読書案内「『沖縄報告』─辺野古・高江10年間の記録」
沖本裕司著 柘植書房新社、3000円+税
沖縄在住の沖本裕司さんが昨年12月に「『沖縄報告』―辺野古・高江10年間の記録」を柘植書房新社から発行した。本書は3部構成。第1部、辺野古・高江をはじめ沖縄の闘いのあと、第2部、韓国・台湾などの国境を越えた交流と連帯の動きをまとめたもの、第3部、米日両国により軍事植民地とされている沖縄の解放へ向けた論考からなっている。
現場の闘いに
立ち続けて
407ページという長大なものだが、100枚を超す写真が添えられているので、その時々の動きが目の前で展開しているような緊張感を持てる。那覇市長を4期も続けてきた「保守派」の翁長雄志さんが辺野古新基地建設反対を掲げて沖縄県知事に当選してから、前仲井真知事の辺野古新基地建設の埋立承認を取り消して、闘う新たな段階に入った。本書は、基地建設を強引に進める日本政府と闘う県民・民衆の攻防が決定的に始まった10年を記録している。
沖本さんは辺野古などのゲートの現場やカヌーでの海上阻止行動に共に立ち続けてこの記録を書き、週刊「かけはし」に投稿し、闘いを全国に広げるために活動してきた。沖本さんの報告は、闘いの現場だけでなく、その時々の沖縄で行われてきたさまざまな課題の講演会などが報告されている。
そして、この報告はブログ『呆け天残日録』、『ヒロシマ通信』、月刊『反戦情報』などにも掲載され、広がっているという。
どのような闘いでも運動の高揚期と困難期を抱えて持続的に闘わなければならないということがある。沖縄での闘いもその連続であり、それでもなおかつ、人々の闘う力によって、権力の横暴を跳ね返してきた。そのためには、第2部の国際的な連帯の動きをどう作っていくのか、それと繋がっている第3部での「沖縄解放」に向けた戦略的な思考が大事だ。沖本さんはずっとそうした観点から沖縄闘争に関わって発信している。
この点でも沖本さんは「観念的」ではなく実践の人だ。
民主的で平和な
東アジアを求めて
第2部で圧巻なのは、香港で中国政府による一国二制度をつぶしていくことに抵抗して、「民主的で自由な香港」を求めて決起した100万人の闘いに参加し、肌でその闘いと連帯した記録、台湾・香港・韓国・沖縄を結ぶ民衆的で、民主的、平和な東アジアを求める交流を体験したことだ。
そして、それに留まらず日本のアジア・中国侵略戦争という負の遺産がどうだったのかを南京大虐殺の現場を歩き、地元の中国人の人たちとの交流を今も行っていることだ。さらに、それのみでなく、本書では省略されているが、かけはし「沖縄報告」では、毎回のように、「県内市町村の中国での戦争体験記を読む 日本軍による戦争の赤裸々な描写」。中国戦線で日本人(沖縄出身者)が何をしたのかの聞き語りを紹介してきたことだ。「沖縄報告」が単なる現場闘争報告・日誌にならずに、歴史的な重みを持っている。
アジアのインター
ナショナルを
第2部で触れられていることを少し紹介したい。
第2部 2. 東シナ海・平和の海キャンプ。2016年第3回台湾に参加して。
「韓国、台湾、沖縄のほか、フィリピン、ドイツ、カナダなどから50人以上の参加。韓国の活動家層は若いが、台湾はそれ以上だ。民主化闘争の歴史的蓄積と反核、反政府運動の中で、伸び伸びとして活気あふれた若者たちが平和キャンプのスタッフの中心を担った。アジア諸国の連帯の動きは今後も進んでいくだろう。支配者のアジアに対する住民の自己決定権と平和を求める闘いを担う人々の結束が強まっていくという確信を持った」(320頁)。
第4回目は石垣島キャンプだったが、その後台湾金門島にも行っている。中国大陸と少ししか離れていなく、かつては大砲が打ち込まれた地だ。「金門島の人々は中台の紛争を望んでいない。島の人々は自己決定権を自覚し主張する。島の運命を決めるのは島の住民だ。中国に従属したくないし、台湾の一部ではあると言ってもあくまで金門は金門だ」(327頁)。
第2部の3で、「香港の自治と民主主義」として、香港の民主化闘争(2019年7月1日)、55万人のデモに参加した時のことを書いている。香港の「無国界社運」の集まりで、沖縄報告を行ったこと、沖縄でも県庁前で香港連帯キャンペーンがやられていること、沖縄と香港が中央政府の強権により自治と民主主義が踏みにじられている状況が同じだとの共感がある。
「沖縄県民が日米両政府に県民の民意を聞き届けて欲しいと強く願っているように、香港の人々は中国政府と中国の国民に香港人の民意を聞き届けて欲しいと切実に願っている」。
「強大な国家権力、中国政府と香港行政府に対峙し果敢に抵抗する香港の人々を固く支持し連帯しよう」。
「東アジアの国々は国家権力を掌握し人民を抑圧する支配者の姿が国によって違っても、支配抑圧を受けているものとして、人々は国境を越えて、平和と人権を共通の価値観として互いの行き来を頻繁にし、互いの言葉と文化を学び、互いに結びつき連帯を強めなければならない。アジアのインターナショナルを実践しよう!」(333頁)。
「沖縄の自己決定権」
が意味すること
第3部。沖縄の自立と解放をめざして。
2014年の翁長県政の成立と埋立承認取消、2016年3月に代執行裁判での「和解」成立と工事中止。参院選沖縄選挙区で伊波さんが圧勝し、沖縄のすべての衆参選挙区で基地反対派が占めることになる。
翁長さんは、「道州制」をイメージする。
「独立論をどう思うか」との問いに「独立よりもやはり道州制を沖縄でまずつくるというのはどうか。日本国の一員としてもっと日本に資するところはある。本土の側に包容力と愛情があればそのように生かしていけるが、今は沖縄を要塞としてしか考えていない」。
新城俊昭沖大客員教授は次のように提言している。
「沖縄とその他の日本本土との二つの対等の構成国による日本国連邦というのが、沖縄と日本の将来のあるべき姿、これが沖縄のアイデンティティだ」。
「沖縄自治政府はもはや一地方自治体の沖縄県ではない。県知事は自治政府首相、県議会は自治議会となって、日本本土の政治的束縛から離れる。沖縄自治政府は日本本土から支配され置き去りにされてきた負の歴史の清算に取り組むだろう」(380頁)。
その後、翁長知事の死去と、玉城デニー知事の誕生。司法は政府の埋め立て申し立てを次々と認め、辺野古での基地建設のために埋め立てが行われることになり、激しい攻防が続いている。
沖本さんは次のように提起する。
3―6 沖縄闘争のさらなる飛躍を。4.沖縄が直面する戦略的課題(2021年12月20日)。
①沖縄から自決権を問う。「独立か自治かという自決権を行使するのは沖縄県民である。2019年の県民投票を経て広く主張されるようになった『沖縄の自己決定権』は、幅広い概念であるが、政治的自立のための重要な萌芽である。……あらゆる選挙、調査によって示されている沖縄県民の多数の意思は一貫して、「本土復帰・基地撤去」に沿っている。沖縄が日本に属しながら、日本の一部としてありながら、中央政府を改革し沖縄独自の力を強化しながら、基地を無くしていくという方針なのである」。
②沖縄から国際主義を問う。「アジア各国人民の交流・提携・連帯が計られ言葉と文化を学び、それぞれの闘いを互いに知り交流し連帯し、アジアの共同体へ向けた一大運動をつくり上げていくことが、100年前の極東民族大会の精神を受け継ぐ21世紀の我々の課題である」(398頁)。
沖本さんは戦略的課題を、「米軍基地撤去、自衛隊配備を許さない闘い」の実践を通して、それは東アジアの人々の共に勝ち取っていく展望を持って実現していかなければならないと提起する。。そうしたことを具体的にイメージさせてくれる貴重な本として「沖縄報告」がある。ぜひ、購読してほしい。
そして、2月15日に沖本さんの「沖縄報告」出版紀念講演会が予定されています。ぜひ、こちらにも参加してください。
(滝)

オール沖縄会議の県民大行動に750人 (24年11.2辺野古ゲート前)
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