9条が世界に輝くとき(5)

たじま よしお

 何故今、中国民衆の反日感情、関東大震災の朝鮮人大虐殺か。それはしばらく前に私は「中国はどういう社会制なのか」について「かけはし」に掲載していただき、その後多分中国の方から「日本人にだけは立派なことを言ってほしくない」という言葉が聞こえてきました。私に向けた発言ではありませんでしたが、すっかり考え込んでしまいました。かつての戦争でアジアの人々そして世界中に天皇の軍隊は何をしたのか、そのことを胸に刻んでものを言えというメッセージなのではないか。それで以下のような文章を綴ることになったのです。

中国民衆の
 反日感情について

 「蘇州(中国江蘇省)時事」によれば、在上海日本総領事館によると、中国江蘇省蘇州市で6月24日午後(日本時間同)、日本人学校のスクールバスを出迎えていた日本人の母子が中国人とみられる男に刃物で襲われ、負傷した。病院で治療を受けているが、命に別条はないという。スクールバスに乗っていた案内係の中国人女性、胡友平さんは切り付けられ死亡したという。当局は男を拘束し、取り調べている。男の動機は明らかになっていない。母子は下校送迎中のスクールバスをバス停で待っていた。負傷した子供は未就学の男児という。蘇州は上海市に近く、多数の日本企業が進出。現場は市街地で、日本人ら外国人駐在員が多く住んでいる。
 6月24日の蘇州での殺傷事件に続いて9月18日には深圳で「小学生男児襲撃事件」が起きています。事件が起こった9月18日は、「盧溝橋事件(1931年9月18日勃発)の屈辱を忘れてはならない」という意味で「国恥の日(国辱の日)」と呼ばれる。反日・仇日情緒が高まる特別な日で、毎年各地で記念イベントが開催される。
 また「犯行日」は、旧日本軍による731部隊の生体実験などの「戦争犯罪」を暴くとする映画「731」の予告編が公開された日でもあった。被害の状況について目撃情報によると、男児Aは腹部や大腿部をめった刺しに刺され、内臓が露出していたという。
 母親の手は血まみれになり、「うちの子がなにか悪いことをしたの?助けて」と中国語で叫んでいたとされる。
男はその場で逮捕された。午前8時5分に救急車が到着し、男児Aは8時15分病院に搬送され、多くの専門家らが協力して治療に当たったが、19日(午前1時36分)、男児Aは死亡した。犯行現場の、深圳日本人学校の門前には、「暴力反対、平和万歳」と書かれた花束などが献花された。

 以上が蘇州事件と深?事件の概要ですが、なんとも痛ましく気の滅入る話です。これらの事件については、四半世紀にわたって中国で取材活動をしてきた朝日新聞記者の吉岡桂子さんが、その背景についても、「月刊世界12月号」に、文章を寄せていますのでその抜粋を紹介しながら考えてみたいと思います。

日本人学校男児殺害事件( 月刊「世界」)吉岡桂子


 中国社会ではコロナ禍以降、無差別殺傷事件に対する警戒が高まっている。刃物を持った男性が地下鉄、路上やショッピングセンター、幼稚園や学校、病院を襲う事件が相次いでいるからだ。上海に住む小学生の男児を持つ知人は「富裕層の子供を狙った誘拐や殺人が増えていると聞く。全てが報じられているとは思えず、余計に心配だ。車で送迎する家族も少なくない」と話す。
 背景にはまず、中国経済の失速がある。国内総生産(GDP)が10%前後の勢いで成長していた時代は遠く過ぎ去った。不動産バブルがはじけ、コロナ禍以降も地方都市を中心に回復力に乏しい。2024年は経済成長目標の5%達成できるかおぼつかない。
 若年層(16~24歳、大学生を除く)の失業率は20%近い。「中国政府が示す数字だけみても5人に1人が職を求めても得られずにいる状況だ」「労働組合も官製で、労働者が声を上げる機会は閉ざされている。経済力もなく、社会的立場もなく、政治に訴える力も持たない、つまり失うものがない弱者の不満はどこに向かうのか。彼らの一部が、自分よりさらに弱い子供や病人を狙って引き起こす暴力事件『献忠」』は中国社会の病理そのものと言える」

 ただ、日本人学校へ通う児童を標的にして蘇州、深圳と続いて発生した事件は、この「病理」だけでは到底説明できない。他にも多くの外国人が通う学校があるなかで、なぜ日本人だったのか。直接には、日本人学校を「スパイ養成機関」などとするデマが近年、中国のインターネット上に流布し、悪感情が向けられていた。
 北京の日本大使館は繰り返し、事実に反する表現の削除を求めていたが、中国当局は放置していた」「深圳の事件が起きたのは9月18日。1931年同日、旧日本軍が南満州鉄道(満鉄)の線路を爆破し、中国東北部占領のきっかけにした柳条湖事件の日だ。盧溝橋事件(7月7日)、南京大虐殺事件(12月13日)の日などと並んで日本に反発するナショナリズムが高まる。現地の日本企業は人々の感情を刺激しないように、新車の発表会など大勢が集まるイベントや祝い事を避けるようにしている。(深圳の事件が起きたのは)そんな特別の日だった」「さらに日本への批判や反発だけでなく『仇日』という報復をあおる中国内の言論は、日本と対抗するにあたって時には『民意』として政治的に用いることもできる。中国政府にとって、反日感情の暴走は厄介だが管理できる範囲では外交の道具となる。こうした官民の空気は、強くなった中国の弱者にとって、他の国よりも日本を報復として攻撃すれば『英雄』になりうると思い込むきっかけにならないとも限らない。むろん、中国の人々のなかにも、こうした中国政府の姿勢に批判的な人はたくさんいる。深圳の事件現場には『仇日教育(日本に報復する教育)』を批判する手紙が添えられた花束も手向けられていた。事件後日本を訪問した中国人研究者は「私も一人の母親として犯人を許せない」と憤っていた。同時に日本が中国を侵略した歴史は事実だ。日本社会は記憶し、反省し、その過程を検証し、将来の平和の礎となるよう若い世代に伝えていかなけれがならない」(つづく)

週刊かけはし

購読料
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009  新時代社