11.27女川原発再稼働差止訴訟控訴審判決
住民の運転差止請求を棄却
不当判決許さず闘いつづけよう
【宮城】11月27日14時30分「本件控訴を棄却する」と主文が読み上げられると傍聴席から「ふざけるな~!」と怒りと抗議の声が発せられ「静かにしなさい」と裁判長の声が交差する。一旦静まった法廷で自信のなさそうな声で裁判長の判決要旨の読み上げが15分くらい続いた。その間に、原告二人が「請求棄却、運転差し止め認めず!」の旗を持って法廷から駆け出す。裁判所門前では、傍聴できなかった支援者や市民らが「不当判決糾弾!」「女川原発再稼働を許さないぞ!」と怒りのシュプレヒコールを仙台高裁にたたきつける。判決要旨を読み終え退く裁判長の背中に向かって「福島の教訓を学べ!」という声が飛んだ。
傍聴席約80席に対して100名を超える傍聴者があり、この判決の注目の拡がりが見て取れた。
避難計画が実行性を欠くことは、差止めの要件になる!
避難計画の実効性を争点に闘われてきた女川原発再稼働差止訴訟控訴審判決で仙台高裁は、石巻市民16名が求めていた女川原発2号機運転差止を認めず控訴を棄却した。
裁判長と左陪席の裁判官が途中交代し裁判体が変更されるなかで、避難計画の実効性に全く触れず「門前払い」した一審判決と同様の判断が示されるのではないかと想定していたが、それとは異なり、控訴審第一回期日(進行協議)で前任の裁判長が示した方針︿※﹀(避難計画の内容について審理すること。その判断枠組みは、2022年3月18日水戸地裁と同じである)を維持して避難計画の内容に踏み込んだ。
判決は「避難計画が実効性を欠き、生命・身体に係る人格権が違法に侵害される具体的危険があることを主張立証した場合は、人格権侵害に基づく妨害予防請求として、本件2号機の差止めが認められる」とその「判断基準」を示し、「女川地域原子力防災協議会等の判断の過程で、検討すべき事項が検討されなかったなど、看過し難い過誤や欠落がある場合には、本件避難計画に合理性があるということはできず、人の生命・身体に係る人格権が違法に侵害される具体的危険があると事実上推定されると考えられる」としたのである。
※控訴審第1回期日(進行協議)で示された裁判所の判断枠組み
・福島原発事故後、IAEAの深層防護の徹底を求められるようになり、第5層(避難計画等)が明らかに欠けているなら、1~4層に関係なく、一定地域の住人への人格権侵害が認められる余地がある。
・本件避難計画については、女川地域原子力防災協議会や原子力防災会議で具体的合理的と確認了承されていることも踏まえ、裁判所の審理対象は、このような避難計画の実効性審査につき、原子力災害対策指針に照らして、看過しがたい過誤や欠落があるかを判断することとなる。このような判断枠組みは、水戸地裁判決と同じである。
判断基準を示したものの「運転差止を命ずるに当る控訴人らの立証がない」として請求棄却
しかし、判決は 「避難計画は、原子力災害対策指針に照らし、一応の合理性がある」「原子炉施設の危険が顕在化する蓋然性は抑えられている。」として、控訴人らの主張している『深層防護』については、それぞれの防護措置が独立して効果を上げるものだが「防護レベル全体として効果が期待されればよいもの」と防護レベルの独立性を否定。
「本件避難計画の措置では、防護の効果を上げられない」と控訴人らが主張するのであれば 「一斉避難をしなければならないような放射性物質の異常な放出の具体的な機序や態様を特定するように」と立証不可能なことを求めている。
さらに控訴人が争点を絞った「避難退域時検査場所の開設困難」や「バスの確保が困難」については「事態に応じて臨機応変に決定すればよい」とか、国が発出する避難指示に「輸送手段や経路、避難所の確保などの要素が考慮されている」とか、「バスの確保」についても、控訴人らの提出した証拠、立証を無視して「県とバス協会が協定を締結している」「バス添乗の市職員も避難所まで誘導するものとされている」と断定しており、ここでも「防護の効果が上がらないとする事象が発生する具体的な蓋然性があることの立証」を控訴人らに求めている。
結論として、
「運転再開によって 生じる控訴人らの生命・身体に係る人格権が侵害される危険が運転差止を命じることができるような具体的な危険に当たることの立証があったということはできない。」として控訴人らの請求を棄却したのである。控訴人らの証拠、立証・主張を無視し控訴人を敗訴させるために組み立てられた判断で不当である。
上告を断念
「避難計画が実効性に欠くことは、差止の要件になる」との仙台高裁判決は、避難計画に全く踏み込まなかった門前払いの一審判決と異なり、避難計画に踏み込み「判断基準」を示し注目に値する。
上告すれば、現存の最高裁の状況からして、門前払いの一審判決に戻る可能性を否定できないため、避難計画を争点としている他の訴訟に壊滅的な悪影響を与える可能性があることを捉え、女川訴訟原告団・弁護団は、脱原発弁護団全国連絡会と協議し「苦渋の選択だが上告しないことにした」と発表した。11月27日に示された「判断基準」は、全国の訴訟のなかでも有益であり、活かされることを期待したいとしている。
東北電力は、判決結果に「当社の請求は棄却されるべきとの主張について、丁寧な説明が裁判所にご理解して頂いた結果だ」と避難計画の実効性にまともな主張や控訴人らの主張に反論せず、請求棄却を求めただけだったにもかかわらずこんなコメントを出している。
事故の前に、みんなで止める闘いの継続を!
女川原発は、12月26日からの営業運転を前に、原子炉の起動、停止を繰り返して備えていると広報している。12月4日、原子炉起動を予定していたが「復水器を冷却する海水系統の配管について、塵芥(海藻や貝などのゴミ)によりフィルタ等が詰まっていないか確認を行う作業が手間取った」と12月7日に延期し起動させた。
「確認する作業に手間取り」ということはまさに初歩的なことができていないことであり、本当は「詰まっていてその撤去作業に手間取った」のではないかと不信感が高まる。この間のトラブルや事故等は、被災原発で老朽原発であることの要因が大きい。
西日本で初の沸騰型原発(BWR)の島根原発2号機の原子炉起動が12月7日強行された。自民党の総合エネルギー戦略調査会で「次世代革新炉の新規建設」など原発の建て替え推進を打ち出すよう求め、原発の最大限活用を訴える提言案が示されている。「可能な限り原発依存度を低減する」とした「エネルギー基本計画」の改悪を狙っている。事故で止まる前に、みんなで止めるためにこれからも諦めずに闘い続ける。 (m)
声明文
2024年11月27日女川原発再稼働差止訴訟原告団
同 弁護団
本判決は、避難計画について、全く踏み込まなかった一審判決とは異なり、避難計画の内容に踏み込んだ点は評価できる。しかし、以下の点で不当である。
1 深層防護は,他の防護措置とは独立して効果をあげるべきものであるにもかかわらず、本判決では、複数の防護レベルで全体としての効果が期待されればよい旨の判断をした。かかる判断は、「どれだけ対策を尽くしたとしても事故は起きるものとして考えるというが、防災に対する備えとしての基本である」との規制委員会の判断を否定するものである。
2 続いて、本判決は、第5レベルの防護措置に求められる防護の効果をあげられないというためには、一斉避難をしなければならないような放射性物質の異常な放出の具体的な機序や態様を特定することを求めている。しかし、これでは、予測不可能な事故が起こりうることを無視している。不可能な立証を求めたもので不当である。
3 6頁目以下は、我々が重点を置いて主張した避難場所の開設困難、バス輸送の確保ができないことについて判断したものである。
避難場所の開設困難については要するに臨機応変に決定すればよいとの判断であった。しかし、そもそも我々は、どのような事故であっても開設が困難であると主張・立証してきたのであり、本判決の判断は、証拠を無視した判断であると言わざるを得ない。
バス輸送の確保ができないことはそれを認めるに足りる的確な証拠はないと判断した。しかし、この点は我々は充分に主張、立証してきた。逆に、本判決は、バス協会と協定を締結した、市職員が添乗する旨述べているが、協定の実行不能であること、添乗員の確保が非常に困難であることなどは充分に立証しており、証拠を無視した判断である。
以上
上告に関するコメント
令和6年12月2日
女川原発再稼働差止訴訟原告団
同 弁護団
女川原発再稼働差止訴訟原告団及び同弁護団は、令和6年11月30日の脱原発弁護団全国連絡会との協議の結果、同年11月27日の高裁判決に対し、苦渋の選択ではありますが、上告及び上告受理の申立をしないことを決定しました。
理由は以下のとおりです。
1 本判決は、避難計画に全く踏み込まなかった門前払いの一審判決と異なり、避難計画の内容に踏み込んでいる。避難計画を争点とする他の訴訟も、一審判決と同様の判決を数多く受けている中で、仙台高裁が避難計画の内容に踏み込み、かつ、判断基準まで示して出したことは注目に値し、他の訴訟にとって有益である。
2 上告及び上告受理の申立をすれば、現存の最高裁の状況からして、門前払いの一審判決に戻る可能性を否定できない。その場合、避難者からの訴えを棄却した最高裁の令和4年6月17日福島第一原発事故の国家賠償訴訟に下級審が例外なくひれ伏している状況に鑑み、避難計画を争点としている他の訴訟に壊滅的な悪影響を与える可能性がある。
以上


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