1.25女川原発控訴審判決「報告&講演会」
「上告断念」の思いを各地の勝利に託す
災害列島に原発はいらない
海渡雄一弁護士を招いて
【宮城】女川原発再稼働差止訴訟原告団は1月25日、石巻市防災センターにて控訴審判決の「報告&講演会」を開催した。海渡雄一弁護士((脱原発弁護団全国連絡会・共同代表)を招き、裁判経過と判決の意義について議論し、原告団の解散と今後も続く活動の継続を確認した。
講演は小野寺信一弁護団長の「控訴審判決報告と解説」、海渡雄一弁護士による「全国情勢と女川原発再稼働差止訴訟判決の意義と限界」だった。
(判決と上告に関する原告団、弁護団の声明は、本紙新年号の記事を参照していただきたい)。
「名誉ある撤退」に込めた思い
仙台高裁は昨年11月27日、石巻市民16名が避難計画の実効性を争点にし、東北電力を相手に求めていた女川原発再稼働差止訴訟に対して、請求棄却の判決を言い渡した。原告団は「上告断念は苦渋の選択、名誉ある撤退」「危険な原発の運転を止めるために頑張る」と声明を発し、この「報告と講演」の集会を準備した。JR石巻駅前の会場にはリモートを含め80人以上の参加者が集まった。
原伸雄原告団長は冒頭、全国から寄せられた支援と激励によって、仮処分裁判から本訴訟まで6年にわたる裁判を闘い抜くことができたと振り返った。また、避難計画の実効性を争点にすることに着眼し、訴訟での論争を牽引してきたと弁護団に感謝した。支援者たちや地元記者たちにも感謝を述べた。
再稼働は止められなかったが、訴訟を通して「避難計画に不備があれば、原発差止要件になる」という判断基準を引き出した。この成果を全国の闘いに活かして欲しい。原団長はそのように16名の原告団の思いを代弁した。
「さかのぼって20年間にわたる女川原発裁判が闘われた。先人たちの女川原発反対運動の歩みがあった。私たちは、決断した選択を全国に届け、女川の思いを各地の原発裁判の勝利に託したい」と述べ、活発な運動を展開してきた原告団を讃えた。
避難計画と原発運転に関する判断
基準を示した仙台高裁判決
小野寺信一弁護団長は「控訴審判決と解説」と題し、報告した。
本訴訟の特徴は、再稼働が迫るなか「短期決戦が可能」で「科学論争を回避できる」「住民の調査と常識で不備を判断できる」「情報公開と質問書で不備を暴ける」ことであったとし、2021年3月18日の水戸地裁判決(避難計画が不備として東海第二原発運転差止を認めた判決)が、後押しとなったと述べた。
「避難計画の不備」についていろいろな点を挙げたが、最終段階では「避難時検査場所を開設できないこと」「避難バスの確保と配備ができないこと」に絞って、避難計画が破綻したことを立証してきた。東北電力はこれに正面から反論せず、原告側に事故が起きる具体的危険の主張・立証を求め、国のお墨付きがあるとした反論だけであったと訴訟を解説した。
控訴審では、裁判所が避難計画の実効性に踏み込むことを表明して審理が進んだが、裁判長の退官や最高裁の圧力を感じる裁判官の交替もあり、判決直前まで一審判決と同様の判断が示されるのではないかと思われた。判決は請求を棄却したが、しかし、予想に反して避難計画と原発運転に関する「判断基準」まで示したことは大きいと話した。上告は、脱原発弁護団全国連絡会と協議して断念したことが報告された。
「裁判所に原発が危険であるかをどう説得するかが重要」
海渡雄一弁護士が「全国情勢と女川原発再稼働差止訴訟判決の意義と限界」と題して講演した。
冒頭、帰還困難地域の病院、特別養護老人ホーム、小学校や民家など「福島原発事故の今」が映しだされた。つづいて「GX3法とエネルギー計画」、「息を吹き返した原子力ムラ」の現状、岸田政権による「歴史的な裏切り」がどのように進み、石破政権に引き継がれたのか、大震災以降の流れを追った。
女川原発訴訟を考えるうえでの参考として、東海第二・水戸地裁判決と島根二号・広島高裁松江支部決定に関して説明があった。
東海第二では、原発が最悪の場合には破滅的な事故につながること、他の科学技術の利用に伴う事故とは質的に違うことを裁判所に認めさせた。島根二号では、逆に、規制委員会の判断は合理的で、裁判所は規制委員会の判断に従えば良いとして、住民の立証を切り捨て、原発の本質を裁判官に認識させられなかった。
海渡弁護士は大震災以降の各地の裁判事例を紹介し、「原子力技術のもつ本質的な危険性を認識できているか?」、裁判所に原発の危険性を認識させることが重要だと提起した。
「女川控訴審判決の意義と限界」
仙台高裁の控訴審判決はどうか。「原発は重大な危害をもたらしうる特異な施設と認め、避難計画の不備は、人格権侵害の具体的危険性があると事実上推定される」。「事故を起こせば、身体に危害を及ぼし、危険性を有する特異な施設」だから「リスクを顕在化させないために関係法令で規制している」と原発の危険性を認め、「避難計画に定める防護措置が、適切に講じられていないときは、原子炉施設の有する危険が顕在化する蓋然性が高く、人の生命・身体に係る人格権が違法に侵害される具体的危険があると事実上推定されると考えられる」とまで判断している。
第五層=避難計画について司法判断を回避する判決が続いている中で、これを明確に認めたことは画期的である。
東海第二控訴審の裁判所が、島根原発二号機(広島高裁松江支部)の仮処分決定に沿った判決をしてはならないという歯止めとなったといえると述べ、仙台高裁の判決を活かし、東海第二の控訴審で必ず勝訴し、女川の原告の皆さんにご恩返しをしたいと述べた。
一方、女川控訴審判決の限界として、裁判所が「深層防護」について、五つの障壁(※)の「独立性」を否定したと指摘した。「それぞれが補足し合い効果が上がれば良い」とした裁判所の判断を、「各々の障壁が独立して有効に機能することを、全く理解していない」と批判した。
二つ目の限界として、事故が予測不可能なのに「控訴人らに予測不可能な立証を求めている点」で、これは重大な誤りである。
避難の場所の開設についても、判決は「臨機応変にやればできる」と楽観的な見通しを述べて、控訴人らの主張を退けていること、バス輸送の確保ができないことについては「これを認めるに足りる証拠はない」と判断したことなどをあげ、原告は十分に主張し、立証してきたがこれを無視したと指摘した。
そのうえで、「しかし、最高裁・上告審は高裁の事実認定を覆すことはできない。この間違いを糺すには上告ではなく、別訴を提起すること」が可能であり、女川原告団による上告断念は、同じ争点で闘っている東海第二や、伊方などの訴訟への「連帯の意思表示」として重く受け止め、これからの闘いにこの貴重な決定を活かしていきたいと述べた。
「第二の破局を私たちは止められるか」
海渡弁護士は「裁判所と裁判官」をテーマにさらに話を進めた。裁判官がしばしば行う不合理な解釈や誤った判断はどのようにもたらされるのか。その背景に何があるのか。一方、原告の訴えを認め、画期的な判決をくだす裁判官たちはどうか。
「NHKの朝ドラ『虎に翼』の中で、桂場最高裁長官は『公害被害で苦しんで助けられるべき人は、速やかに助ける。それが、司法の力であるべきだ』と述べた」。それがフィクションではないと理解するために、公害訴訟などの例をあげ「絶望することなく、流れを逆転させよう」と訴えた。
海渡弁護士は、石巻での講演で話したかったことを次のようにまとめた。(講演の副題は「災害列島の原発に迫る第二の破局を私たちは止められるか」だった)
①福島原発事故の被害を忘れるな。
②福島原発事故が東電と国の過失によって起きたことを忘れるな。
③原子力ムラが事故時に決定的な事実を隠ぺいしたことを忘れるな。
④原発GX法とエネルギー基本計画は福島原発事故を忘却した愚かな政策であり、これに賛成するものは次の原発事故を招き寄せた責任を負う。
⑤事故の最も深刻な被害者であるこども甲状腺ガンにり患した若者たちと共に闘おう。
⑥原発汚染水を海に放出するな。
また海渡弁護士は能登半島地震の現場を説明した。半島の外海一帯で「予測外」の大規模な沿岸隆起が起きた。〈自然を恐れよ!〉、それがこの地震の教訓であり、日本列島の沿岸部に立地している原発は「次の事故を引き起こす高い蓋然性がある」。
会場との質疑応答を終え、乾式貯蔵施設建設に反対する取り組みの訴えに続いて、最後に原告団副団長が閉会のあいさつを行なった。2号機の再稼働に続いて、東北電力は3号機の再稼働を公言している。「住民被ばくは避けられない。だから廃炉まで闘いをつづけねばならない。政府の原発推進を座視してはならない」と締めくくった。
司会は「エネルギー新法に関するパブリックコメントの締め切りがせまっている、一人でも多くの人が反対の言葉を書きこみ送ってほしい」と呼びかけ、閉会を告げた。 (m)
※五つの障壁(深層防護)
第1の防護レベル:異常の発生の防止
第2の防護レベル:異常発生時におけるその拡大の防止
第3の防護レベル:異常拡大時におけるその影響の緩和シビアアクシデントの発展の防止
第4の防護レベル:シビアアクシデントに至った場合におけるその影響の緩和
第5の防護レベル:放射性物質が大量に放出された場合における放射線影響の緩和
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