3・2第23回リニア勉強会・大阪
リニアが南アルプスの生き物の今を奪う
【大阪】3月2日、リニア市民ネット大阪主催の第23回リニア勉強会が大阪ボランティア協会で開催された。講演は登山家で、南アルプスの豊かな自然と生き物の命を奪うリニア新幹線計画の中止を訴えてきた服部隆さん(静岡県在住)。昨年7月に服部さんが他の4人の登山仲間と共に、リニア新幹線の工事による重大な生態系破壊が心配される南アルプス大井川源流部を調査・記録した時に撮影した映像も含めて、予定時間を大幅に超える渾身の訴えに圧倒され、まだ余韻が残っている。
冒頭に主催団体を代表して春日直樹さんが、結成十年目に入ったリニア市民ネット大阪のこれまでの活動を振り返りながら、「当初から指摘されていたトンネル工事のさまざまな問題が現実になっている」として沿線地域での水枯れや残土処理などの現況に触れ、「すぐに中止するしかない、工事が進んでからでは取り返しのつかないことになる」と訴えた。
トンネル工事の現場に「腹に穴をあけられるような思い」
次に登壇した服部さんは、「都会に来ることはあまりないので緊張している」と静かに話し始めた。リニア中央新幹線の問題に関わり始めたのは七年ほど前。南アルプスの真下にトンネルを掘るというのは恐ろしい計画で、水と森と生き物たち(人間もその一員)が長い年月をかけて育み作り上げてきた生態系、環境を壊し、生き物が生存できなくなる。ある登山仲間は「腹に穴をあけられるような思いだ」と言っている。工事のごく初期の段階ですでに水源が枯れ、生き物の生活の場が失われていることが判明しているのにJRは住民の声を無視し、現地の調査さえおざなりで、「専門家」の机上の計算だけを根拠に「影響は大きくない」、「大丈夫」としか言わない。自分も「腹に穴をあけられるような思い」だ。
人間中心の考え方が豊かな生態系に取り返しのつかない破壊をもたらしている
大井川の源流域には、聖岳・赤石岳・荒川岳・悪沢岳・塩見岳・農鳥岳・間ノ岳など三千メートル級の山が並んでいるが、予備的な工事が進んでいる長野県大鹿村は比較的低い平坦な土地でトンネル工事に適しているとして選ばれた。南アルプスが三つのプレートの接する位置にあり、多くの断層があることなどおかまいなし。人口も少ない。だからJRにとっては「ごみの捨て場」でしかない。地元や下流の住民にとっては水源であり、洪水から守る調整の仕組みとなっている。しかしJRにとっては工事の障害物であり、残土処理のために利用できる用地でしかない。
JRが環境調査や安全調査を委ねた専門家たちは工事予定地を視察したこともない。だから工事の影響は数字でしか考えられない。それもあらかじめ与えられた結論を補強するための数字でしかない。リニア工事で何が失われるのかを誰も知らない。それなら自分たちで現地を歩いて、沿線の住民に知らせようということで昨年七月二〇日から二二日まで、服部さんの発案で大井川源流にあたる西俣支流の蛇抜沢(じゃぬけさわ)を遡行することとなった。
自分たちの未来と希望
服部さんの報告の後半で披露された動画はこの時の記録。
南アルプスはプレートの境にあたる部分が隆起してできた山地だが、その痕跡がはっきり残されている地層・岩石、ひっそりと咲く花、動物の生活の形跡、そして豊かな水流、天鏡池、一つ一つの風景に深い感動を覚えた服部さんのナレーションと共に見る映像に、この自然を愛し、その中で生きることが自分たちの未来につながるのだという強い思いが伝わる。
JRとの折衝や県当局とのやりとりを重ねる傍ら、リニア・ストップ訴訟(現在、東京高裁で控訴審)の原告団にも加わり、各地での交流や講演も重ねている。今は裁判で勝つのは難しいが、この裁判を南アルプスのすべての生き物の権利を主張するための「代理裁判」の一歩と位置付けている。
近年ニュージーランドや北欧で、先住民族の運動に触発されて「自然の権利」という考え方が裁判制度にも取り入れられるようになっている。人間中心の考え方を変えないと人間の生きる環境が貧弱になるばかりだ。
自然体験教室での高校生との対話で未来への希望が見えてきた
講演の最後に、昨年11月に愛知県の黄楊野(つげの)高校の自然体験教室「グレートアース」の一環として依頼された「リニア新幹線の光と影二〇二四」というテーマの授業について話した。
生徒25人を相手に三時間ほどの対話の中で、リニア新幹線についてほとんど関心がなかった高校生たちが、真剣に考えて自分の感想・意見を話すようになった。一人一人の短いメッセージを集めて一つの詩ができた。
「命が生まれるところ/命を育むところ/すべての命が生きているところ/すべての命が死んでいくところ/ホシガラスの誕生/ライチョウの遊び場/ツキノワグマの寝床/イヌワシの夫婦/ホンドリスの食卓/カモシカの便所/たくさんの命が生まれるところ/いろんな命が生きていて、綺麗なところ/いろんなものが巡ってくるところ/・・・地球の未来が託されている/すべての命の源、壊すな/綺麗なゴミムシが輝いている/南アルプスを守って死ぬのが大人の責任/これからをつくるのは私たち」。
この高校生たちの感性、可能性、そこに未来への希望がある。
質疑と討論
休憩の後、質疑と討論。
「大阪や大都市での運動が弱い」という感想、「日本の自然保護団体はどうしているのか」という質問に、後援団体の熊森協会の代表からは「まともに自然保護に取り組んでいる団体は熊森協会ぐらいだ」と厳しい指摘。
JRが関与している米国でのリニア鉄道計画についての質問には春日さんが、地元での反対運動が頑張っていて、環境影響調査の段階で止まっており、事業を請け負っている企業が財政難で撤退するなど、先行き不明だと説明した。
東京、神奈川、岡山からの参加者も発言した。
最後に主催者から、北陸新幹線の新大阪延伸計画の沿線にあたる枚方市で月一回開催している「リニアカフェ」と、月一回大阪市内で開催しているミーティングの案内と、運動を広げるためにいろんなアイデアを出し合っていこうという呼びかけ。参加者は会場が四〇人余、オンライン参加が約二〇人だった。
(文責・大阪支局A)

熱く語る服部隆さん(3.2)
週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社