2.23全労協25春闘討論集会・低賃金の介護現場から問う
訪問介護は崩壊の危機だ!
【東京】2月23日、全労協は会場の神明生き生きプラザと全国をオンラインで結んで25春闘討論集会を開催した。テーマは介護。賃上げの気運が盛んに囃し立てられている25春闘だが、実際は取り残されている労働者が膨大にいる。その代表のひとつが介護労働の現場と言える。なぜそうなのか、その打開に必要なことは、それらを介護労働の実情の中から共有し春闘の全体につなげることがめざされた。重要な課題でありながら春闘報道で見逃されている現状に光を当てる挑戦だ。
集会では、全国一般ケアワーカーズユニオンの但馬けいこさんが「訪問介護崩壊の危機・低賃金の介護現場から問う」と題した問題提起を行い、全国一般ふくしま連帯ユニオンの佐藤昌子さん(ホームヘルパー国賠訴訟原告)、全国一般東京南部、全国一般ケアワーカーズユニオン山紀会支部、全国一般ケアワーカーズユニオン愛仁会支部が現場報告を行った。
低賃金が制度化される仕組み
但馬さんは現実を端的に示す図表も添えた資料を用意し、先ず介護労働の性格から説き起こし、介護保険制度が崩壊の瀬戸際にある実態、特に訪問介護の危機、最後に闘いの方向性、と話を進めた。
そこで問題の第1点として、介護労働者の賃金が、政府の決定に規定され低賃金が制度的に埋め込まれる仕組みになっていることが指摘された。たとえば、介護サービス価格(介護報酬)が公定価格であることが典型であり、その他人員配置などさまざまを厚労省が決定している。それゆえ構造的に個別労使関係で賃金を上げることが難しい。
現実に、介護労働者の税込み月収が介護部門全職種平均で24万円強であるのに対し、全産業平均賃金が33万円強という対比(2023年調査)も示された。したがってその打開のためには、悪徳事業者と闘うだけではなく、政府と保険者(市町村)に責任をとらせる闘いが必須になる。
第2点として理念の変質もある。具体的には、当初の約束であった「障がい者や高齢者の当事者主権の尊重」の放棄、社会保障切り下げ・財政投入圧縮と一体化したケア労働の、ケア対象者に対する管理・監視への転換だ。機械化、ロボット化のかけ声の背後にはこの後者の変質があることも指摘された。
そして先のことの結果が、「介護保険20年」の経過として、負担増、給付劣悪化、報酬引き下げ、倒産増、保険料引き上げ、とまとめられた。またその根底には、低賃金・過酷な労働条件による深刻な担い手不足が厳然とあることも指摘された。たとえば介護職員の求人倍率はヘルパーの場合、2013年の3・29が2022年には15・53に跳ね上がっているのだ。
さらに特に強調されたのは、介護保険崩壊の危機というのは、自己負担でふんだんにサービスを買うことのできる富裕層にとってではなく、貧しい者にとっての危機、保険料を払ってもサービスを利用できなくなる危機(介護難民!)ということだった。
その危機を最も明確に示すのが第3点の、訪問介護が事実上潰されそうになっているという重大問題。昨年訪問介護報酬が引き下げられ、在宅介護の「命綱」だった、特に地域密着の小規模事業が追い詰められている。ヘルパー処遇の劣悪さを含むその深刻さは、この後の佐藤昌子さんの報告でも生々しく語られた。ヘルパー処遇の劣悪化では、政府が進めた訪問介護サービスの短時間化・細切れ化といういわばウーバー労働化が拍車をかけているという。
結果として担い手不足と担い手の高齢化も相俟って、事業の持続が危うくなっている。現に倒産が広がり、但馬さんは、2024年6月時点で訪問介護事業所ゼロの自治体が96にもなっていると示したが、事態はさら深刻さを増し、1月10日の「赤旗」は、先の数字が同年末には107まで増大、と報じた。
さらに但馬さんは、この介護報酬切り下げを口実に、大規模事業者で労組潰しのため事業毎清算しようとの動きまで出ていることを報告した。後の現場報告の社会医療法人・山紀会の事例だ。
ところが政府は、2027年度の制度改正に向けすでに議論を開始し、制度の劣悪化をさらに進めようとしている。但馬さんは、大きな社会的反撃が必要であり、職場での闘いを作り出し、それぞれの組合枠を超えた福祉・介護・医療の業種的連帯、団結に踏み出そう、と先ず呼びかけた。
そして具体的に、①職場に組合をつくり対等労使交渉を実現しよう②政府、財務省、厚生労働省に現場の声をぶつけ、社会保障・福祉を重視する政策を要求しよう③保険者である市町村に対し、介護・福祉事業の運営主体として、利用者・労働者・住民に対して責任を持つよう交渉を行おう④介護労働を管理・監督労働にさせない!利用者・労働者・事業者の協同で公的介護制度崩壊の危機を突破しよう、と提起した。
さらにこれらの方向で進められている具体的な取り組みもいくつか紹介された。たとえば対政府の行動では、昨年11月22日に104団体、126名の賛同の下に、「介護崩壊STOP!対政府交渉実行委」として財務省・厚労省交渉が行われ、今年も対政府交渉準備のため全国実行委が始動している。
我慢の限界を超える
この但馬さんの提起を受け現場報告が問題をさらに掘り下げた。
佐藤昌子さんの報告
最初は佐藤昌子さん。佐藤さんは、ヘルパーの過酷で不合理な条件が訪問介護の消失を招きかねず、厚労省にその責任があるとして国賠訴訟を起こした原告のひとりとして、先ずこの訴訟の経過を説明した上で、昨年2月に最高裁に上告したことを報告した。
その上でホームヘルパーは我慢の限界、厚労省の進める訪問介護では、利用者、ヘルパー共人としての尊厳が踏みにじられていると、その不条理さをさまざまな実例を挙げながら明らかにし、欧州では大規模化・営利化が悲惨な状況を生み出したことから公営化の動きが出ていることも付け加えた。そしてまとめとして、私たちが「人としてどう生きたいか」を考えることが最も大事、そのために力を合わせようと呼びかけた。
全国一般東京南部の報告
全国一般東京南部の仲間は、障害者在宅介護の問題を取り上げ、東京では比較的マシとはいえ、公定価格が強制する劣悪条件など、経営・自治体・政府との間で共通の課題を抱えていることを報告、ケアワーカー連絡会として計画している4月5日のケアデモへの結集を呼びかけた。またひとつの支部で雇い止めに対し闘っていることも報告した。
山紀会支部の報告
山紀会支部からは、先に触れた職場閉鎖との闘いが具体的に説明され、労働委員会による不当労働行為認定をも無視する経営との闘いに向け、全国的な支援が訴えられた。
最後に愛仁会支部が、有数の医療法人で起きている看護士に対するパワハラとの闘いに対する支援を訴えた。
介護保険制度の後退NO
これらの提起は全体で共有され、最後に藤村妙子全労協副議長が、やりがい搾取を許さない闘いを全体で確認したいとまとめ、ケア労働者の問題が25春闘の重要な一部として位置づけられた。
政府が狙う介護保険制度の後退は社会的に大きな問題になる可能性がある。2027年度制度改正への反撃には、「史上最悪の介護保険改悪を許さない会」(上野千鶴子元東大教授などが呼びかけ人)なども積極的に各地で働きかけている(本紙別掲記事参照)。労働運動にも、但馬さんが呼びかけた、介護労働者・当事者・良心的事業者、そしてすべての人々の連帯として横断的な対政府・行政の団結に主体的に挑むことが求められている。「介護崩壊STOP!対政府交渉実行委」の取り組みを全体で押し上げよう。4月5日のケアデモを成功させよう。(神谷)

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