斎藤兵庫県知事をめぐって問われていることは?
2.13「デマと脅迫から民主主義を守る」集い
百条委員会を守る市民の会 兵庫
【大阪】県政に関わってきた3人の職員・議員の命が犠牲になり、県民を分裂させ、県政を混乱に陥れてきた斉藤知事の強権的・独裁的な手法に多くの人々が民主主義の危機を感じている。斉藤知事による一連の不適切な行為や違法行為を調査する百条委員会(県議会調査特別委員会)での調査が進み、結論の取りまとめに入っている中で、2月13日に尼崎市で「デマと脅迫から民主主義を守る」集いが開催された。主催は「百条委員会を守る市民の会」。会場後方に報道各社のカメラが陣取り、200人余参加者で大ホールはぎっしり。
司会の都築徳昭さん(尼崎市議)による経過報告と酒井一さん(元尼崎市議)による主催者あいさつに続いて、津久井進さん(弁護士)の講演、百条委員会の委員である庄本えつこさん(共産党)、丸尾まきさん(無所属、緑の党グリーンズジャパン)、北上あきひとさん(ひょうご県民連合)の三人による報告、いずれも口惜しさと怒り、危機感があふれ、闘いはこれからという決意に満ちた発言だった。
津久井進さんの講演
「ウェブ・ポピュリズム」の背景と県政、民主主義の危機
津久井さんは昨年10─11月県知事選挙で無所属の稲村和美候補(元尼崎市長)を支援する「ともにつくる兵庫みらいの会」の共同世話人として、また稲村さんの後援会が選挙妨害(選挙期間中にSNSのアカウントが不当に凍結された)に対して起こした訴訟の原告代理人として、斉藤陣営やそれに同調する者たちからの悪質な脅迫・迷惑行為・SNSでの誹謗中傷の標的とされてきた。
この日の報告では、「……今日はそういう個人的な怒りは抑えて、斉藤知事や立花孝志に同調する人たちの『ウェブ・ポピュリズム』の背景と、それがもたらしている県政の危機、民主主義の危機について話したい」と前置きした。
初めに昨年3月に当時の西播磨県民局長(同年7月に自殺)による内部告発が行われてからの経過、斉藤氏の驚くべき人権感覚について、そして昨年9月の議会での不信任決議の可決(全会一致)から知事選挙に至る経過と知事選で何が起こったのかを丁寧に説明した。地元の人たちには周知のことだろうが、メディアの報道だけでは断片的にしかわからないことが、やっと、すっきりと頭に入った(詳しくは『地平』1月号の津久井進「兵庫県民の選択─ウェブ・ポピュリズムの台頭」を参照されたい)。
今回の選挙は斉藤県政を支えてきた維新と自民の両方が内部に分裂を抱えて候補を一本化できないという事情があり、「県民本位の県政を」と訴える稲村和美さんが保守層からの支持もあり優勢が伝えられていた。ところが選挙戦の終盤に入って、メディアの調査で斉藤氏への支持が急激に拡大していることが報じられ、特に立花によって煽られた同調者たちによるSNSでの稲村さんへの悪質なデマが勢いを増していた。
津久井さんはSNS上でのこのような動きについて「……甘く見ていた。これが反省点だ。本来、県政の混乱をどうするのかという選択だったにも関わらず、斉藤知事への不信任が謀略だったという悪質なデマ(デマであることは一つ一つ証明されていても、そのたびに新たなデマが流布され、ますます議論が荒廃する)に投票行為が左右される。勝てば何をやってもよいという雰囲気が広がっている。若者の投票率が上がり、その多くが斉藤票だったと推定される。SNSはわれわれも活用すべきだし、SNS自体が悪いのではない。問題は、なぜデマが投票行為を左右するほどまで受け入れられてきたのか、ということだ。そこには若者たちが感じている閉塞感、未来がないという感覚、民主主義を諦めて自分たちの未来を強いリーダーに委ねるという考え方があるのだろうと指摘する。
この流れは昨年の東京都知事選での石丸現象、衆議院選挙での国民民主党の躍進、米国大統領選挙におけるトランプ現象とも通じており、明らかにそうした国内的・国際的な状況の影響が大きいと考えられる。これは私たちが大事にしたい民主主義、事実・真実への挑戦であり、警告である。だからここが頑張りどころだ。
津久井さんは最後に2014年11月に刊行された絵本『二番目の悪者』の一部を朗読し、この絵本で金のライオン(善良なライオン)と銀のライオン(強欲で権力欲が強いライオン)と周りの動物たちの行動を通じて描かれている悲劇(金のライオンを悪者に仕立てる銀のライオンの巧みなデマによって、動物たちが銀のライオンを王に選んでしまう)が、まさに現在を予見しているかのようだと指摘し、そうならないように、デマに負けない力を作っていこうと結んだ。
庄本さんの報告
百条委員会の委員からの報告では、まず庄本さんが百条委員会での調査と結論には重みがあり、虚偽の証言をすれば処罰を受ける、兵庫県で設置されるのは52年ぶりだと述べ、委員会での争点、各会派の立場、今後の展開について詳しく解説した。
斉藤県政については「民間活力」の活用という名目で大型開発への支出を増やし、40項目に及ぶ公共サービスや公共施設への支出削減を進めてきたことを批判してきたが、県立大無償化(24年度から順次、県内在住者の授業料と入学金を無償とする)など評価できる点もある。しかし問われているのは斉藤県政の評価ではなく内部告発に基づいて調査が始まっている問題についての事実の解明である。県庁や県議会では知事をかばう人たちもいるが、事実の解明を積み重ねていくことで追い詰めていくという決意を述べた。
丸尾さんの報告
丸尾さんは「斉藤知事追い落としの謀略の黒幕の一人」と名指しされ、「公職選挙法違反」などのデマ情報や、丸尾さんの発言の一部を切り取って改竄した動画が流されるなど、SNS上でスケープゴートのような扱いを受けてきた。ピーク時は連日30件もの脅迫電話、宅配便を使った嫌がらせ……丸尾さんはその過酷な経験を想い起こしながら、「今がそのような社会状況の限界点だろう。多様な意見をつぶしていくことで社会はおかしくなっていく。対話が大事で、斉藤知事を支持している人たちとも対話をしていきたい。今が踏ん張りどころだ」と述べた。
北上さんの報告
北上さんは百条委員会のメンバーだった竹内英明議員(昨年11月、知事選投開票日の翌日に議員を辞職、1月18日に自殺)が生前、「弱い者いじめを許さない」、「理不尽に抵抗するのが議員の使命」と語っていたことに触れ、百条委員会を攻撃する人たちが竹内さんを貶めるような発言を繰り返していることに憤りを表した。
3人の発言の後、百条委員会の証人尋問の映像(抜粋)、会場からの質問と応答。
両輪の闘い
大雑把にまとめれば、百条委員会や裁判がどういう結論になるかはわからないし、どちらの結論が出たとしてもそれで終わるわけではない。議会や裁判所での闘いと地域での闘いの両輪で可能性を広げていくことが課題ということだろう。
(文責・大阪支局A)

津久井進さん
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