書評「ルポ 低賃金」─「労働組合が労働者を組織しないと社会は崩壊する」
東海林智 著 地平社/1980円
東海林智著「ルポ 低賃金」を読んだ。
東海林氏は週刊東洋経済誌のインタビューに「本書を執筆したのは、『新時代の日本的経営』(1995年:日経連)に反撃の狼煙を上げるためだ」と述べている。
本書は「特殊詐欺」から始まり、「個人請負」、「若者漂流」、「アマゾン宅配労災―偽装フリーランス」と続き、「無期転換の嘆き―ヤマト運輸のシングルマザー」では必死に生き抜いているシングルマザーを浮かび上がらせる。
そして、そごう・西武労働者の「61年ぶりのストライキ」、「非正規公務員」、「時給101円―持続不可能な日本の農」と農業の実態に迫る。そして最後に、「雨宮処凛 × 東海林 智」の対談で締めくくる。
これまでの東海林氏のルポ同様、インタビューの相手に寄り添い、その人が直面している現実に向き合いながら、なぜこうなったのか、自分には何ができるのかを自問しながら、「物語」は展開していく。「氷山の一角」という言葉がある。しかし、氏が描き出した「ルポ 低賃金」の実態は、「氷山の一角」ではなく、多くの労働者の日常生活として拡大していることを示してくれる。
労働組合の現実と課題に立ち向かう
11月1日に、フリーランス新法が施行された。「労働法の適用や保護を受けない働き方」、つまり、「残業代を払う必要がない」「労災の補償をする必要がない」「いつでも解雇できる」そして、「雇用主が社会保険料を負担する必要がない」という働き方を、政府・資本が積極的に推進していこうとしていることは明らかだ。
しかし、こうした法律が施行される背景には、フリーランスに対して一方的な契約打切りや不当なダンピング、あらゆる種類のハラスメントが横行し、不当な低賃金で働かされているという現実が反映されてもいる。10月18日に発表された公正取引委員会の調査によると、「十分な協議なく報酬額が決められた(買いたたきなど)」と回答したフリーランス側が対象の7割近くを占めるなど、新法で違法となり得る行為が横行する実態が浮かんでいる。
「こうした事態に対応できるのは労働組合しかない」という東海林氏の結論ははっきりしている。しかし、労働組合の現実と東海林氏が描き出した現実の労働者との乖離に、東海林氏自身が立ちすくみ地団太を踏んでいるように感じる。私たちは、この狭間に立っている。
東海林氏のメッセージ
そして、東海林氏は次のような言葉で本を締めくくった。
「最後に、年越し派遣村を共に担い、現場で新自由主義に抗ってきた、いずれも故人となった井上久(全労連)、寺間誠治(同)、安部誠(労働運動家)、遠藤一郎(全労協)の各氏に、本書を中間報告として捧げます」。 (山本匡史)

週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社