情報収集・保有・利用に関して、公安警察に対して、具体的な収集・保有・利用の目的・必要性や態様についての立証責任があることを前提に活動する際の枷をはめたものと考えられる。これまでのような「公共の安全と秩序の維持」のための活動だから幅広い裁量があるというような恣意的な運用はできないものと覚悟しなければならない。
反弾圧・公安政治警察解体の取り組みにとって勝ち取られた判決は共有化すべきであろう。
事件の概要と裁判闘争
あらためて大垣警察市民監視事件をふりかえりつつ、高裁判決を検証していきたい。
事件の概要はこうだ。
2005年頃から中部電力の子会社であるシーテック社が岐阜県大垣市に風力発電施設計画を進めていたが、風力発電による低周波被害などの不安を感じて地元市民が勉強会を開始し、それを大垣警察署警備課の公安が監視し、反対運動つぶしのためにシーテック社に情報提供と弾圧のための誘導を強行していた事件だ。
事件発覚は、朝日新聞(名古屋本社版/2014年7月24日)がシーテック社の内部文書を入手し、「岐阜県警が個人情報漏洩 風力発電反対派らの学歴・病歴」という見出しでスクープ報道。入手した文書の議事録は、風力発電反対運動つぶしのために公安がシーテック社を指導しているやりとりが明記されていた。また、反対派住民の脱原発運動、平和運動活動歴、学歴、病歴などの個人情報などを提供していた。
住民は、名古屋地裁に「議事録」の証拠保全を申し立て(16年2月4日)、「議事録」を入手し全容が明らかになった。公安は、大垣警察署にシーテック社を呼びつけ、「勉強会の主催者であるA氏やB氏が風力発電にかかわらず、自然に手を入れる行為自体に反対する人物であることをご存じか」、「今後、過激なメンバーが岐阜に応援に入ることが考えられる。身に危険を感じた場合は、すぐに110番してください」などと危機を煽り、事件化にむけて着手していた。
住民は、地方公務員法違反の刑事告発を行ったが、岐阜県警は「通常の警察業務の一環だ」(14年11月)と居直った。また、参議院内閣委員会(2015年)で警察庁警備局長は、「公共の安全と秩序の維持の観点から関心を有し、必要に応じて関係事業者と意見交換を行っております。そういうことが通常行っている警察の業務の一環だということでございます」と答弁し、公安の違法行為を合法だと断定した。
このような警察権力の手前勝手な暴挙に対して住民は、岐阜県を被告として国家賠償請求訴訟を名古屋地裁に提訴した(16年12月)。住民は、①公権力の行使の違法性 ②プライバシー侵害 ③個人に関する情報なしに収集・管理・提供されない自由の侵害(憲法13条) ④表現行為人格権の侵害(憲法21条1項、13条) ⑤表現の自由の侵害(憲法21条)を争点にして裁判闘争を開始した。
また、原告4人の「個人情報を抹消せよ」という個人情報抹消請求を追加提訴(18年1月)した。
違法捜査を認めた岐阜地裁
22年2月21日、岐阜地方裁判所民事第2部(鳥居俊一裁判長)は、大垣警察市民監視違憲訴訟(公安政治警察によるプライバシー侵害事件)の原告4人の損害賠償請求を認め、岐阜県に220万円の支払いを命じた。しかし国と県に対する個人情報抹消請求は、「保有している原告らの情報が特定されていない」として不当却下した。県は、3月9日、控訴した。
地裁判決は、公安の情報収集活動を合法とし、住民のプライバシー侵害に対して違法と判断した。住民の被害の訴えに対してバランスをとったと言える。
だが公安の情報収集に対して、「原告らの活動が市民運動に発展した場合、抽象的には公共の安全と秩序の維持を害するような事態に発展する危険性はないとはいえない」から「万が一の事態に備えて日頃から原告らに関する情報収集等をする必要性があったことは否定できない」などと強調し公安防衛を押し出していた。
公安を断罪する名古屋高裁
しかし高裁判決は、地裁判断に対してつぎのように変更した。
①「結局は、市民運動全てを危険視して、その情報を収集して監視する必要があるもということになってしまうのである。市民運動やその萌芽の段階にあるものを際限なくして危険視して、情報収集し、監視を続けるということが、憲法(21条1項)による集会・結社・表現の自由等の保障に反することは明らかであり、一審被告県の上記主張は失当というほかない。また、企業や公共団体が行う事業に反対する場合、その事業が不当なもので、反対することが正当なものであればあるほど、一時的な炎上にとどまらず、着実に市民運動に発展して、拡大していく可能性が高くなるのであり、そうすると、一審被告県の主張によれば反対運動が正当なものであればあるほど捜査機関の情報収集及び監視の対象になってしまうのであり、少なくとも大垣警察及び岐阜県警に関する限り、実際にもそうである可能性が高い。
そして、一審被告県は、個別的、具体的な主張立証せずに、上記のような一般的、抽象的な主張を繰り返しているだけであるが、そもそも市民運動が広がれば違法行為や近隣住民らとのトラブルが発生するとの経験則はないのであり、その意味でも一審被告県の主張は失当である」と批判した。
過日、岐阜県警は公安の違法行為を「通常の警察業務の一環だ」(14年11月)と述べ、さらに参議院内閣委員会(2015年)で警察庁警備局長は、「公共の安全と秩序の維持の観点から関心を有し、必要に応じて関係事業者と意見交換を行っております。そういうことが通常行っている警察の業務の一環だということでございます」と答弁し、合法だと居直っていた。警察庁・公安政治警察よ! 高裁判決の厳しい批判に対してどのように返答するのだ。
判決はプライバシーの侵害に対して次のような判断をした。
「大垣警察の警察官らは、上記のような要保護性の高い個人情報を含む一審原告らの情報を、一審原告らの活動を妨害して、シーテック社の本件風力発電事業の推進を援助するために、シーテック社に対して情報交換の機会を設けることを積極的に提案して、継続的に情報提供を続けたものであり、このような個人情報の提供行為のみに着目しても、非常に悪質である」と指弾している。
ここまで言われても岐阜県警は、「引き続き、法令に基づき、不偏不党かつ公平中立に職務に邁進する」などと強がってみせるしかない。 原告の「公安警察の活動のどこに問題があったのか、原因はどこにあったのか、警察庁と政府が問い直して公表し、警察の民主化のための法的統制の議論をすべきだ」という批判にどのように答えるのか。まじめに考えろ! 判決の公安警察に対する批判はまっとうであり、当然だ。原告弁護団は「警察による特定個人の情報収集を違法と認めたのは全国初」と評価している。
大垣警察市民監視違憲訴訟勝利判決を全国的に共有化し、公安政治警察の違法捜査を許さない陣形を強化、拡大していこう。
(遠山裕樹)
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