1.25袴田事件無罪判決報告集会
裁判の争点毎に成果点検
刑訴法改正と国賠請求訴訟残る課題
当初の目的達成を全体で確認
【静岡】1966年6月30日に静岡市清水区横砂で起きた味噌製造会社一家4人殺害事件で再審無罪が確定した袴田巌さん(88)の事件の地元支援団体である「袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会」が1月25日、「無罪判決報告集会」を開いた。
姉のひで子さんと会の代表が感謝を述べる
集会に出席した姉の袴田ひで子さんは、無罪が確定したことで、事件以降で初めて「ゆっくり正月を味わうことができた」と話した。「皆さんのご支援のおかげで58年にわたる闘いで再審無罪が確定した」こと、また東京弁護士会から半世紀以上にわたる弟の救援活動で再審無罪を勝ちとり、冤罪に苦しむ人や家族に希望を与えたとして「人権賞」を授与されたことを報告し、併せて感謝を述べた。
集会を主催した「袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会」の楳田民夫代表は、「袴田
巌さんを救援する当初の目的を達したことから本集会をもって会を解散する」こと、「長期にわたるみなさんの支援に感謝を致します」と述べた。
小川秀世弁護団事務局長が報告
支援運動と世論の力が控訴を断念させた
主任弁護人で弁護団事務局長の小川秀世弁護士からは、確定した無罪判決の内容と評価について5点にわたる問題点と検察の控訴断念の理由、再審法の改正や違法捜査の根絶へ向けた具体的な改善点について提起された。
1.「無罪」は当然であること。
⑴再審請求審で決着がついていた。⑵「捜査機関による捏造」が指摘されていた。①2014年3月27日の村山判決 ②2023年3月13日の差戻審高裁判決
2.捜査段階(「無法地帯」)で行われた多くの証拠捏造行為の可能性の無視 ①雨合羽 ②金袋 ③混合油 ④パジャマ 血染めのパジャマといった嘘、鑑定結果は鑑定不能だったにもかかわらずA型とAB型が出たとの虚偽鑑定
3.裁判所の責任を不問にした判決 これまでの裁判所の認定の誤りを極力隠蔽した判決
4.真実に目を背けた判決 ①被害者が1人も逃げ出していない②隣人が全く気付かず③犯人との格闘の痕なし(拘束されて刃物で刺された可能性の痕跡)④被害者宅への侵入方法の疑問⑤物色されていず、金品が残されていた⑥一人で被害者宅に入る強盗は考えられないこと
5.無罪確定までに長期間要した原因は ―捜査機関の多くの違法行為を無視した裁判経過
6.控訴断念の理由 支援運動・マスコミの報道といった世論の力
7.必要な制度改革 ①再審制度の改革 ②捜査手続きの無法地帯化の改革 録画や可視化
再審開始が決定した前川彰司さん
警察・検察・裁判所・報道機関の責任は大きい
集会には1986年福井市で起きた女子中学生殺害事件で再審開始が決定した前川彰司さん(懲役7年を服役)が出席、前日に浜松の袴田さんを訪問、巌さんから贈られた帽子をかぶり登壇した。
名古屋高裁金沢支部での第2次再審請求審において、昨年10月23日に再審開始決定があり、検察が異議申し立てせず再審が確定。再審公判へ向けた三者協議で検察は新証拠を提出しない考えを示し、再審初公判は3月に開き、即日結審することが決まった。前川さんの再審無罪の可能性が高まった。
前川さんは、この日の集会前に清水区横砂の事件現場を訪れ、近隣の住民とも言葉を交わしたこと、会話の詳細は言葉を濁し語らなかったが「ショックを受けた」と話した。「冤罪は無罪になれば終わるかといえば、必ずしもそうではない。一度疑われれば十字架を背負わなければならない」とも述べた。事件現場訪問時に無罪が確定したにもかかわらず「心無い言葉」が発せられたことがうかがわれる発言だった。
前川さんは、警察、検察、報道機関や裁判所の責任は大きいと述べ、刑事訴訟法の再審に関する規定(再審法)の1日も早い改正を訴えた。
※福井市女子中学生殺人事件とは
1986年3月19日に福井県福井市の中学3年女子生徒が自宅で殺害された事件で前川彰司さんが逮捕された。前川さんは一貫して容疑を否認、90年、一審の福井地裁は無罪を言い渡す。検察の控訴によって名古屋高裁金沢支部は95年、懲役7年の逆転有罪判決を下す。97年最高裁は審理もせず上告を棄却、刑が確定し収監された。03年3月6日に刑期を終え出所。04年7月15日に名古屋高裁金沢支部に第1次再審請求。11年11月30日に再審決定。異議審の名古屋高裁が再審開始を取り消す。14年12月10日、最高裁が特別抗告棄却。22年10月14日、名古屋高裁金沢支部に第2次再審請求。24年10月23日、再審開始決定。同28日、検察は異議申し立てせず再審が確定。12月11日、再審公判へ向けた第1回三者協議で検察は新証拠を提出しない考えを示す。再審初公判は来年3月に開き即日結審することで一致。前川さんが再審無罪となる可能性が高まった。

前川彰司さん
山崎俊樹事務局長の総括の提起
目標達成のための情熱に支えられて
市民の会の山崎俊樹事務局長からは2003年12月6日の「袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会」の結成から1月25日に至る21年余の活動報告と運動の総括提起がされた。
会結成に至る紆余曲折やその後の会運営における幾多の混乱・軋轢・齟齬はあったものの特筆すべきは長期にわたる困難な裁判に光明を見出すこととなった「みそ漬け実験」を考え出したことだ。「みそに漬けられた衣類の血痕は黒褐色化する」総括文には「市民目線で理解しやすい新証拠」と記されている。検察は高裁差し戻審時に自らが行った実験でも同様の結果となった。検察は否定しようとすれば「墓穴を掘る」ことになる。それは2024年3月27日の第12回再審公判で決定的となった。
この日は証人尋問の最終日で検察側・弁護側双方の証人5人全員に同時に尋ねる「対質」が行われた時だ。弁護側証人の3人は専門的知見を踏まえて赤みは失われて黒褐色化するとあらためて証言。検察側証人の池田氏(九州大名誉教授)は「20日間で黒くなるのは当たり前」と述べ、赤みがある状態で発見されたことを重ねて聞かれると「(発見の)直前に(タンクに)入れられた」との見方を示した。
つまり事件発生から1年2カ月後の直前にタンクに入れられたと捏造を示唆する証言だった。検察にとっては自らが用意した証人に完膚なきまでに打ちのめされることとなった。
証拠認定された唯一の自白調書、ズボンの共布の3点が袴田さんによる殺害証拠とされてきたものでそのいずれもが捜査機関による「捏造」と認定され、その他の証拠(小川弁護士指摘の2の①から④やくぐり戸、くり小刀といった証拠)のいずれも袴田さんを有罪と指してはいないとした。以上が総括の核心部分だ。
長期に渡った運動の進め方等についての総括は、日常活動に対する責任感や困難であっても対話を繰り返す姿勢や掲げた目標を達成するための情熱といったことだろう。
いずれにしても「袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会」は目的を達したのでその役割を終えた。残された課題はいくつもある。 第一には刑事訴訟法第4編(再審法)の改正だ。(再審決定時の検察による控訴権の禁止) 捜査段階で収集した証拠の全面開示、捜査、取り調べの全面的録音・可視化、自白強要の人質司法を改めること、死刑制度の廃止である。
そして何よりも身体拘束47年にわたる刑事補償であり、提起されるであろう国家賠償請求訴訟である。 (S)
週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社