3.14リニア新幹線工事差止訴訟第17回口頭弁論
山本 敦さん(焼津市/農業)が意見陳述
【静岡】3月14日、リニア中央新幹線静岡工区の工事差し止めを求める第17回口頭弁論が静岡地裁で開かれた。公判前には、静岡市の繁華街で街頭宣伝と署名活動が行われ、裁判開始前には地裁前の西門橋上でミニ集会を開催した。
第17回口頭弁論は、焼津市で農業を営む山本敦(つとむ)さんが意見陳述を行った。山本さんはおよそ10年前まで東京で会社勤めをしていたが退職し、故郷の静岡県焼津市に戻り以降農業に従事している。
農業に欠かせない水の問題を入り口に、リニア新幹線の南アルプストンネル建設について陳述した。
いいかげんな水資源の調査と分析
南アルプスに源を発する大井川左岸の河口部に位置する焼津市は大井川の水の恵みに支えられて人々の生活が成り立っていること、それは、焼津市の水道水源の88%が市内各所でくみ上げられる地下水で、残りの18%は広域水道企業団から受けいれる大井川の水であること、焼津は漁業の町であり水産加工業をはじめ、豊富な地下水が得られることから各種製造業も立地し、人々
の生活のみならず生業をも支えている。
JR東海はトンネル建設によって大井川の水量は毎秒2トン減少すると推計を公表しているが年間流量の19億トンと比較すれば(毎秒2トンで1年間に6307万トンであり3・3%に相当)微々たるものと主張する。豊水期と渇水期の流量差が大きい実態を無視したこのような発言を繰り返していること、また下流域の地下水と上流域深部のイオン濃度が異なることについても下流域は中下流域の水に近いことから上流部のトンネル工事による流量棄損が下流域の地下水に影響を与えないとの主張も、限られた調査地点の分析だけでは解明されたとは言えないと述べた。
南アルプスの自然と大井川の水は守れない
リニア新幹線ルート選定にあたって過去の水力エネルギー開発による流量減少とこれに対して今日まで続く「水返せ運動」の歴史や水の資源としての問題だけでなく、流量の維持・改善が課題となっているこの川の水に及ぼす影響を考慮して選定されたものかと疑問を呈し、国際興業最高技術顧問の大島洋志氏のトンネルの路線選定にあたって考えるべきことを引用し次のように述べた。地質調査は路線選定の段階にこそ力を入れるべきで、地質技術者が注意すべき要点は①盆地の直下の横断、河川の下を長く併行するのは極力避ける。②トンネル内の一番高いところが行政区の境になるよう設計し、湧水に関する地域間の争いを避けるべきとしている。
ところがリニア新幹線南アルプストンネルは褶曲山脈の断層・破砕帯をいくつも突破し①大井川の谷合の東俣川をくぐり、その後しばらく西俣川に沿う(併行)ルートをとる。JR東海による地質調査によっても東又沿いの断層部分と西俣の断層周辺の亀裂が発達した地山では、川の流れが地下水を涵養していることが指摘されている。
②トンネルは静岡県に開口部がなく、最高点が長野・静岡県境に近い静岡県内にあり、トンネルのほとんどが山梨県側に下る勾配となるため湧き出す水は山梨県側に流れ下る。ポンプアップして大井川に戻すというが私企業が将来にわたってこれを続けられる保証はない。したがって南アルプストンネルは、これらの留意点を承知したうえで、掘ってはいけないところに計画されていることを明らかにした。先の大島洋志氏は専門誌への寄稿の中でこのトンネル工事はこれまでの日本のトンネル工事で経験の無い地形・地質条件下で格段の難工事となると述べている。JR東海は静岡県の工事許可が下りればあらゆる手段を講じてトンネルの完成を目指すとしている。掘削の妨げになる切羽の湧水を無くすために水抜きボーリングや環境への汚染が心配される各種薬液の地層への注入。これで足りなければ水抜きのために新たなトンネル掘削も否定していない。
これらの工事によっても南アルプス山体から失われる水の量は、疑わしい地質モデルを用いた推計の範囲にとどまると強弁する。ここから言えることは、たとえ環境アセスメントが行われたといっても南アルプスの自然と大井川の水を守ることを保証するものでないことは明らか。
JR東海と国は政策転換を
最後に山本さんはJR東海は、南アルプスの環境と大井川の水への過酷な負荷無くしてトンネル建設は不可能であることを認め建設中止を決断すべきと述べ、また、国(国土交通省)においてJR東海の経営判断を歪める現在の事業支援策を見直し、南アルプスのかけがえのない自然と大井川の命の水を後世に亘って健全な形で守り伝える方向に政策を転換するよう求め陳述を締めくくった。
次回の第18回口頭弁論は6月13日(金)14:30~
(S)

環境破壊のリニア工事を批判する山本敦さん
週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社